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そんな調整は修正してやる!楽器店員でも間違えがちなネックリリーフ点検方法

2020-09-07

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

突然ですが、あなたがお持ちのギターのネック、ちゃんとセッティングできていますか?

「こないだ楽器店で見てもらったからへーきへーき!」

と思っていたら、実は大違い…。なんてことも結構あるんです。今回はよくあるネックの間違った調整(チェック)方法と、正しいセッティング方法についてお話していきたいと思います。

その1. 間違ったネック調整方法とその理由

それでは、まずは間違った調整方法について解説していきます。たまに楽器店の店員さんが、ギターのボディを持ち上げたり、ヘッドを持って楽器を立て掛ける要領で持ち上げてたりして、ネックの状態を目で見て確認している所を見かけるかと思います。とりあえず、「ネックを目で見てストレートかどうか判断し、トラスロッドを調整している」場合全般と捉えてください。

結論から言ってしまえば、悲しいけどこれ、実は全て「間違った方法」です。ではなぜ間違っているのかという話をしていきます。鍵になるのは「重力」と「不正確さ」です。

例えば重い荷物を持つときに、腕を地面に向かって伸ばした状態で荷物を保持するか、あるいは地面と水平に持ち上げた状態にするかで、腕への力のかかり方は違います。ギターの場合も保持する体勢によって、重力により、どの部分にどれだけの負荷がかかるかは違ってきます。少し回りくどくなりましたが、実際に演奏をするためにギターを構えた状態と、楽器のボディを持ち上げたり、立て掛ける要領で持ち上げたりした状態とでは、楽器(=ネック)の状態は大きく違うということです。

次に「不正確さ」ですが、こちらはもっと単純な話です。「人間の目なんて基本的にそんな正確じゃない」の一言です。

つまり、最初に例として挙げた時々見かける方法は

  • 基本的に人間の目や感覚がそんなに正確なわけではない
  • よしんば正確無比だった所で、重力のかかり方の変化で楽器の状態が変わるので無意味

という理由で間違っていると言えます。アコギのハイ起きの場合、あまり重症な場合は目で見てざっくりと判断することもできなくはありませんが、リペアの方針を決めるには、スケールやジグを使って数値上のバランスを計測・推測する方が、結局は確実です。

その2. 正しいネックの調整方法

ここからは、より明確な基準で、ギターのネックを正しく確認し調整する方法をご紹介していきます。

手順1:ギターを構える

ギターを構えます。普段演奏する時と全く同じ体勢で、基本的には座奏状態(座った状態でストラップをかけない)を推奨します。

手順2:弦を張る

弦を張ります。チューニングを普段通りに正確に行います。ギターの弦のテンション(張りの強さ)は相当なもので、アコギのライトゲージの場合は6本合わせて70㎏を超えてきます。当然そんな大きな力を無視できるはずもないので、これからライブで演奏するくらいのつもりできちんとチューニングします。

手順3:6弦1フレットとジョイントフレットを押さえる(ベース・多弦ギター等の場合は最低音弦)

14フレットジョイントのアコギの場合、14フレットを押さえます。両手がふさがると手順4以降の操作が難しくなるので、1フレットはカポを使って押さえてもOKです。

手順4:抑えた2つのフレットの、中間位置にあるフレットと弦の隙間を確認する

手順3の状態で、1フレットとジョイントフレットの中間にあるフレット(14フレットジョイントのアコギの場合、7または8フレット)と、弦の間の隙間を確認します。テンションをかけたギターの弦はかなり正確なストレートになっているので、これをストレートエッジ代わりに利用します。ごく僅かに隙間ができるくらい、つまり僅かな順反りに設定するのが最適です。あまりストレートにこだわり過ぎると弦のビビりの原因にもなる上、ベタ付けにしてしまうと、本当にストレートなのか、逆反ってしまっているだけなのか、区別がつきません。

具体的には7または8フレットと弦との隙間が0.3㎜程度が、基本的には最適解と言えます(これをネックリリーフ=正常な順反りと言います)。実際の隙間の確認には、あらかじめノギスで厚みを測った薄板(ツキ板)や厚紙、シックネスゲージを使うと便利です。この時フレットや指板を傷つけてしまわないように気を付けてください。ちなみにベースの場合はスケールも長く、弦の振れ幅も大きくなるので、ネックリリーフの基準をもう少し大きく(0.45㎜前後)とってもいいでしょう。

手順5:手順3と4を1弦でも行う

そのまんまですが、7または8フレットと弦の隙間が、6弦(最低音弦)より気持ち小さいくらいが理想です(あくまで理想なので、極わずかな誤差は許容しても大丈夫です)。なお、手順3と4のネックリリーフはあくまで目安なので、多少の誤差は許容してもOKです。

ここまでで、ネックの状態確認は完了です。ここから必要に応じてトラスロッドの調整を行っていきますが、実際の作業は自己責任で行ってください。調整に自信がない場合は無理をせず、信頼できるリペアマンに相談することを強くお勧めします。とくに、調整機能がないスクエアロッドやTバーを使っている場合や、クラシックギター等のロッドがないギターの場合は自力での調整は難しいので、こちらも専門のリペアマンに相談してください。

手順6:トラスロッドを調整します

トラスロッドの調整は少しずつ、ゆっくりが基本です。レンチを回す量は一度の調整につき1/16回転か、多くても1/8回転程度に留めてください。力任せにしてしまい、万が一にもロッドを折らないように気を付けましょう。この時、弦は緩めるようにしてください。

手順7: 手順1から最適な状態になるまで確認と調整を繰り返す

繰り返してください。適正範囲になり満足いくまで、ただただ繰り返してください。

以上で基本の調整は完了です。なお、稀に弦高を下げる目的でトラスロッドを弄るケースもあるようですが、ネックの反りが根本原因でない限りは楽器のバランスが崩れてしまうだけなので、控えるようにしてください。

ネックの状態は少し変わるだけでも、楽器の実性能にかなり大きな影響を与えます。これを機にぜひご自分の楽器の状態をチェックしてみたり、信頼おけるビルダーやリペアマンと出会うための足掛かりにしてみてください。

T.O.R.

学生時代、小さな楽器店で初めて買った中古ギターの改修を切欠に、ジャンクギターの魔改造に手を染める。その後本格的にアコースティックギター製作を学ぶも、メンタルがお豆腐でできていたことにより楽器業界への就職は断念。現在はThor Resonant Factory(Thor Guitars)として、Instagramとヤフーオークションを拠点に、実益を兼ねた趣味として個人で製作活動を続けている。MartinやCollings、Greven等を参考にしたトラディショナルな作風が多いが、中身はフィンガーピッキング向けの、テクニカルな操作性特化の仕様が得意。マッドサイエンティスト的な面もあり、思い付きから楽器に関する実験を始めたり、大破して叩き売られているギターがお宝に見えたりしている。
instagram https://www.instagram.com/thor_resonant_factory/

 
 
 
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