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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その27 

2021-01-22

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

鍵盤プレイヤーの音を支えたローランドS50とD-50の功績

ドラマー、村上ポンタ秀一のプロデュースのMIKIの事を書こうと筆を進めていましたが、高中のセカンドアルバムのシンセソロで盛り上がったことから、今回こそMIKIのアルバムです…その前にMIKIバンドを支えたキーボードプレイヤーが野力奏一。彼の冴えたプレイがこのアルバムでは際立っています。MIKIのファーストアルバム、『フィール・ダンディ』のムードを演出しているのは野力奏一操る日本を代表するデジタルシンセサイザーの名機でした。

ローランドS50

ローランドが1986年に発売したサンプリングキーボード。当時、サンプリングと云えばイエスの大ヒット曲、ロンリーハートの「オケヒット」が大流行していました。その音を出したのはフェアライトCMIというサンプラーで価格は1千万円以上というドリームマシンでした。
サンプラーを身近にしたのがローランドS50。その後、ラックマウントタイプのS550というサンプラーも発売されています。これらのサンプラーは音色が入ったフロッピーディスクを機器に読み込ませ音を出すという手間のかかる機材でした。しかし、シンセサイザーで再現不可能だった音が出る為、音楽家にとっては垂涎の機材だったといえます。とはいえ、当時のサンプリング技術の精度は低く、ピアノの音をサンプリングしても「その音のみ」をサンプリング(録音)するだけでピアノの音とはいっても違和感のあるものでした。
私もローランドのS550を購入しましたが、サンプリングというペラペラで奥行の無い音が好きになれず、バンドでは使いにくい機材の為、すぐに売却してしまいました。
サンプリング技術はその後、飛躍的な技術革新で現在もシンセサイザー音源の中心的存在として多くの機材に組み込まれています。
S50の音で「ビブラフォン」はイイ音がしていました。野力奏一はこの音を使い、名演を残します(後述)。

ローランドD-50

ローランドが1987年に発売した、デジタルシンセサイザー。世界的大ヒットしたシンセサイザーです。ファクトリープリセットの完成度が高く、マイケル・ジャックソンやエンヤなど著名アーティストがプリセット音色をそのまま楽曲に取り入れ、話題になりました。国内でも多くのミュージシャンから支持を得た名機でした。
D-50は尺八や管楽器など、複雑な倍音のアタック部分のみをPCMの音素片で再現し、その後の持続音部分をアナログシンセ音と連結させるという画期的な発想を基にしています。
今聞くと違和感が無いわけではないが、音楽現場からは「新しい音」として歓迎されました。
長い間、シンセサイザーに接した自分としては1980年中期から後期にかけてのシンセサイザー開発競争が一番面白かったと思います。技術者の想像力が溢れ、それに当時のテクノロジーが上手くかみ合っていました。
高額で手の届かない楽器がアマチュアにも手が届く価格になり、それがプロ仕様に限りなく近付き、自分もプロと同じ音が出せる…というワクワク感がアマチュアにはあった時代です。
D-50は私も購入し、長い間メインシンセサイザーとして重宝しました。D-50の良さはデジタルシンセサイザーであるもののアナログシンセ特有の温かみのある音でバンドの音にも違和感なく溶け込む懐の深さを持っていました。

■ トップドラマー村上ポンタ秀一プロデュース、MIKIのファーストアルバムは野力奏一のプレイが凄い!

私はMIKIのファーストアルバムが出た当時、村上ポンタがプロデュースと知り、何度か六本木ピットインでMIKIのライブを観ました。
村上ポンタ率いるMIKIバンドは日本を代表するミュージシャン揃い。ドラマーは村上ポンタ秀一、キーボードは野力奏一、ギターは梶原順など、スタジオ録音を上回る素晴らしいライブパフォーマンスを聴くことができました。
特に野力奏一のプレイはアレンジも含め秀逸でした。目の前で繰り広げられるパフォーマンスは私自身の演奏にも大変参考になりました。

推薦曲:「ウィズアウト・ユア・ラブ」

野力奏一は当時のライブではヤマハDX7Ⅱ-FD、ローランドD-50シンセサイザー、S-50サンプラー、アコースティックピアノなどを使用。エレピ系はDX7Ⅱ、シンセ系の音はD-50で出していました。「ウィズアウト・ユア・ラブ」のソロはローランド、サンプラーS-50で弾いています。S-50の音はビブラフォンです。ビブラフォンの音は現在でもそうですが、圧倒的にサンプラーの方がいい音がしていました。アナログシンセではビブラフォンのアタック感の強い、透き通った音を出すのが難しい為です。野力はビブラフォンの音を使い、素晴らしくジャジーなソロを繰り広げています。

推薦曲:「スリーピン・アイランド」

レゲエをベースにしたこの曲はほのぼのとしたムードを持っています。間奏部分のシンセ系の音はD-50。素晴らしいソロです。どこかの島の笛の音でしょうか?笛のアタック部分のブレス(息)音をPCM音、笛の持続音部分をアナログ系の音、といったD-50の特性を生かした音作りがされています。ライブで野力のソロを耳にした時、頭の一部が南の島に飛んでいく様な衝撃を受けました。ソロ4つ目の音のベンディングが全てかと思われる程、見事にD-50を唄わせています。このソロは必聴です!


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:MIKI、野力奏一、村上ポンタ秀一
  • アルバム:「フィール・ダンディ」
  • 曲名:「ウィズアウト・ユア・ラブ」「スリーピン・アイランド」
  • 使用機材:ローランドS50、ローランドD-50、ヤハマDX 7Ⅱ-FDなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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