スタジオをレンタルして、「さあ練習するぞ!」と意気込んだものの、15分程経つと、気がつけばスマホでTwitterを見てしまっている・・・という人も多いと思います。(この記事もまさかスタジオ内で見ていませんか?w)
練習でも勉強でも、やる気にならない、集中力が続かないと「なんて自分は集中力がないんだ・・」と自分にガッカリしてしまいます。
「ダメな自分」のレッテルを貼りたくなりますが、「やる気にならない」「集中力が続かない」というのは、工夫次第で改善できるのです。

短い練習時間で効果的な練習をするために
自分よりも明らかに楽器歴が浅いのに、短い期間で飛躍的に上達する人がいます。「あの人は自分よりも若いからだ。」「自分には音楽の才能がないからだ。」と思ってモチベーションが下がってしまうこともあるでしょう。
しかし、それは「才能の差」でもなければ「練習内容の差」でもありません。
『集中力』の差と言えます。
「生まれながらに音楽に触れる環境に恵まれていた」という人はいますが、練習時間と上達は比例しません。短時間の集中で質の高い練習ができるということは、それだけ練習時間を圧縮できるということなのです。
日々の忙しさに追われ、十分な練習時間を確保できる人は少ないと思います。だからこそ雑念を排除し、目標を定めて、的を絞って取り組む。上達しやすい人は、集中力をコントロール出来るのです。
集中力の仕組み
集中力は、思考や感情をコントロールする「前頭葉」によって発揮されます。
前頭葉は「思考や創造性を担う脳の最高中枢」と言われていて、目標を達成するための「集中力」を生み出す場所です。その「集中力を生み出す力」は『ウィルパワー』と言われています。「高い集中力はずっと続くもの」と考えている人もいますが、ウィルパワーは言わばガソリンのようなものなの。一定量があり、使えば使うほど(集中すればするほど)減っていきます。
集中力を発揮するために
集中力を発揮し、時間短縮して濃い練習をするためには、どうすれば良いのか。
その方法をいくつか紹介します。
◎ 目標をしっかりと定める
目標が漠然としていると、集中すべきものが見えてきません。例えば「ドラムうまくなりたい!」という漠然とした目標では、明確なゴールが設定されていないからです。
目的地が無いまま電車に乗ることはありません。
明確な目的地があるからこそ、ルートが見えてきます。電車で行くのか、自転車で行くのか、そこにたどり着くための「行き方」も見えてくるのです。
ただし、「今から富士山に登る!」というような、自分にとって負荷がかかりすぎる目標は続かないし、できなかった時には自分に対しての約束を破ることになるので、その度に自信を失ってしまうことにも繋がります。
目標設定は、自分が出来るか出来ないかギリギリのライン、つまり「ちょっとムズイ」に設定することで、階段を一段登るように上達します。「やった!」「できた!」という喜びを感じることで、次の目標に向けてのモチベーションに繋がっていきます。
上達は苦行のような、血の滲む努力で壁をよじ登るよりも、階段を一段一段登っていくように、小さな目標を達成し続けることが、結果的により高い所まで登ることができるのです。

◎ とりあえず始める
目的もあり、やりたいという気持ちもあるし、どうしてもやらなければならないのに、「どうしてもやる気にならない!」という時はあります。「やる気になったら始めよう」とやる気が出るのを待っていても、なかなかやる気にならないのは、誰よりも自分自身が一番よくわかっていると思います。
そんな時は「とりあえず、今始める!」ということが大切になってきます。なんとなく部屋の掃除を始めたら、だんだんと気分が乗ってきて、部屋の隅々までピカピカにした、という経験は、誰でもあるのではないかと思います。
とりあえず始めて、5分〜10分続けることで、脳の「側坐核(そくざかく)」が活性化し、『作業興奮』という状態になります。側坐核は、言わば脳のやる気スイッチで、このやる気スイッチは「パチっ」と切り替わるものではなく、エンジンが温まるように、徐々にやる気モードに切り替わって行きます。やる気にならなくても、とりあえず始めて、まずは10分続けてみましょう。
◎ 雑念は集中力の敵!
集中状態を遮断する一番の敵は「雑念」です。練習している時など、個人練習でスタジオに入っている時に、一番の雑念の原因となるのは「スマホ」です。
スマホは誘惑がたくさんなので、練習をしていて、ちょっと休憩のつもりが、15分、30分、Twitterなどを見てしまいせっかくの練習時間を浪費してしまいます。
また練習中に調べ物をしようとスマホを手に取ったつもりが、自分でも無意識のうちにSNSを開いてしまっている事もあります。
集中力は一旦途切れると、再び集中状態に戻るのに、また10分以上かかります。スタジオ練習時に何度も集中力が途切れると、効率の良い練習はできません。
練習の時間は、スマホの音をならないようにして、カバンの奥底にしまっておく。
またスマホのメトロノームやチューナーは極力使わないようにする。または使っている最中に通知が来ると集中力がなくなるので、使うなら機内モードにする。などの工夫をしてみましょう。
◎ 夏休みの最終日の宿題効果を利用する
小学生の時、夏休みの宿題を最後の1日でやりきった!という人もいるかと思います。
宿題が1日で終わるのであれば、最初の1日で全部終わらせてしまえばいいと思いますが、残念ながら実はそういうわけにはいかないようです。
人は限界状況に追い込まれた時、脳内で「ノルアドレナリン」が分泌されます。ノルアドレナリンが分泌されると臨戦態勢となり、集中力を高め、学習能力を高めて、実力以上の力を発揮します。自分を「やらなければならない状況に追い込む」というのも、高い集中力を発揮するのに大切な要素となります。
◎ 時間を決めてやる
例えば、バンド練習で2時間スタジオを抑え、最初の30分は集中して練習し、そこから休憩。少しダラダラモードになり、最後の30分でやっと軌道に乗ってきて、良い感じのところで時間切れ、「もう少しやりたかったなあ」と感じることがあります。
毎日の練習や週1回の練習を習慣にしている方はいるとは思いますが、目的なく練習すると集中力はなくなり、だらけてしまいます。
限られた時間の中で、制限時間を決めておくのも「焦らし効果」でノルアドレナリンが分泌されます。漠然と2時間練習するのではなく、「○分まではリズム練習!」「○分まではアクセントの練習!」「○分までは曲の練習!」など、細かく練習のスケジュールを決めておくと、高い集中力を保ったまま、濃い練習ができます。タイマーを使い、「制限時間内にこの感覚を掴む!」と目標を決めるのも効果的です。
◎ 練習を中断しても構わない!
心理学には「ツァイガルニック効果」というものがあります。
ツァイガルニック効果とは、『人間は達成できなかった物事や、中断・停滞している物事に対して、より強い記憶や印象を持つ』という心理学的な現象です。
完成・完結した物事に対してはスッキリとし、ほかの物事へスムーズに意識を移すことができますが、未完成・不完全なものに対しては、なんともスッキリせず、心地の悪さを感じてしまう、というものです。
その「やり残し感」が記憶に残り、「完成させたい」「スッキリしたい」という欲求を湧き立たせることで、その欲求が興味や関心となり、深く印象付けられるのだそうです。
制限時間内に目標の感覚が得られなくても、脳はそのやりかけのタスクを考え続けてくれます。「もう少しやりたい」というところで打ち切るのも、次の練習のモチベーションにも繋がるのです。

◎ 脳のゴールデンタイムを活用しよう!
睡眠中に頭の中は整理整頓されます。朝起きた直後の脳は「片付けられて何も載っていないまっさらな机」の状態です。
特に朝起きてから2~3時間の時間帯は1日の中でもっとも集中力が高く、「脳のゴールデンタイム」と言われています。脳のゴールデンタイムでこなすべき仕事としては、クオリティの高い文章を書いたり、語学の勉強など、高度な集中力を必要とする「集中仕事」が向いていると言います。
私自身、ドラム教則本『ドラム練習パッドフレーズレシピ』の執筆は、午前中の「脳のゴールデンタイム」にしておりました。夜中に書くこともありましたが、1日の仕事を終えて、頭も体も疲れている、ヘトヘトになって帰ってからの執筆は、スピードが極端に遅くなり、まるで捗りません。
それに夜中に書いたものを翌日の朝に見ると、文章や内容のクオリティがとても低く、翌日に何度もやり直しました。朝に早起きして、2、3時間執筆の時間を確保し書くようにすると、夜中に書いていた3倍の速度で書けるようになっただけでなく、文章のクオリティも上がったのです。
深夜のスタジオにカンヅメになり、朝まで練習!と言う練習をしている方もいるかとおもいますが、頭も体も疲れている状態では集中力が低下するので、効率の良い練習は難しいと言えます。
集中力をリセットする
とりあえず始めても、どうも捗らない。どうしても集中できない!ということもあります。脳が疲れている状態で無理やり練習や勉強をしても、全く捗りませんし、記憶されないので、上達に繋がりません。そんな時は一度集中力をリセットする事も大切です。
◎ 15分〜20分くらいの仮眠でリセット
15〜20分くらいの仮眠で、集中力や記憶力など、脳のパフォーマンスを全面的に改善すると言われています。
ただし仮眠の時間が30分以上になると、深い睡眠に入ってしまうため、脳のパフォーマンス的に悪影響を及ぼします。寝る前にコーヒーなどのカフェインを摂取しておくと、30分後にカフェインの効果が現れるので、目が覚めやすくなります。
◎ 1分間仮眠でリセット
仮眠する時間がない!という多忙な時でも、椅子に深く腰掛け、1分間目を閉じるだけで脳を休ませることができます。ここで大切なのは「脳に入ってくる情報を遮断する」ということですので、休憩中にゲームをしたり、SNSを見るのは、集中力を回復させることには繋がらないのです。

◎ 運動でリセット
30分程度の有酸素運動をすることによって、その直後から学習能力、記憶力、モチベーションがアップします。言わば、朝起きて2〜3時間の「脳のゴールデンタイム状態」になります。
ただし筋トレなどの激しい運動の直後は疲労してしまい、逆に集中力が下がってしまうため、「適切な運動量」でやめておく、ということが大切になってきます。
終わりに
現代人、特に社会人の方は、忙しい毎日を過ごしていて、なかなか自分の時間を確保するのは難しいと思います。1日24時間と言うのは、平等に与えられた時間です。その限られた時間を有効活用するために「集中力」をうまく使い、有意義な音楽ライフを過ごしましょう。