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蠱惑の楽器たち 85.u-he Filterscape VA レビュー4 ENV

2024-07-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

Filterscape VAはu-he社にしては珍しく標準的なアナログシンセの構成となっています。記事では主にアナログシンセ共通の部分を取り扱いますので、他シンセでも応用できる内容となっています。

u-he ( ユーヒー ) / Filterscape

ENV エンベロープ(ADSR)

今回はシンセサイザーでは必須ともいえるENV(エンベロープジェネレータ)を見ていきます。ENVはADSRとも呼ばれています。ADSRはAttack、Decay、Sustain、Releaseの頭文字を取った呼び方ですが、Filterscape VAではADSRを拡張しているのでENVと呼んでいます。ENVは時間に対しての様々なレベル変化のカーブを作り出します。

基本的にアナログシンセは、スイッチを入れるとオシレータからの音が出力され続けます。鍵盤を押したときだけ音が出てほしいため、通常はゲートが閉じていて音が外部に出力されないようになっています。鍵盤を押すことで、ゲートが開き音が出てきますが、オルガンのようなまっすぐな音で、音量変化がなくENVが無効、もしくはA=0、D=0、S=max、R=0の状態です。図にすると以下のようになります。

ENVを無効にしたサンプルの代表はオルガンです。オルガンは基本的に音のON/OFFで鳴るため、ENVがなくても違和感を感じません。設定はOSC=Sine Stacksを選択、AMPをGateにして、ENVを全く使っていません。Filterscape VAで作る一番シンプルなオルガンです。具体的な設定はこのページの一番上の画像となります。

ENVで作るサウンド

音量変化をつけることでさまざまな楽器を模倣できるようになります。この音量変化を自動的に行うのがエンベロープです。ADSRの各レベルを調整することでさまざまな音量カーブを作ることができます。これらはおそらく普遍的で100年後でも基本的な考え方は変わらないような気がします。

ノートON/OFFの位置の違いでどのようにふるまうかも図にしてみました。以下はいずれもSustainを0にしています。

上記を順に音にすると以下のようになります。

ほとんどのシンセではADSRのパラメータが使われますが、シンセによって拡張される場合も少なくありません。Filterscape VAは機能としてはホールドやF/Rが追加され、ベロシティ感度も組み込まれています。

また、ENVの数は通常2個搭載しているものが多いのですが、Fileterscapeには3個のENVがあります。さまざまな音作りでENVを自由に使えるため音のバリエーションに貢献します。

カーブモード

ENVカーブは4タイプから選択できます。

  • adsr exp:指数関数的曲線
  • adsr lin:リニア
  • hdsr exp:Aが最大音量をキープする時間を決定 指数関数的曲線
  • hdsr lin:Aが最大音量をキープする時間を決定 リニア

F/R(Fall/Rise)

Filterscape VAにはADSRを独自に拡張したFall/Riseがあります。

Fall:sustain部分に入ると段々と音量が最小まで下がっていく。減衰していくピアノやギターなどが近いです。Decayだけでは難しいコントロールが可能になります。

Rise:sustain部分に入ると段々と音量が最大まで上がっていく。擦弦楽器、管楽器、アコーディオンなどのフリーリード楽器などでは、徐々に音量を上げていく演奏をよく耳にします。

ENVを使った代表的なサウンド

音量にかける(OSC AMP)

最も基本的な使い方でさまざまな音色をそれらしく聞かせることができます。バイオリンなどの擦弦楽器では、ノコギリ波にアタックを遅めに使うだけでそれらしくなります。

フィルタのカットオフ周波数にかける

生楽器では難しいシンセ特有のレゾナンスが効いた音になります。シンセによってはフィルタ専用のENVが用意されている機種も多いです。

音程にかける

ENVを音程に掛けてもさまざまな効果を生み出します。打楽器などは音程感が不明確ですが、実際には曖昧ながらも音程はあり、発音の瞬間にピッチが動いたりします。ドラムセットのタムなどは打つとピッチが数音下がる傾向にあります。

LFOにかける

ビブラートのスピードや振幅をENVで変化させます。次のサンプルでは徐々にLFOを深くしビブラートを強調するようにしています。やや渋い使い方ですが。

ENVの設定でアタックをつける

やや特殊な事例でアナログシンセ特有の振る舞いを利用しています。最近の高性能化したバーチャルアナログシンセは再現できるものが多いと思います。Decay、Sustainを極端に低くするとパチパチとアタック音が入るようになります。Sustainレベルでアタックの音を相対的に調整し、音量不足になりますのでボリュームを上げ気味にします。機種によって音質差は大きく、パチパチ鳴らない場合もあります。

ADSRの反転利用

各モジュレーションでノブをマイナス方向に回せばENVは反転します。サンプルはフィルターにかけることで、アタックの直後にくぐもってから再び明るくなるという、通常の使い方ではできない振る舞いをします。

ENVの可能性

ここでは紹介できていませんが、PAN、WARP、PHASE、FM、NOISE、RATEなどのパラメータにもENVを積極的に使うことで、さらに音作りの幅を広げることができます。

次回は基本的なLFOの使い方を解説します。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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