ギターを弾かないとき、保管する時に弦を緩めるべきか緩めざるべきか…。種類を問わず、ギターをやっていれば、必ずと言っていいほど誰もが抱くであろう疑問ですが、結局のところ、確信をもって「緩めるべき」「緩めないべき」と言える人って案外少ないんじゃないかと思います。今回は、そんな某お菓子の派閥間抗争並みに難しい疑問に対する、僕なりの考えを書いていきたいと思います。

1. 結論、弦は原則ほとんど緩めなくてもいいのでは?
早速ですが結論から言ってしまうと、「ちゃんと管理していれば、基本的に弦を緩める必要はない」と考えています。ここで注意したいのは、あくまでも「ちゃんとした管理をしている」ことが大前提です。それでは順を追って、弦を「ほとんど」緩めなくてもいい(緩めない方がいい)理由と、ちゃんとした管理方法について、説明していきます。
2. 弦を「ほとんど」緩めなくてもいい理由(保管時に緩めない方がいい理由)
ギターを弾くには、当たり前ですが弦にテンション(張力)をかけてチューニングをしないといけないわけですが、この時弦にかかっている張力が馬鹿にできないもので、アコースティックギターのライトゲージの場合、6本の弦合わせて70kg以上、エレキギターの場合でも30~40kg程度の張力がかかり続けることになります。そう聞くと「それだけ大きな負担がかかるなら、やっぱり保管時には緩めた方がいいじゃないか!」と思うかもしれませんが、そうとも言い切れません。むしろ、何十kgもの張力を頻繁に掛けたり緩めたりを繰り返す方が、実は楽器にとって負担になっている可能性があります。薄いアルミ板を何度も折り曲げたり伸ばしたりを繰り返していると、いずれ金属疲労で曲げていた部分からパッキリと割れてしまうように、ギターの場合も、繰り返し弦を完全に緩めたり張ったりを頻繁に行うと、どこかしらに問題が発生する可能性も高くなります。
そもそもギターは(ちゃんと作られていれば)弦の張力に耐えられる前提のもと作られているので、本来なら弦を張り続けていたとしても、そう簡単に問題が起こることは無いはずです。実際僕も弦交換やメンテナンス時を除き、自分で作ったアコギの弦を数年間「ほとんど」緩めずに保管していますが、ネックの反りやトップの膨らみ、ジョイントの浮きなどの問題は発生したことがありません。実験的に「完全に」緩めない状態で保管している個体もありますが、そちらも今のところ全く問題がない状態です。
とはいえ、やはり何十kgものテンションがかかり続ける以上、少し不安なことも確かです。そこで、もし完全にチューニングをした状態を維持するのが不安な場合、少しだけ弦を緩めて保管するという方法があります。半音~全音下げチューニングや、6弦から順にDADGADにするチューニング(いわゆるダドガド)が、ネック全体にかかる負荷も比較的均一で、緩めることによる楽器への負担も最小限になるのでお勧めです。これが冒頭から言っている「ほとんど」緩めないの意味です。楽器の強度にはメーカーや個体等によりどうしても差があるので、まずはこの辺りから試してみると、より安心して保管できると思います。
3. 「ちゃんとした保管方法」
それでは最後に、「ちゃんとした保管方法」について解説していきます。ギターの保管時に弦を緩めないということは、ネックに対して常に順反りを起こす力が働き続けるということでもあるわけで、保管時はそれを考慮した姿勢を楽器に取らせ続ける必要があります。勘のいい方はもうわかったかもしれませんが、つまるところ、重要なのはスタンド(ハンガー)選びです。ギターを保管する時にネックや本体に極力負担のかからない物を選ぶことで、びっくりするくらい楽器の状態が安定します。
第一にお勧めしたいのは壁掛けタイプのギターハンガー。間違いなく一押しです。ギターを壁に吊るすことでネックや本体に対し重力が縦一直線にかかるので、弦の張力を相殺することはできずとも、かなり負荷を減らすことができます。特にお勧めしたいのはHERCULESやULTIMATEのような、ギターの自重を利用してロックのかかるタイプ。どうしても壁の高い位置にギターを預けなければならない分、思わぬ転落を防いでくれる機構は心強いものがあります。
HERCULES STANDS / GSP38WB PLUS
HERCULES STANDS / GSP39HB PLUS
壁に直接ボルトを打ち込むタイプが一番安心感がありますが、色々な事情で難しい場合は網掛けタイプもあるので、メッシュになっている突っ張りパーテーションを使うようにするといいでしょう(突っ張りが緩んでいないか定期的なチェックは欠かせませんが…)。
壁の高い位置に掛けて落下するのが怖い、またはもう掛けられる壁のスペースがないという場合は、次善の策として、床置きタイプながらヘッドから吊るせるタイプのスタンドがあるので、それを使うといいでしょう。
HERCULES STANDS / GS415B PLUS
逆にお勧めできないのは、グリップ側からネックを支えるタイプのスタンドや、ケースに入れっぱなしにする方法です。前者は弦のテンションによるネック順反りを助長する恐れがあり、後者は湿気の籠りや塗装の劣化等の心配があります。どうしてもケース内での保管がしたい場合は、湿度調整剤やケース内用湿度計などを駆使して、保管開始前に適切な状態を維持できることを確認してから行うといいでしょう。ただし、大体のケースは完全な気密性を持っているわけではないので、過信しないよう注意してください。
Boveda / B49
PICKBOY / H-95 DRYKEEPER
4.注意点
色々話してきましたが、これらは全て
- 楽器にとって適切な環境下で保管している
- 楽器の状態が適切に調整されている
というポイントが前提となっています。そもそも楽器の作り自体が余りにも悪い場合は論外ですが、どんなに良い楽器をどれだけ優秀なハンガーに掛けて保管しても、これらが伴っていなければ意味がありません。それぞれについて別の記事でも書かせていただいているので、まずはこの2つのポイントをちゃんと押さえることができているか、確認してみてください。
なお、ここまで説明してきた内容は、あくまで普段自宅などで楽器を保管する場合です。長距離の移動や輸送の最中は、大きな衝撃や負荷がかかることも多いので、逆に完全に弦を緩めておいた方が安全と考えています。ぜひ参考にしてください。