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蠱惑の楽器たち 80. ラウドネスメータ4

2024-01-29

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

特徴的な音源がプラットフォームの主流であるLUFS-I(Integrated):-14.0に調整された結果、どうなるかを比較してみます。各音源の統一項目は以下の通りです。

  • 時間:60秒間
  • peak:-3dB

1. ホワイトノイズ

ホワイトノイズは記録できる周波数すべてが均等なレベルで入っているノイズで、周波数特性はフラットです。

波形で見ると以下のようになっています。やや薄い白っぽいものが波形です。紫のラインが時間に応じて変化していくLUFS-Iの値ですが、ほぼ一定で-4.6のままです。最終的な60秒時点でも-4.6になっているのが確認できます。これをYouTubeなどのプラットフォームにアップすると、LUFS-Iが-14以上の場合は-14に修正されます。これをラウドネス正規化(loudness normalization)と言います。この場合、正規化後は-9.4下がってLUFS-Iは-14になっています。これはかなりの音量変化となります。

2. ピンクノイズ

周波数特性が高域に行くにしたがって下がるノイズ波形です。

peakは同じく-3dBなのですが、高域のレベルが低いため、LUFS-Iはホワイトノイズと比較して大幅に下がります。プラットフォームの主流であるLUFS-I-14.0を下回るため、レベル調整されることはありません。周波数特性がLUFS-Iに大きく影響することは知っておいた方がよいです。

3. ブラウンノイズ

ピンクノイズよりも低い周波数ほど強いエネルギーを持っているのが特徴です。カーブの特性が違うのですが、見た目よりも聴感上の違いの方が大きいです。多くの人にとってピンクノイズよりも聞きやすいノイズであると思います。音楽のアンサンブルでは、多くの場合これに近い周波数バランスになります。

ピンクノイズよりもLUFS-Iが低いです。また-14.0を下回るため、レベル調整されることはありません。ピークは高くても腰の低いサウンドであれば、LUFS-Iはそれほど高くならないことを意味します。

4. ブルーノイズ

ブルーノイズはオクターブ上がるごとに3dB増加するノイズです。LUFS-Iは高域に敏感なため、音量感よりも高めの値が出ます。このような音は非常に不自然で気持ち良い音ではありません。

ラウドネスメータは3kHz以上に敏感に反応してしまうため、高音域成分が多いブルーノイズは正規化の際に-6.2下げられました。ホワイトノイズほどではありませんが、それに近い状態と言えます。

5. 10kHz以上のみのノイズ波形

極端な例で10kHz以上のノイズだけの場合を試してみます。あえて人間の耳の感度が落ちる周波数ですが、ラウドネスメータは敏感な周波数です。サウンドは夏の虫の鳴き声のような音になりますが、人工的なこの音は心地よくはありません。大抵の人にとって音量感はホワイトノイズのように大きくはないと思います。

やはりLUFS-Iは高めで-9.7となりましたので、正規化の際には-4.3下げられます。10kHz以上の高音域は、音量感以上に下げられるという印象なので注意が必要かもしれません。

6. 徐々に大きくなる波形

ラヴェルの曲「ボレロ」などはこれで、徐々に大きな音になって行くパターンです。直線的なフェードイン区間とも言えます。成分はホワイトノイズの場合です。メータで測定すると徐々にLUFS-Iが上がり最終的に-8.5となりました。これは正規化で-5.5下げられます。

7. 徐々に小さくなる波形

上記と逆のパターンでPeak-3dBの最大音量から徐々に下がるパターンです。LUFS-Iは時間と共に徐々に下がり、結果的に上記と全く同じになりました。

7. 絶対ゲートが有効になる波形

はじめの1秒間はPeak-3dBのホワイトノイズですが、それ以降は-70dBのかなり小さい音になっています。ラウドネスメータは、まず最大音量を-5.5と計測し、その後は絶対ゲートが有効になり、小さい音の区間は無視され、最終的なLUFS-Iは-5.5と判定されます。LUFS-Iを平均的音量としてイメージしていると、摩訶不思議な現象に思えてくるかもしれません。ほとんどの区間が無音レベルでも、正規化で-8.5下げられることになります。プラットフォームにアップする際には注意したいところです。

8. 相対ゲートが有効になる波形

上記と似ていますが、音が小さな区間のレベルが高く-23dBとなっています。それ以外は同じです。全体のエネルギー量は高いにもかかわらず、最終的なLUFS-Iは-20.8と低く判定され、正規化ではレベル調整されません。比較すると、やや理不尽な結果のようにも見えますが、絶対ゲートと相対ゲートの仕組みを理解する必要があるということです。

上記の絶対ゲート、相対ゲートからも分かるように、ラウドネス正規化は条件次第で結果がかなり変わることがあります。詳細は割愛しますが、原理を知っていると意図的にLUFS-Iを-14ぐらいに抑えつつ、聴感上の音量を劇的に上げることも可能です。しかし、それでは音圧競争の繰り返しになるので、ナチュラルなバランスを心掛けたいものです。

瞬間的ピークには寛容

LUFS-Iは400ms単位で計算するため、瞬間的なピークはLUFS-Iをあまり引き上げません。打楽器などのピークが-2dBぐらいになっていてもLUFS-Iはそれほど高くならないことを意味します。

まとめ

LUFS-Iはプラットフォームへのアップなどでは必ずチェックすべき項目ですが、制作時から意識する必要性はあまりないと思っています。音圧競争のころの過剰な音圧上げもそういうスタイルということで、それ自体の音が悪いというわけではありません。他とのバランスが取りにくくなって、目立つ目立たないという差が問題だったわけです。実際、音量バランスは時代やジャンルによって様々なので、そのような多様性を維持しつつバランスを整えることが理想ですが、そもそも無理があるように思います。

それでも、ラウドネス正規化LUFS-I-14という値は良い妥協点のように思います。この値で正規化して他の曲などと一緒に聞いた場合に、意図通りに聴こえていれば「妙な偏りがない音源」という確認ができるような気がします。音圧を高めにしたい場合でも、やりすぎると音が小さくつぶれて聴こえてしまいます。その場合は多少調整した方がよいという判断ができます。ラウドネス正規化を客観的な視点として活用することで、サービス全体にとっても、ユーザーにとってもメリットになっていくように思います。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
blog https://achapi2718.blogspot.com/
HP https://achapi.cloudfree.jp

 
 
 

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