マグネットから見るギター用ピックアップ【アルニコ / セラミック】

エレキギターのサウンドを決定づける要素のうち、大きな割合を占めているのがピックアップ。その構造は、ポールピースと呼ばれる磁石の周りにコイルを巻きつけた非常にシンプルな造りをしています。各メーカーは、コイルの巻き方や磁石の種類を変えることで様々なサウンドのピックアップを製作しているというわけです。 じゃあ、具体的にどんな磁石が使われていて、それぞれどんなサウンドの傾向があるのかを調べてみました。

ギター用ピックアップには、大きく分けて「アルニコ」と「セラミック」という2種類の磁石が用いられます。

アルニコは「アルミニウム」「ニッケル」「コバルト」の合金のこと。原料の配合具合によって番号を振って区別され、基本的には数字が大きいほど磁力が強くなります。時間が経つほど磁力が弱くなる性質があり、ビンテージピックアップのサウンドを再現するため、わざと磁力を弱める処理（減磁）を行うメーカーもあります。

■ アルニコ2

1950年代のテレキャスター用ピックアップに使われていたマグネット。ビンテージ志向のモデルに用いられることの多い印象です。多くのモデルに用いられるアルニコ5に比べると弱い磁力をもち、甘くウォームなサウンドになる傾向があります。

SEYMOUR DUNCAN / APH-1b Alnico II Pro

モデル名に「アルニコ2」を冠するこちらは、Guns N' Rosesのデビューアルバム「Appetite for Destruction」のレコーディングでSlashが使っていたことで知られています。

LINDY FRALIN / Pure PAF Set

50年代のGibsonに搭載されていたオリジナルピックアップ「PAF」のサウンドを再現したモデル。磁力の弱いアルニコ2は弦振動を妨げることなく、長いサステインを得られるのも特徴の一つです。

SEYMOUR DUNCAN / SH-11 Custom Custom

アルニコ2マグネットに高出力なコイルを組み合わせた、やや変わり種のモデル。ハイゲインなセッティングでも耳に痛くない、太く甘いサウンドが得られます。

■ アルニコ3

1950年代中ごろの初期ストラトキャスター用ピックアップに使われていたマグネット。コバルトを含まず、アルニコマグネットの中で最も弱い磁力をもちます。アルニコ2に似ていますが、よりブライトで輪郭のはっきりしたサウンドになる傾向があります。

LINDY FRALIN / REAL 54 Set

54年製ストラトキャスターのピックアップを再現したモデル。アルニコ5を採用した同社Vintage Hotモデルに比べ、ブライトで繊細なサウンドが特徴。

FENDER / Eric Johnson Signature

エリック・ジョンソン シグネチャーモデルのネックピックアップにもアルニコ3マグネットが採用されています。54年製ストラトのピックアップをベースに現代的なニュアンスを加えたトーン。

■ アルニコ4

出力はアルニコ2とアルニコ5の中間に位置し、サウンドも2と5の中間だと言われます。高域、低域がバランスよく出力され、非常にナチュラルなサウンドになる傾向にあります。ピックアップではあまりメジャーな磁石ではありませんが、50年代のPAFの中にはアルニコ4が用いられた個体も多く存在するとのことです。

DIMARZIO / DP261 PAF Master

近年ポール・ギルバートが愛用している、PAFをベースに改良を加えたピックアップ。低出力なマグネットを使ったモデルに比べ、ボトムとアタックが強調された、よりロック向きなサウンドが得られます。

SEYMOUR DUNCAN / Saturday Night Special

70年代後半のアリーナロック・サウンドの再現を目指したピックアップ。ビンテージモデルよりもクリアでアグレッシブ、高出力モデルよりもコンプレッション感の少ないトーンが特徴。

LINDY FRALIN / Unbucker

LINDY FRALIN製ハムバッカーの中でも最も人気のあるモデルの一つ。巻き数の異なるコイルを組み合わせることで、コイルスプリットした際にもパワフルで抜けの良いサウンドが得られるようデザインされたハムバッカー。

■ アルニコ5

おそらくアルニコマグネットの中で最も広く使われているのがこのアルニコ5。アルニコ2などに比べ出力が高く、クリアで迫力のあるサウンドが得られます。セラミックと比べるとダイナミックレンジが広く、演奏のタッチによく追随する印象です。

SEYMOUR DUNCAN / SH-4 JB Model

リプレイスメントピックアップの定番機種。中高音域の強調されたサウンドは、アンプをプッシュし多くの歪みと倍音が得られます。ちなみに定番のネック用モデルSH-2n Jazz Modelもアルニコ5です。

DIMARZIO / DP155 The Tone Zone

高出力かつ、ダイナミックレンジが広いというアルニコ5の特徴をそのまま売り文句にしているピックアップ。DIMARZIOが特許を取得しているデュアル・レゾナンスコイルにアルニコ5を組み合わせ、中低域の豊かな分厚く迫力のあるサウンドを出力します。

SUHR / ML Model

SUHRのストラト用ピックアップはすべてアルニコ5を採用。コイルの巻き方で各モデル違ったキャラクターを持たせているということです。すごい。ちなみにコイルの巻き数が増えるほど出力は強く、高域は弱くなり、コイルとポールピースの距離が近くなると高音域をよく拾うと言われています。

■ アルニコ8

アルニコマグネットで最も出力が高いのがこのマグネット。アルニコ5よりも高い出力と、アルニコならではのダイナミックレンジの広さが特徴で、モダンなハイゲインセッティングでの使用を前提としたピックアップに多く使われている印象です。

SEYMOUR DUNCAN / SH-15 Alternative 8

現代のロックシーンで求められる高い出力を得るために、ハイパワーなコイルとアルニコ8マグネットを組み合わせて作られたピックアップ。ハイパワーでありながら中高域が豊かで、耳に痛くないサウンドを特徴としています。

DIMARZIO / DP273F Satchur8

ジョー・サトリアーニのシグネチャーモデルにもアルニコ8が採用されています。リードギターに最適な高い出力と太く甘いサウンドを、アルニコ8を使うことで実現しています。サトリアーニ曰く「これまで使ったピックアップの中で、最もリッチで完璧なサウンド」。

■ セラミック

酸化鉄を主原料とした化合物を窯で焼結させ、電磁石で着磁させた永久磁石。アルニコと違って時間が経っても磁力が落ちず、また安価なためこちらも多くのピックアップに用いられています。アルニコよりも高出力でレンジの広いサウンドが得られる傾向にあり、モダンなハイパワーピックアップにもよく使われている印象です。

SEYMOUR DUNCAN / Nazgul

ジェントをはじめとするモダンメタルに対応するピックアップとして開発されたモデル。セラミックマグネットの特徴である広い周波数レンジを活かし、ダウンチューニングでの高速な刻みでも埋もれない輪郭のハッキリとしたサウンドが特徴。

DIMARZIO / Crunch Lab

プログレッシブ・メタルの立役者であるDream Theaterのギタリスト ジョン・ペトルーシ。数多く製作されている彼のシグネチャーモデルの中でも、根強い人気をもつのがこのCrunch Labです。複雑なコードを多用するDream Theaterのアンサンブルの中でも濁ったり、埋もれたりすることなくギターサウンドを出力します。

EMG / 81

アクティブピックアップの代表機種。スウェディッシュ・デスメタルのトーンが出したければ、81を載せてPeaveyに繋ぐのが最短の道になります。昨今のモダンメタルシーンで多用される7弦ギターや8弦ギターに搭載されていることも多く、そのパワフルでレンジの広いサウンドは折り紙付きです。

そんなわけで、ギター用ピックアップに使われるマグネットそれぞれの特徴と代表機種を紹介してきました。 ピックアップは実際に自分のギターに載せてみるまで、どんな出音になるかわからないパーツではありますが、マグネットごとの特徴を知ることで大まかに予想を立てることはできるんじゃあないでしょうか。手持ちのギターがブライトすぎるからアルニコ2のピックアップでバランスを取ろうとか、オールドスクールなギターをもっとレンジの広いモダンな音にしたいからセラミックを試してみようとか。そういうのを考えているときが一番楽しい説もありますね。自分にピッタリのピックアップを見つけるために、マグネットにも注目してみると更に楽しくなるかも？