Bass VIやその他の記事の濃さが異常と言われだしました。Cheenaです。
私もギアを自作したり筐体を改造するようになって久しいですが、やはり緻密に作りこまれたメーカー製のペグに勝るものはないと思っています。今回はいくつか紹介し、Sperzelペグのカスタムの手引きも交えていこうと思います。
【ノーマルペグ・入門編】
普通のペグを普通に紹介するのは今回の目的ではないのでさっさと行きましょう。
大雑把に外観だけでペグを分類すると、曲げ板筐体の「クルーソンタイプ」鋳造筐体の「ロトマチックタイプ」そしてギアを収める部分がない「オープンタイプ」の3つがあります。それぞれ星の数ほどあるので交換する時は寸法と好みに従ってください。
…さて、本番。構造と機構の話をしましょう。
ペグのチューニング精度を決めるのは内部のギアです。ベース用オープンギアを分解すると手っ取り早く見れるのですが、ネジ状の溝を刻まれた軸(ウォーム)と斜めに歯の付いた歯車(ウォームホイール)を組み合わせて出来ているウォームギア構造は非常に合理的で、平歯車と比べて減速比が非常に大きいため軽い力で弦を巻き、高精度にチューニングでき、さらにホイールからウォームに伝達することができないため逆進も防止できる(セルフロック機構)という特長に繋がっています。

右:一般的に用いられるウォームギア(黒がウォーム、赤がホイール)。
左:稀に用いられる遊星歯車(中央黒が太陽歯車、赤の4枚が遊星歯車、外の黒が内歯車)。本来は遊星歯車がずれないよう固定するキャリアがあるが、省略している。
ちなみにこれ以外の構造では、後述するファイヤーバードペグやバンジョーペグ、バイオリン用高精度ペグなどが採用する遊星歯車方式があります。内向きの歯車に3枚の遊星歯車と1枚の太陽歯車をセットし、内歯車をポスト、太陽歯車をボタンとし、遊星歯車は固定することで同軸上での減速が可能です。こちらはセルフロック機構は持ちませんが、ウォームギアより小型化が可能なため張力の弱い楽器によく用いられています。
【ロックペグ・入門編】
ロックペグはペグポスト内部のネジを利用して弦を挟み、その状態で巻き上げることで音程を安定させる機能を持ちます。また、ポストに弦を巻き付ける必要がないことから弦交換が素早くなるという利点があります。
…と、ここまでは一般的に言われる内容のロックペグの話。今回はなかなか言及されない部分にも光を当てていこうと思います。
先ずは構造。
2つ割り型のポストが使用できず、通し穴を持つポストだけが使用できます。(ごくわずかな例外に関しては特殊ペグの世界で言及します)それゆえ、弦の太さに無理をする超多弦ギターでは採用できないことがあります。Bass VI組み立て時に言及したように、.070付近の太さをロックできるギター用ペグはSperzel以外にありませんし、0.125を超えるベース弦はベース用Trim Lokでも通りません。ちなみにベース用Trim-Lokは独自規格の塊で、オープンギア(Gotoh GB10など)系のブッシュが17mm、クローズド系(同GB707など)が14mmのところBass Trim-Lokは11mmと、既製品にマウントするには穴埋めのブッシングが必要になります。
閑話休題。一旦基礎の話をしましょう。
バックロック式ペグはSperzel Trim-Lokが世界初、後に特許期間が切れその他のメーカーからも販売されています。例えばGotoh MG-T(マグナムロックトラッド)やGroverのROTO-Grips、Hip Shot Grip-Lock、Fender Locking Tunerなどの選択肢があり、そのほとんどはロトマチックタイプでクルーソンタイプのバックロックタイプはGotohからのみ販売、クルーソンのロックペグはトップロック式であれば少々...という状況です。
そのトップロック式ペグは幾つかありますが、PRSのロッキングペグやSchallerのTopLockingなどが有名でしょうか。表面からの見た目が変わってしまうという部分はありますが、一般的にはバックロック式よりわずかに重量が軽いという利点があります。かの有名なGotoh MG(マグナムロック)は構造こそトップロックに近いものの弦の張力を利用する点において違いがあり、また見た目と重量の面に於いてノーマルタイプに近く、安価でありながら高性能なペグとして人気です。
【特殊ペグの世界】
ここまで有名なペグの幾つかを紹介してきましたが、それらとは一線を画す特殊なペグが多数あります。
ギター以外の弦楽器のペグも非常に魅力的で、バンジョーやウクレレに用いるペグ、バイオリン属弦楽器用のファインチューナーやマンドリン用4連ペグなどありますが、ここではギター用のもののみ紹介します。ペグではないのでヘッドレスチューナーは含みません。
まずはファイヤーバード用ペグ。ペグの裏にポストが伸びるタイプで、先程解説した遊星歯車を採用しギターの張力に耐える強度と精度を両立しています。
KLUSON ( クルーソン ) / FIREBIRD TUNER SET NICKEL
デザイン性を重視するギターに搭載されることがあり、7弦ギターの追加ペグとして設置する例を見ましたが、セットで$195、単品で$35と非常に高価です。
GOTOH ( ゴトー ) / SG381-HAPM-07-L6-Chrome
Gotoh HAPMはマグナムロック式のロック機構とペグの高さを自由に調整するH.A.P.機構の両方を搭載しており、ヘッド角のないギターからリテーナーを取り外すことが可能になります。通常の6連ペグは基本的にポスト高は固定であり、1-2弦は低め、3-4弦は普通、5-6弦は高めに設定されている、又は全て同じというのが一般的です。ちなみにSperzelのペグは左右変更可能な構造で作られていますが、6-in-lineと3x3でポスト高が異なる設計なので注意する必要があります。
D'AddarioのアクセサリブランドであるPlanet Wavesからも特殊なペグが発売されています。
PLANET WAVES ( プラネットウェイブス ) / AUTO TRIM 6IN-LINE RIGHT HAND CHROME
一見普通のロックペグですが、余った弦を自動でカットする機能を持っています。工具が要らずに弦交換が可能で楽ですが、クロームもゴールドも黒いサムナットとポストのため見た目が少し目立ちます。
音高を落とすDrop Dチューニングによく使われるのがHip Shot GTやSperzel D-Thingなどのエキステンダー、別名ドロップチューナー。一般的にはベースに用いられますが、ギターにも上記の二つがラインナップされています。D-Thingはなんと左右両対応でロック式。ベースにはDouble Stopという2段階の音高を設定できるものがあります。
HIP SHOT ( ヒップショット ) / GB7 GOLD BASS SIDE DOUBLE STOP
何かがおかしいSperzel Sound-Lok、完全に見た目はノーマルのペグで、画像以外で見たことがありませんが謎の機構を持ちます。

なんと、切らないままの弦をペグ裏まで通し、その状態で巻き上げていくと自動でロックが掛かるのだとか。しかも摩擦によるロックと説明されています。取り寄せてみたい。
【Sperzelのウラ話】
Sperzel Trim Lok、実はペグの中では最も分解しやすく、カスタムの幅が広いペグなのです。左右配置の組み換えがドライバー一本でできることは有名ですが (スタッフブログ参照: 誰も知らない??SPERZELの秘密) 、ある程度の工作機械があればボタンやスペーサーを交換したり、サムナットのデザインを変えてみたりといじくりまわすことができます。そしてなんと、Sperzelの「ギター用ペグ」のボタンは寸法上「ベース用ペグ」のボタンと互換性があります。つまり、ベース用の大振りなボタンが嫌!という場合も、ギターに大きいボタンを付けたい!という場合も、それぞれ交換が可能なのです。(見た目のためにペグ1セット買ってボタンだけ交換する人はいないという意見は無視します。私はやります。)わざわざコントラバスギターやらBass VIやらにロックペグを乗せたいという人にも優しい仕様です。よかったですね。これのおかげでBass VIのチューニングがパズルになる問題から解放されました。
そんな面倒なことしたくないという場合はSperzel公式サイトからオーダーしましょう。3種の筐体、2種のマウント方式、4種2素材のボタンと3種のポスト構造を12色からチョイスできます。色のミックスも可能。オーダーフォームを使用すると郵便番号の桁数で撥ねられることが多いのでメールがお勧めです。
ちなみにサウンドハウスで販売されている6-in-lineはStyle#5のボタンが、3x3はStyle#2と呼ばれるボタンが付いており、また前述の通りポスト高が違います。D-ThingにはStyle#5ですね。
そしてフィニッシュの無表記はメッキ、Satinは艶消し、SBCは黒光りするクロームメッキ系フィニッシュです。参考までにどうぞ。
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