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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 番外編 ~ジャズデュオ名盤の数々~ その10

2020-09-10

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

鍵盤狂漂流記 ~音楽を彩った電子鍵盤とシンセ名盤の数々~ は前回のアープオデッセイ、国内ミュージシャン編をもってモノフォニックシンセサイザー(単音シンセサイザー)パートは幕を閉じました。その7では私がかつて取材をした音楽家を番外編として取り上げました。前回のモノフォニックシンセサイザー編が一息ついたことから、今回は番外編としてジャズデュオの名盤を取り上げます。秋の夜長は「ジャズデュオ」で…。11回目より、ポリフォニック(和音)シンセサイザー編に突入しようと考えています。

箸休め・・・番外編 ジャズデュオの名盤

箸休めはジャズデュオ名盤の紹介です。デュオアルバムはミュージシャンのスキルが丸裸になる音楽です。名盤も多くあります。ジャズはインプロビゼーション(アドリブ)主体の音楽ですから瞬間、瞬間が勝負です。「自分の好きなフレーズだけを弾けばいい」というものではありません。相手のアドリブの間は、一方はバッキングをします。バッキングも同じことを続けるのではなく、相手のフレーズに呼応する必要があります。また、相手のアドリブ終了時、直前に弾いたフレーズと同様もしくは類似しているフレーズを弾き、自身のアドリブに入ったり、リズムをフェイクしたりとプレイヤーとして、多くの抽斗(ひきだし)が必要になります。

お互いをリスペクトしあうことで2人以上のパワーが音楽に反映した作品も数多くあります。自分の思いつかない展開を相手から提示されることで、自分自身の回路に新しい水脈ができ、それが素晴らしい演奏に結び付くことも稀ではありません。優れた音楽家の出会いは、お互いのインスピレーションを高め合う絶好のステージであり、名盤の宝庫であると私は考えています。
以下に挙げた5枚のアルバムは楽器の形態こそ違いますが、そういった素晴らしい瞬間を聴くことができます。

■アルバム:『アンダーカレント』ビル・エヴァンス & ジム・ホール

■アルバム:『デュオ・イン・パリ』M・ペトルチアーニ & E・ルイス

『アンダーカレント』はビル・エバンス(pf)とジム・ホール(g)によるものでジャズ史上、世紀の名盤と云われています。両巨匠による静謐な世界が展開されます
『デュオ・イン・パリ』はピアニスト、ペトルチアーニとオルガニスト、ルイスのデュオ。鍵盤屋同志でのデュオは珍しく、火花散る2人のアドリブを聴くことができます

■アルバム:『パリスブルース』ギル・エバンス & スティーブ・レイシー

■アルバム:『ミズーリの空高く』C・ヘイデン & P・メセニー

『パリスブルース』はG・エバンス(pf)とS・レイシー(SAX)とのデュオ。G・エバンスはアコースティックピアノとフェンダー・ローズ・エレクトリックピアノを使い分け、プレイ。2人の音楽的会話を楽しむことができます
『ミズーリの空高く』はベーシスト、C・ヘイデンとギタリスト、パット・メセニーのデュオ。C・ヘイデンはジャズデュオの名手として知られ、多くのデュオ名作を生み出しています。このアルバムはグラミー賞にも輝いています。パット・メセニーの良さも上手く引き出しており、崇高で繊細な素晴らしいアルバム。目の前に広大なアメリカの大地が見えるようです。

■アルバム:『ウィチタ・フォールズ』パット・メセニー & ライル・メイズ

鍵盤狂漂流記というタイトルで連載しているので、シンセサイザーを大きくフィーチャーしたアルバムをここでご紹介します。『ウィチタ・フォールズ』(As Falls Wichita, so Falls Wichita Falls)は1981年、ECMレーベルから発売。パット・メセニーとライル・メイズのデュオアルバム。『ビルボード』のジャズ・アルバム・チャートでは1位を獲得しています。メセニーとメイズというパット・メセニーグループの巨頭デュオにブラジル人パーカッショニスト、ナナ・バスコンセロスがゲストで花を添えています。タイトル曲はパットというよりもライル色が強く感じられる楽曲で何とも不思議な風景を感じる仕上がりです。シンセサイザーやシーケンサーを大胆に導入し、プログレ的タッチも垣間見ることができます。ライル・メイズは当時、オーバーハイムの4ボイスシンセサイザーを使用し、くぐもった温かな音を出しています。オーバーハイム的でライルの特許ともいえる音は4曲目の「イッツ・フォー・ユー(It's for You)」のテーマで聴くことができます。ジャズデュオという括りを壊すような手法や楽曲展開からは若い2人の懐の深さを垣間見ることができます。この2人にナナ・バスコンセロスのパーカッションとボイスが加わり、何ともミステリアスな世界に…。とにかく楽曲のテーマともいえるメロディーが素敵です。メセニーグループがこのアルバムの後、ブラジルテイストに舵を切るのも納得できます。皆さんもジャズデュオの深遠な世界に耳を傾けてみて下さい。秋の夜長にはジャズデュオ…素敵な時間が皆様に訪れることを願って…。

今回取り上げたアルバム、ミュージシャン

  • 「アンダーカレント」/ビル・エバンス & ジム・ホール
  • 「デュオ・イン・パリ」/Ⅿ・ペトルチアーニ & E・ルイス
  • 「パリスブルース」/ギル・エバンス & スティーブ・レイシー
  • 「ミズーリの空高く」/チャーリー・ヘイデン & パット・メセニー
  • 「ウィチタ・フォールズ」/パット・メセニー & ライル・メイズ

鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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