Jポップの大御所、山下達郎バンド楽器名盤考 パートⅠ
今回の鍵盤狂漂流記のテーマは楽器プレイヤーから見た山下達郎考です。
ニューアルバムのリリースを受け、山下達郎の音楽は楽器やソロパートなど鍵盤楽器を中心にした切り口で構成します。
私が山下達郎さんを好きなのは楽曲の良さは勿論の事、Jポップではあまり議論されない演奏や各楽器のソロなどに深い見識があり、それがアルバムにも反映されている点です。
それが彼のバランス力であり音楽力であり、楽曲に緊張感を持たせる手法なのだと思います。
テレビの歌謡番組などではギターソロなどはカットされるか、ソロ部分は演奏者のアップサイズにはならず、歌手の映像を流していたりします。
楽器を演奏する人間にとってソロを含めた技術的部分もクローズアップして欲しいと思いますが、演奏は二の次で最大公約数のニーズが優先されてしまいます。
ポップス、歌謡曲というカテゴリーでは当然なのですが…。
Jポップの大御所、山下達郎アルバムの鍵盤名演とソロパート!
しかし、山下達郎は違いました。演奏も重視し、楽器ソロの配置にも彼なりの見識があります。
普通のポップスではありえない向井滋春さんのトロンボーンのソロや、竹内まりやさんに提供した曲ではランディ・ブレッカーのトランペットソロも入っています。
ミュージシャンの選択眼が優れ、それが楽曲全体を際立たせています。土岐英史さんのサックスソロ、坂本龍一さんのピアノソロ、佐藤博さんのキーボードプレイ、松木恒秀さんのギターソロしかりです。
達郎さんのアルバムは歌も楽器ソロも同列にあり、楽器ソロパートが楽曲の緊張感を高めています。それが山下達郎の音楽を聴く楽しみでもありました。
特に初期のアルバムに、その意向が顕著です。
今回は坂本龍一さんのプレイから山下達郎の音楽の検証をします。当時20代前半だった坂本龍一さんの演奏は冴えわたっています。
山下達郎の音楽を聴くきっかけは歌ではなく、SAXソロ!
大学生の頃、私は軽音楽部に所属していました。1978年の事です。真面目に授業にでない学生の暇つぶしは部室への直行です。例外なく、私もそんな学生でした。
学食で100円の並カレーを食べ、部室へ向かう途中、フォークソング部から素敵な演奏と素晴らしいサックスソロが聴こえてきました。扉を開け「これ誰?」と尋ねました。「達郎だよ」との回答。「達郎って誰?」当時、プログレ一辺倒だった私は山下達郎を知りませんでした。驚く事にそれはライブアルバムでした。それが「IT‘S A POPPIN’TIME」だったのです。私の山下達郎を聴くきっかけはジャズのサックスプレイヤー、土岐英史さんのサックスソロでした。
■ 推薦アルバム:山下達郎『スペイシー』(1977年)

77年リリースの山下達郎の傑作セカンド・アルバム。「ラブ・スペース」「キャンディ」「素敵な午後は」「ダンサー」「アンブレラ」「ソリッド・スライダー」など、珠玉の名曲が並んでいる。アルバムに参加した鍵盤プレイヤーは坂本龍一さんと佐藤博さん。2人のキーボードプレイの違いを比べるのも面白いです。
推薦曲:「ソリッド・スライダー」
坂本龍一さんのフェンダーローズのソロが素晴らしい!これはアドリブではなく、展開も含め、書き譜ではないかと想像しています。序盤から中盤にかけての構成力は見事!後半部分ではげんこつで鍵盤を叩く、山下洋輔的な部分も。坂本龍一さんの多くのソロの中でも傑出した演奏だと思います。
■ 推薦アルバム:山下達郎『IT‘S A POPPIN’TIME』(1978年)

フォークソングクラブの部室から聴こえたアルバムがこれ。六本木ピットインのライブ盤「IT‘S A POPPIN’TIME」(2枚組)はギター&ボーカル:山下達郎、キーボード:坂本龍一、ギター:松木恒秀、ベース:岡沢章、ドラム:村上ポンタ秀一、サックス:土岐英史、コーラス:吉田美奈子など、当時としては国内トップクラスのミューシャンが参加をしています。
ライブ盤は一発録りですから、楽曲の修正はできません。その緊張感からかミュージシャンの出す音にもそれが反映され、素晴らしい演奏内容です。
このライブ盤のイメージはダニー・ハザウェイのライブ盤(後述)を意識して作ったと達郎さんが語っている様に、各楽器のアドリブスペースが多くとられています。各プレイヤーのアドリブプレイが存分に聴けるのも、このアルバムの大きな特徴です。
ミュージシャンの息遣いまでもがパッケージされ、このアルバムの魅力の1つになって います。楽器演奏者にとって大変勉強になるアルバムです。
推薦曲:「ペイパー・ドール」
坂本龍一さんはこのライブで使用しているはアコースティック・ピアノとフェンダーロ ーズ・エレクトリックピアノ、シンセサイザーはアープ・オデッセイ。
このトラックにはフェンダーローズの抑制されたソロがフューチャーされています。村上ポンタさんとの息の合ったプレイが印象的です。ライブでフェイドアウトというエンディングも見事!
推薦曲:「ソリッド・スライダー」
坂本龍一さんのローズピアノプレイは秀逸。ローズピアノソロでは静謐感があるオープニングから、徐々にバンドとして盛り上がっていくミュージシャン達のプレイも含め、ライブ演奏の1つ手本といえるのではないか。
■ 参考アルバム:ダニー・ハザウェイ『ライブ』

ダニー・ハザウェイの歴史的名盤。「ゲットー」など、ダニーによるウーリッツアー・エレクトリックピアノソロは必聴!ライブの熱さが丸ごとパッケージされています。
■ 推薦アルバム:山下達郎『ゴー・アヘッド』(1978年)

ピット・インライブ盤の後にリリースされるスタジオ盤「ゴー・アヘッド」。前作のライブ盤と重なっている楽曲があり、「ペイパー・ドール」のドラムプレイはライブ盤とは異なったアレンジが聴けます。
達郎さんはスタジオ録音のアルバムでは予算が少なく、リズムパターンを決めるなどのトライ&エラーという手法が取れない為、楽曲の概要を決めるのに腐心したという話がありました。ライブアルバム通過後のこのアルバムには制作者であり、音楽家の紆余曲折を垣間見ることができます。 また、ベースやドラムの録音方法がこの「ゴー・アヘッド」が音的に一番優れていたと後に達郎さんは語っています。
推薦曲:「ペイパー・ドール」
スタジオ盤ではキーボードソロは入っておらず、達郎さん自身によるギターソロがフィーチャーされています。録音時のギターソロにはワウ系のエフェクトはかかっておらず、トラックダウンの際、自身でエフェクターのかかり具合をリアルタイムで調整したとライナーには記されています。
坂本龍一さんのフェイザーがかかった抑制されたフェンダーローズのプレイも秀逸!
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤
- アーティスト: 山下達郎、坂本龍一、村上ポンタ秀一など
- アルバム:「スペイシー」「IT‘S A POPPIN’TIME」「ゴー・アヘッド」
- 曲名:「ソリッド・スライダー」「ペイパー・ドール」
- 使用機材:フェンダーローズ・エレクトリックピアノ、アコースティック・ピアノなど
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら