アコースティックピアノは音楽にとってかけがえのない楽器の1つです。
メロディもハーモニーもリズムもベースも奏でることができる万能な楽器、ピアノ。
1960年代にアコースティックピアノは技術の発達とともに電気化=電気ピアノとして発売されました。一方、数多く生まれた電気ピアノの中で今も残り続けているものはそれほど多くはありません。
今回の鍵盤狂漂流記は、今でも音楽家に使われ続けている電気ピアノとそれが使われている名盤、名曲をランダムな特集として取り上げていこうと思います。
電気ピアノの名機はフェンダーローズ・エレクトリックピアノとウーリッツァーのエレクトリックピアノの2台?
電気ピアノの名機として、まず頭に浮かぶのはフェンターローズ・エレクトリックピアノです。音楽をやっている人はローズピアノとかフェンダーローズ、ローズなど、略して呼びます。
もう1つ忘れてはならないのが、ウーリッツァーのエレクトリックピアノです。
このフェンダーローズ・ピアノとウーリッツァー・ピアノという2つの名機は数多くの名盤、名曲を生み出しました。
またエレピと言えば1970年代後半にヤマハがリリースしたエレクトリックグランド、CP70 とCP80も忘れてはならない名機です。
その他にヤマハのデジタルシンセサイザーDX7の作り出したDXエレピもCP同様に多くの名曲に使われました。
アコースティックピアノの音をエレクトリック化した電気ピアノは、音色にそれぞれ特徴があり、その特徴に合った様々なカテゴリーの音楽で採用され、多種多様な楽曲が生み出されることになります。

フェンダーローズ・エレクトリックピアノ, CC BY-SA 3.0 DEED (Wikipediaより引用)

ウーリッツァー・エレクトリックピアノ, CC0 1.0 DEED (Wikipediaより引用)
エレピ(電気ピアノ)といえばローズ・ピアノ!その思い出
なんといってもエレピの代表はフェンダーローズ・ピアノです。このエレピの愛用者はチック・コリア、リチャード・ティー、ジョー・サンプル、ドナルド・フェイゲンなど、挙げるときりがありません。それほどこのエレピは多くのミュージシャンのファーストチョイスでした。トーンバーをハンマーが叩く音をピックアップで拾い、増幅された音はビブラフォンに似て、透き通った良い音がしました。
このフェンダーローズ・ピアノには73鍵と88鍵の2タイプがあります。ネジになっている4本の金属製の脚を本体に回し入れて、さらに2本の金属バーで支える仕組みのステージタイプと、ローズ本体を同様の大きさのスピーカーユニットの上に乗せる、スーツケースタイプがありました。
私は88鍵のスーツケースタイプを所有していました。先輩の楽器店にあった5台のローズピアノの中で一番いい音がした中古のローズピアノを選択しました。
学生時代は大学のサークルで友人所有の73鍵ステージタイプを練習で使っていました。
ローズは素晴らしい音がします。しかし1つ、大きな欠点がありました。
それはどうしようもなく重いことでした。軽音楽部では練習時に2人でローズを持って2階の教室まで運ぶのですが、これが何より苦痛でした。
私の所有していた88鍵は鍵盤数が多い分、73鍵よりもさらに重く、腰を壊した私はこのローズを売却してしまいました。
■ 推薦アルバム:ザ・クルセイダース 『ラプソデー&ブルース』(1980年)

『ストリート・ライフ』というランディ・クロフォードをフィーチャーし大ヒットとなったアルバムからの次作。
ピアニストであるジョー・サンプルが偉大な作曲家ガーシュインへのオマージュとして制作したアルバム。クルセイダースはアルバム中にボーカリストをフィーチャーして構成に変化を付けてきた。セールスアップの戦略だったのかもしれない。起用されたミュージシャンはランディ・クロフォードの他にジョー・コッカーやティナ・ターナー、BB・キングなど個性的なボーカリストばかり。
このアルバムでは、グローバー・ワシントンjr.の大名盤『ワインライト』で起用され大ブレイクしたビル・ウィザーズをフィーチャーしている。煌びやかだったランディ・クロフォードのボーカルとは対極をなす鈍色(にびいろ)の傑作楽曲が含まれている。
ジョー・サンプルはアコースティックピアノを弾かせても上手いが、なんといってもフェンダーローズ・ピアノの使い手として知られている。クルセイダースはカテゴリーとしてはジャズとされているが、サンプルの弾くピアノは4ビートのジャズ的な後ノリとは異なり、先乗り的なリズムの捉え方でピアノを弾く。それがドラマー・スティックス・フーパー、ウイルトン・フェルダーとの一種独特なグルーブを生み出している。
推薦曲:「ソウル・シャドウズ」
私はクルセイダースのアルバム中、ボーカルトラックとしては、このビル・ウィザースのトラックがナンバーワンだと考えている。
楽曲は極めてシンプルな作りだが、その骨格をなしているのがジョー・サンプルの弾くフェンダーローズ・ピアノだ。このローズピアノの選択がこの楽曲に見事な陰影を与えている。
そしてシンガーのビル・ウィザースのくぐもったボーカルが楽曲にさらなる奥行きをもたらしている。この楽曲の白眉は中間部のジョー・サンプルによるフェンダーローズ・ピアノによるアドリブソロ。テクニックを全面に出すことなく、弾き過ぎない抑制されたアドリブラインが素晴らしい。微妙にスケールアウトさせたソロはローズピアノの良さを引き出し、楽曲の良さと相まってこのトラックをワンランク上に引き上げている。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ジョー・サンプル、ビル・ウィザーズなど
- アルバム:『ラプソディ&ブルース』
- 推薦曲:「ソウル・シャドウズ」
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