突然ですが、あなたは人前で演奏したり、人前で話す時に緊張しますか?
あるアンケート調査によると、「人前でスピーチをする時は緊張しますか?」との問いに対して、95%の人が「緊張する」と答えたそうです。
つまり、緊張する方が当たり前。「はい」と答えた方は、いたって普通で「緊張しない」という5%の人の方は変わっていると言う事です。

緊張するとどうなるのか
緊張のし過ぎで、内容が飛んでしまったり、思わぬ間違いをしてしまう。体が強張り、手が震えて自然な笑顔もできない。声が震えていつものように喋ることができない。「大切な場面になるといつも緊張してしまう・・」「自分はなんて本番に弱いんだ・・」と自分にがっかりしてしまう人も少なくないと思います。
緊張により手が震えて膝が震えて、口が渇いて頭が真っ白なり、何も考えられなくなるような「緊張し過ぎている状態」では良いパフォーマンスはできません。
緊張した時は「人という字を掌に書いて、それを3回飲めばいい」と言われていますが、むしろそれは「自分は緊張しているんだ」と、改めて自分に思い込ませているようなものなので、効果的ではないようです。
緊張は自分のパフォーマンスを下げる「敵」だと考え、緊張を「無くそう」としてしまいます。しかし最高のパフォーマンスを発揮するためには緊張は必要不可欠。緊張する事により、集中力が高まり、判断力、身体能力が高まるのです。緊張のメカニズムを知れば、対処法が見えてきて、緊張とうまく付き合っていく事ができて、最高のパフォーマンスをする事ができます。
緊張のメカニズム
緊張した時に、脳内ではどうなっているのでしょう?
緊張の原因は3つです。
『交感神経が優位になっている』
『セロトニンが低い』
『ノルアドレナリンが高い』
◎ 交感神経が優位になっている
『交感神経』とは昼の神経と言われていて、いわば活動モードになっている状態です。その反対の『副交感神経』は夜の神経で、休息モードになっている状態。つまりリラックスしている状態です。
『緊張しすぎている状態』では「交換神経」が優位になっているので、副交感神経に切り替えてあげることができれば、落ち着かない気持ちを抑えられます。
副交感神経に切り替える、もっとも簡単な方法は『深呼吸』です。
緊張している状態は、浅い呼吸になりやすいので、交感神経が優位な状態が続きます。逆に呼吸をゆっくりすれば副交感神経が優位になると言われています。
心拍数や体温は自分でコントロール出来ませんが、「呼吸」は自分の意思でコントロールできるのです。
深呼吸については色んなやり方が紹介されています。共通していることは、「ゆっくり呼吸すること」「呼吸に意識を集中させること」そして「毎日練習すること」が必要となります。
深呼吸のやり方(1分3回呼吸法)
①鼻から5秒かけて息を吸う。
②10秒かけて口からストローで息を吐くように細く息を吐く。
③5秒かけて肺の中の空気を吐ききる。
呼吸に意識を向けながら、1分で3回繰り返してみましょう。

◎ セロトニンが低い
『セロトニン』という脳内物質は癒しの物質で、『落ち着き』『平常心』『心の安定』などを司っています。逆にセロトニンが足りないと、朝に弱い、イライラする、キレやすい、感情が不安定、物事の切り替えができない、といった状態となります。
セロトニンは他の脳内物質を調整する働きを持っていて、セロトニンが適正に働く状態を作っておくだけで、過度な緊張はコントロールされるといいます。
ではどうすればセロトニンを分泌できるのでしょうか。
「笑うと気持ちが晴れる」という経験がある方も多いと思いますが、笑うとセロトニンが分泌されます。セロトニンは表情筋をコントロールしているので、自然な笑顔を作るだけでセロトニンの分泌を誘発させることができるのです。
とあるプロドラマーの方がドラムセミナーで「緊張した時は笑えばいいんだよ!」とおっしゃっていましたが、それは脳科学的にみても理にかなっているのです。
◎ ノルアドレナリンが高い
ノルアドレナリンは『緊張そのもの』です。
ノルアドレナリンは追い詰められた状況で、一瞬で正しい判断を行うために放出される物質。すなわち、危険回避のための物質です。
『原始人が猛獣と出会った時に出る脳内物質』とも言われています。
ノルアドレナリンが分泌されると、脳が研ぎ澄まされて、集中力が高まり、判断力、身体能力が高まります。それによって『この猛獣と闘うべきか、それとも逃げるべきか』を一瞬で判断して、行動に移すのです。それと同時に記憶力も高まり、学習能力も高まります。危機に瀕した時、どういう場所で、どんなシチュエーションなのかを記憶しておかないと、また同じ目にあうからです。
適度な緊張で最高のパフォーマンスをする
「緊張の正体」であるノルアドレナリンを出すか出さないかを判断しているのは『扁桃体』という脳の部位です。
扁桃体は何かの出来事に遭遇した時に、その状況が自分にとって命の危険があるのか、ないのかを一瞬で判断します。例えば、交差点で自転車がこちらに向かって来た時、『危ない!』と思う前にサッと体を引いて避けている。これらは扁桃体の危険感知システムのおかげなのです。
人前で演奏する時、なにか大失敗をしでかして、大変な目にあうんじゃないか。そういった未知のことや、予測がつかないことに対する不安感から緊張してしまいます。その時『扁桃体』が『危険』と判断すればノルアドレナリンが出て緊張する。つまり警告を送っているのです。
逆にいうと、『いのちの危険がない』『成功率が高い』『失敗しないだろう』と扁桃体が判断すれば、緊張は生じないことになります。
とんでもなく緊張する場面があったとしても、それを乗り越えて振り返った時には「なんでこれしきのことにあんなに緊張していたんだろう」と思えることがあります。なぜ安堵するのかと言うと、正体がわかったからです。 ということは、未知なことでもぼんやり見えたり、予測がつくくらいには調べたり練習することで扁桃体は「安全」と判断して、緊張を和らげられます。
どれくらい準備するべき?
とは言え、しっかり裏付けがとれるくらいまで準備しているのにもかかわらず、失敗してしまった!という時もあります。
それは残念ながら「準備が足りなかった」と言えます。
ではどうすれば、「どのくらい準備をするべきなのか」がわかるのでしょうか。
それは「場数を踏む」以外にありません。
つまり、いろんなことにどんどんチャレンジして、毎回徹底的に準備するようにしておくと、1つの事柄に対して、どんな準備をしたら良いか、どれくらい準備をしたら良いかがわかります。つまり「準備の仕方」「準備の質」が上がるのです。
「準備の仕方」がわかれば、自分が良いパフォーマンスをする為のプロセスを無駄なく実行出来るようになるし、「準備の質」が上がれば、短い時間でしっかり準備できるようになるのです。

失敗しても良いと思うことも大切
そして、とことん準備が出来たならば「失敗してもいい」と思えることも大事です。
ドラムの演奏で言えば「演奏中にスティックを落としたらどうしよう…」と考えると、力が入ってうまく叩けられなくなります。
「スティックを落とした時はこう対処しよう」と代わりのスティックを用意しておいたり、片手でリズムを叩けるようにしておくことも、「準備の質」です。
片手でも叩けるようにしておくと、スティックを落としてはいけないという恐怖から解放されるので、スティックを握る手の力も抜けて、リラックスして演奏できます。
また、もしも失敗したとしたなら、自分に足りなかったものや、新たな気付きを得てレベルアップできる。成長するためには失敗は必要不可欠なので、失敗を恐れることはないのです。
そして場数を踏んでたくさん経験しておけば、「あの時に比べればまだ大したことない」「失敗しても大したことにはならない。」と気楽に構えれるようになります。
「緊張してきた…」はどこかマイナスなイメージがありますが、緊張は英語で「テンション」と言います。
『テンション上がってきた!』と思えば、プラスのイメージになって良いパフォーマンスを発揮できるのではないでしょうか。
緊張は決して悪いことではありません。適度な緊張は味方となって、最高のパフォーマンスが出来るのです。