K-filterの詳細
ハイシェルフとハイパスフィルタ(B特性カーブ)を直列接続してK-filterを実現します。Kというのは略ではなく、国際規格としてA、B、Cと順に決められ、その流れからKと名付けられています。
ITUの資料には丁寧にも2次IIR(無限インパルス応答)デジタルフィルタを具体的に提案しています。IIRはアナログ回路のデジタルエミュレートという感じで数学的には難解ですが、利用するだけならそれほど厄介ではありません。手軽かつ低負荷なため、よく使われるフィルタです。ITUの資料にあるIIRフィルタはサンプリング周波数48,000Hz用ですが、係数も用意されているので、K-filterを簡単に作成できてテストすることが可能です。
まずはハイシェルフで、高音域を持ち上げるフィルタとなります。
ブロック図です。2次IIRの2次というのは図のZに相当します。ディレイのタップ数です。表は係数となります。この係数を変えることで、さまざまなフィルタに化けることができます。このK-filterも係数の変更だけでハイシェルフ、ハイパスフィルタの2種を実現しています。
せっかくなので手っ取り早く波形編集ソフトのAudacityで組んでみました。プログラミングソースは以下のようになります。
;control b0 "b0" real " " 1.5351248958697 -3.0000 3.0000
;control b1 "b1" real " " -2.69169618940638 -3.0000 3.0000
;control b2 "b2" real " " 1.19839281085285 -3.0000 3.0000
;control a0 "a0" real " " 1.0 -3.0000 3.0000
;control a1 "a1" real " " -1.69065929318241 -3.0000 3.0000
;control a2 "a2" real " " 0.73248077421585 -3.0000 3.0000
(biquad-m s b0 b1 b2 a0 a1 a2)
実行時は以下のインターフェイスとなります。
ホワイトノイズに適用すると3kHz以上が4dBほど上がっているのが確認できます。
同じようにハイパスフィルタ(B特性カーブ)も試してみます。低音域をカットするフィルタとなります。
これもホワイトノイズに適用して確認してみました。ちゃんと機能しています。
上記ハイシェルフとハイパスフィルタを直列接続すると以下のようになり、K-filterの完成です。
RMS
まずRMS値(Root Mean Square)=2乗平均平方根=実効値となります。これはピークではなく電力を見ているということです。Momentary(400ms)、Short-term(3s)、Integrated(全て)それぞれ扱う時間は違っても基本的には同じです。
上記式の中身はRMSの名前の通り、Root(Mean(Square(x)))です。ただ計算順は括弧内から行うので逆となります。
- Square 各データの二乗を求め、範囲全てを合計。
- Mean データ数で割り、二乗の平均を出す。
- Root 平均値の平方根を出しRMS値とする。
単純なサイン波の場合を見てみます。振幅プラスマイナス1の1周期分については二乗することで赤い波形になります。これの平均は0.5となるため、そのRootはsqrt(0.5)=0.707となり、RMSは0.707となります。
重み係数 G
音の入射角に対して、重み係数という値で補正します。ラウドネスメータではサラウンドを想定しているので、GL左(1.0)、GR右(1.0)、GCセンター(1.0)、GLSレフトサラウンド(1.41)、GRSライトサラウンド(1.41)となっています。ステレオ素材しか扱わない音楽の場合は、いずれも1.0なので何もしないのと同じです。
セーフティ・ゲート
これは2006年時点ではありませんでした。2011年に盛り込まれた項目です。人の感覚は大音量に支配される傾向があるため、無音区間もしくは相対的に小さな音の場合、そういう区間も同様に処理してしまうと、人が感じる音量感よりも小さくなってしまうという問題が明らかになりました。そこで小さな音の区間を排除するゲートを採用することで、より一貫性のあるラウドネス値が得られるようになりました。ラウドネスメータが使うゲートには以下の2種類があります。
絶対値ゲート
-70LUFS未満を無音として扱い、LUFS-Iでは除去されます。下図は60秒間ホワイトノイズで前半30秒を-4.6LUFSとし、後半は-70LUFS未満となっています。視覚的には無音に見えますが、小さな音が入っています。この場合、絶対ゲートが作動して無音とみなされた部分はカウントされません。結果的にLUFS-Iは-4.6LUFSと出力されます。これが絶対ゲートです。
相対値ゲート
絶対ゲートを通過した信号の平均よりも-10LU(dB)未満を除去します。下図は60秒のホワイトノイズで前半30秒を-4.6LUFSとし、後半は-12LUFS低い-16.6LUFSとなっています。LUFS-Iの結果は-7.4LUFSとなりました。この数値から相対値ゲートの場合は、途中で解除されたのが分かります。
Reaperを使ってLUFS-Iの動きを監視すると相対値ゲートがONになってから20秒近くはそのままですが、その後解除され-12LUFS低い信号もLUFS-Iに反映されていくのが分かります。
今回は中身についての解説でしたが、次回はこれらを組み合わせた具体的な振る舞いを見ていきます。
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