
モノラル・レコードの魅力を伝えていくブログシリーズです。
この「Back to MONO!」なるタイトルはアメリカン・ポップ史に残る、超偉大なプロデューサー/アレンジャー、フィル・スペクターの作品を集めたボックス・セットから取ったものでした。

2021年のクリスマス・シーズンはこのブログの10回目となる節目時期にもなるため、その際にはフィル・スペクターのクリスマスレコードをご紹介しようと楽しみにしていたのですが、まさか追悼という形でのご紹介になるとは思ってもみませんでした。

今回は訃報を受け、急遽予定を変更して、フィル・スペクターの偉大ポップ・マジックを堪能できるシングルを1枚聴きながら、どっぷりと浸かってみたいと思います。
ステレオミックスが持て囃され始めてからも、モノラルサウンドへのこだわりがかなり強かったというフィル・スペクター。
そんなフィル・スペクターがプロデュースしてきた多くのレコードの中から1枚に絞るのに正直苦慮しました。
今回は、私の思い入れからガールズ・グループ、ザ・クリスタルズのシングルをご紹介します。
The Crystals / Da Doo Ron Ron(1963年)
(Written by Jeff Barry, Ellie Greenwich and Phil Spector)

圧巻のモノラルサウンドを内包したシングルの魅力を伝えることで、フィル・スペクターのご冥福をお祈りする言葉と代えさせて頂きます。
秀逸なコーラスをレコードに吹き込んできたガールズ・グループ、ザ・クリスタルズ。「Uptown」や「Then He Kissed Me」などのヒット曲を放っていますが、グループについての詳細、また偉大なるフィル・スペクターの経歴などについては、これから多くの音楽雑誌やプロのライターの方々によるブログで触れられることになるかと思いますので、ここでは割愛し、このレコードが放つサウンドの特徴を主観的ながらお伝えしたいと思います。
この曲「Da Doo Ron Ron」はグループの二枚目のシングルで全米3位のヒットとなりました。
カーペンターズのアルバム「Now And Then」に収録されたオールディーズ・カバーメドレーの中でも取り上げられていることで耳にした方も多いと思います。

私個人としては、イギリスのロックグループ、ザ・フーが好きだったため、グループが70年代に作成した映画「さらば青春の光」のサウンドトラック盤で夢中になって聴いていたクチでした。映画はイギリスの60年代のユースカルチャー、モッズなる族のシーンにたむろする若者たちを描いたものでした。

クラブの中で若者たちが躍り楽しむシーンで流れていることからも、当時はアメリカのラジオだけでなく、イギリスのクラブカルチャーをも沸かせたことが窺えます。
そんな訳で、今回はこの壮大なスケールで弾けていく、ポップクラシックを、敢えてUK盤シングルで楽しんでみたいと思います。
今回のブログのために、知人から借りたアメリカ盤のシングルを先に聴いておりました。

編集盤や先述のサントラ盤のLP やCDと比べ、歌やサックス、コーラスや歌声、手拍子、さらにはドドンとくるハル・ブレインのドラミングまでもが、これでもかというくらい派手に鳴っており、音の全てが主役かのようでした。
まさにその壮大さにふさわしい、ダイナミックなサウンドでした。

そして、UK円盤をかけますと….まず、イントロの手拍子。
これがハウス・ミュージックの4つ打ちビートに通じるトランシーなトリック。
歌とベースにドラムのフィルインが後半になるにつれ、存在を誇示していく様は、フロアで流せば誰もが高揚することでしょう。
終始壮大なスケールでアメリカンポップスの醍醐味を最大限に伝えるアメリカ盤。それに対して、イントロ、サビ、エンディング等、要所で盛り上がるサウンドのUKシングルの音はやはり、クラブカルチャーが重要視されていることからきているのでしょうか。

レコードの生産国の違いによって、それぞれの国のリスナーの趣向やマーケットの違いも感じられるシングル。いつか私もアメリカ盤を入手してじっくりその違いを味わいたいものです。
フィル・スペクターの関わった60年代中盤までの曲は、やはりこだわりのモノラルで味わってこそと、改めて感じた次第です。
尚、現在Sound & Recordingマガジンの連載の中で、フィル・スペクターのレコーディングに関する記事が楽しめます。

一読しながら聴くと、よりそのポップ・マジックがスリリングに響いてきます…という感想をお伝えして、このブログのペンを置きたいと思います。
さて、次回のブログでは、ポール・マッカートニーのアルバム「ラム」のモノラル復刻盤にスポットを当てていきたいと思います。

それでは皆さんまた次回。
Back To Mono!
今回再生に使用したカートリッジ
audio technica ( オーディオテクニカ ) / AT-MONO3/LP
MCカートリッジながら出力が高めのためMC仕様のプレーヤーやオーディオ環境でも再生できる、モノラル・レコードをお手軽に楽しめる名カートリッジ!