Cheena:今回は元・筋金入りの裏方のネモトさんと楽器改造人・ベーシストの私Cheenaの対談形式でお送りする、指板へのこだわりの話です!
〜プロフィール〜
Cheena:お気に入り指板はインレイ無しのエボニー指板とグレードの低いローズで作ったフレットレス指板。
先端技術から伝統技術まで駆使した楽器を製作したり、改造したり、時々失敗したりしている。 演奏は吹奏楽とジャズが専門。譜面がないと弾けない。→ Cheenaの記事一覧
ネモト:お気に入り指板はラインレス・フレットレスの指板。華麗なインレイも好き。要はシンプルかゴージャスに振り切っているのが好きです。
ベース、PA、リペア、カスタムを経験。ギターはわかりません。無茶振りされまくってきたので色々とゴマかすのが得意。→ ネモトの記事一覧
ネモト:始まりました。フレットレス大好きな人なので、フレットレスとフレッテッドの指板材の立ち位置について語ってみようと思います。
私の8弦はメイプル指板です。でもメイプル指板のフレットレスってほぼないじゃないですか。ローズかエボニーばっかり。なんでなのかなぁ、と考えてみたんですよ。
そしたら木材の物理的な特性によるのが大きいという結論になった。
当たり前だけどフレットレスは弦と指板がぶつかるので、アタック音が材によって変わる。
つまりエボニーだと乾いた硬い音になるけど、メイプルだと少し地味になってしまうのね。つまりスラップには不向きな音になっちゃう。私はスラップできないから別に気にしないけど、売る側からしたら弱点になっちゃうのよね…。
この点はローズも少し不利なんだけど、ジャコという伝説がいるから売れる。
セールス的によろしくないからメイプルはほぼないというわーのが私の結論です。
アタック音は当然ながらコーティングされてるか否か、コートの厚さはどうなのかでも変わってくるのでフレットレス欲しい人は指板に気をつけた方がいいかもしれませんよ。
Cheena:いきなり飛ばしますね(笑)
私はどちらかというとフレッテッドの方が好きなんですが、個人的な意見としては指板は見た目で選んでいいんじゃないかと思っています。あとは整備のしやすさですね。
私は整備性を取ってローズもメイプルもフレットレスのものは塗装済み、ラッカーを使用してコーティングしています。
ネモトさん所持の8弦メイプルフレットレスはポリ塗装、私の4弦メイプルフレットレスはラッカーの擦り込みなんですが、どちらも塗膜のお陰で指板に皮脂が入り込まないし、吸湿もしないからネックが反りづらいし、潤滑剤をたっぷり掛けても問題ないという利点がある。
そういう意味だと私のローズ指板フレッテッドにも薄く塗装をしていて、反り止めや指板割れ防止の効果が確実に出ているのがあります。
塗装以外にも、メイプル指板やその他の薄色の材に染色してエボニーやローズウッド製の指板みたいにするエボナイズという手法もあれば、逆に木材の色を抜くブリーチングもある。 指板って音も見た目も案外自由なんじゃないかな、と。
ネモト:色の変化だとローストメイプルなんかもあるよね。改めて言われると確かに自由度は高いと思う。いい気づきをありがとう。
ネックの強度に関してだけど、はっきり言ってわからない(笑)
というのも、私の場合弾きやすさやネックにかかる負荷を考えて軽いゲージを好んでいるし、所有しているモデルはいずれもそれなりに高価で頑丈なものだ。寒暖計ネックで痛い目を見た事が何度もあるので、そのあたりは大分気を使っています。
Cheena:あとはラインドフレットレスの場合の埋木、あるいはフレットの色みたいなものですかね。
フレットはニッケル、ステンレス、ゴールドぐらいしか選択肢がないですけど、フレットレスなら埋める材によってメイプル、ローズ、エボニーとかの基本的なもの以外に蛍光プラスチックやその他プラ板も使用可能です。
敢えて目立たないようなローズ指板とローズラインの組み合わせはかなり好きですね。埋木もメイプルと組み合わせることによってトップ/サイドインレイのような指標になります。
さっき一瞬話題に上がったジャコ・パストリアスのフレットレスベースはローズ指板にメイプル色のパテで埋め立て、エポキシで塗装してありますね。
ドットインレイは抜かず、元のFenderのジャズベースに似た見た目になっています。
FENDER ( フェンダー ) / Jaco Pastorius Jazz Bass FL 3color Sunburst
ネモト:私も目立たない組み合わせは好きで、メイプル指板だとホワイトパールを合わせたくなるし、ローズ指板だとブラックか、せめてクレイを合わせたいところ。 ジャコモデルは元々の62年製に合わせてあるね。 私は今一つ好きではないけど視認性に優れていて非常に実用的な仕様になってる。
マニアックな話だけど、ジャコモデルのエポキシコーティングの厚さはしっかり計算されていて、本家USフェンダーとコピーモデルはアタック音がちょっと違う。
Cheena:エポキシの厚みもそうですが、硬化具合や木材への浸透性も音に影響します。
私のラッカー指板たちはエポキシ程分厚いわけではないし、よく弾くフレーズの部分だけ削れてもいます。
徹底的にこだわれる所もフレットレス指板の自由度であり、沼でもありますが、ラッカーなどの極薄塗膜は保護の方はほとんどしてくれないし、いわゆるジャコ的フレットレスサウンドも出づらい上にラウンドワウンドなどの押弦で指板に傷が入ることを嫌う奏者も多いのであまり一般的ではありません。
ネモト:勉強になる。この企画やってよかった。
指板の傷は嫌う人多いね。コントラバスのように無傷で外して交換できるような構造じゃないから仕方ないけど。私もフラットワウンド弦張ろうか悩んだりしている。モネルでできた弦はフラットでも結構ブライトな音がするしテンションも緩めだから大丈夫かなあ、と。
Cheena:それと時々言われるのが、インレイが音に影響するという話。
指板を削って接着剤で貝やセルロイド、珍しいものでは金などの貴金属を埋め込んでいるわけですけど、重量バランスが変わる、柔軟な接着剤が振動を吸収しているなどの理由で大型のインレイを忌避する人も少数ながらいるようです。
実際に音に影響があるかは分かりませんが、ここも見た目や機能以外での理由でのこだわりポイントになっていますね。
ネモト:ワーウィックのド派手なドラゴンインレイのストリーマーとドットインレイのストリーマー(両方ともカスタムショップ)を試奏したことがあるけど、個体差は一般的な振り幅を超えるようには感じなかったかな。私の考えだと人の耳でわからない違いなら変わらないと同じ。機械で計測すればもちろん違うだろうし、私の耳はあまり良くないというのもあるけどそこに関しては眉唾かな。あくまで私論であって、理論上変化が生じるのは間違いないからそういう考えを否定するつもりはないよ。
大型のインレイに関しては何より高いという…。
知り合いがオーダーしたワーウィック(蜘蛛、ヘ音記号等。LEDで光る)だと確かインレイだけで50万くらいしてた。それでも良心的な値段なのよね。
Cheena:オーダーインレイはジュエリーソーで切りだしたり全部手作業ですし、LEDともなればネック内部に電装することになりますからね。
レーザーカッターやCNCを使うと複雑なインレイも一瞬だし、なんならローズ指板×メイプルインレイとメイプル指板×ローズインレイの対になる2枚とか同時に作れるんですけれども。
ネモト:比翼の鳥か連理の枝か、そのように作られたものを所持したいものだね。とても美しい。
ところで、好きな指板とインレイの組み合わせは何?私はメイプル指板にホワイトパールのブロックが好きかな。何もないのが好きなんだけど、あえてつけるなら。サイドドットもホワイトパールかな…。
Cheena:インレイありなら、レスポール的にローズ指板にホワイトパール・ディッシュインレイのバインディング付きか、RickenbackerやJacksonのシャークフィンインレイなんかも好きですね。入れるならきっちり主張してほしいし。
あと好きなのはビリー・シーンシグネチャーモデルのYamaha Attitudeのインレイですかね。
YAMAHA ( ヤマハ ) / ATTITUDE LTD3 BL
メイプル指板にブラックのインレイなんですが、LTD3だと17フレット以降はスキャロップの溝の中に塗装されていて、ボディ側の独特な見た目と相まってポップな印象があります。
以前自作しようとしたんですが、あのサイズで加工しやすいインレイ材はなかなか売っていないし、メイプルは削りづらいしで妥協してラッカーで塗装する羽目になりましたね。
ネモト:出たな技術の塊(笑)
以前古いアティチュードを弾いた時これはすげぇと思った覚えがあるけど、こんなインレイではなかった。カッコカワイイ。知ってたけどそれっぽい塗装やっちゃうのはすごいな。
変わっているやつだとPRSの鳥インレイとかジョン・エントウィッスルのバザード(モデュラス)に使われているローマ数字でフレットナンバーが刻まれているのもオシャレで良い。 ヘッドトップにもインレイはよく使われるけどボディにはあんまり採用されないよね。アレンビックのジョン・エントウィッスルモデルに使われてる蜘蛛の巣インレイくらいかな?
Cheena:Attitudeシリーズは65や85などの低価格帯シリーズがローズ指板またはメイプル指板にドットインレイ、上位のAttitude Specialがメイプル指板にこの面取りした長方形型インレイの黒、赤、青、蛍光グリーンのどれかの塗装みたいです。LTD3でも指板サイドの画像から判別すると塗装なのかな?低価格帯のものはもう販売していないのとインレイ形状の正式名称が分からないのが残念。
ボディにインレイを入れるのはゼマイティスぐらいしかイメージがないですが...
ZEMAITIS ( ゼマイティス ) / A24SU Black Pearl Abalone Diamond
むしろアコギのサウンドホールロゼッタの方が採用例は多いんじゃないですかね。
あと独特なインレイは高級なラップギターに多いイメージがあります。

これはボストン美術館収蔵のもの、Valcoというアメリカのメーカーの1947年製の”New Yokrer”モデルですが、インレイの色や文字以外にもこだわりが垣間見えて面白いですね。
実際に見に行ったことがあるんですが、ラップギター2本掛けの専用ショウケースで展示されていました。
ちなみにValcoは1968年に倒産してしまいましたが、ビザールギターやベース、アンプなどを多数作っていたことで有名なようですね。現在は子会社であったSuproを復活させて製造、その他のメーカーからもコピーモデルが製造されています。
他にもダブルネックラップギターなど幾つかがボストン美術館に収蔵されています。Museum of Fine Arts Boston Valco Guitarで検索すると出ますよ。
ネモト:このインレイすごく綺麗…。
ゼマイティスはメタルトップのイメージしかなかったし、サウンドホールロゼッタ、ハミングバードなんかに代表されるあれか。完全に失念していました。ベースばっかりやってないでギターも勉強せにゃならんね。
Cheena:ゼマイティスのギターは本当に面白いですね。
ZEMAITIS ( ゼマイティス ) / METAL FRONT V MFGV22 BK
フライングVですら古楽器のような見た目にしてしまう。
ネモト:ゼマイティスは創業者の爺さんが亡くなってからどうなることかと思ってたけど、今の方が好きだったり…。
Cheena:インレイの簡素さとボディやハードウェアの豪華さの絶妙なバランスが堪りませんね。 ゼマイティスはバインディングもほとんど張らないのかな…
そうだ、次回はバインディングの回にしましょう。 すでにかなり長いものになっていますし、この辺りで一旦締めてもいいんじゃないかな。
ネモト:だね。正直こんなに盛り上がるとは思わなかった(笑)また次回!
Cheena:ええ。次回も暴走していきましょう!
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら