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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その22

2020-12-16

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

人生初のシンセサイザーはローランドSH-5と四人囃子

オーバーハイムシンセサイザーの次は日本シンセサイザーの雄、ローランドです。今回は少しポリフォニックシンセサイザーの道を外れ、私のシンセ初体験記を導入部として日本のプログレシブロックバンド、四人囃子を紹介させていただきます。
私がローランドのシンセサイザーを初めて手にしたのは18歳の時でSH-5という機種でした。当然、和音など出る筈もなく、モノフォニック(単音)仕様でした。重量24キロと重く、無骨で機械然とした面構えのシンセサイザーでした。シンセのことなど全く分からない私がこの機種を選んだ理由はその面構えでした。当時、キース・エマーソンが使っていたミニモーグは63万円という高嶺の花。手が出る筈はありません。ミニモーグの様にパネルが立ち上がり、ノブを操作しながら音を出すことに憧れを持っていた私は競合機種だったコルグ800DVよりもSH-5を選びました。
パネルは一見、複雑そうに見えますが、VCO-VCF-VCAという信号の流れが整理され、分かりやすいレイアウトでした。当時、ミニモーグには付いていないS/H(サンプル&ホールド)という宇宙的でランダムな自動音階?機能に胸がときめきました。SH- 5 の出音は野太く、ザラッとしたイイ音がしました。

日本のピンク・フロイドと云われた四人囃子をコピー!

大学の軽音楽部に所属した私はプログレシブ・ロックをコピーするバンドでキャメルやトッド・ラングレン率いるユートピア、イエス、四人囃子などをコピーしました。そこで大活躍したのがSH-5でした。

ローランドSH-5


■ 推薦アルバム:『一触即発』(1974年)/ 四人囃子

四人囃子は1971年に結成された和製プレグレシブロック・バンド。メンバーは森園勝敏(G)、坂下秀実(key)、中村真一(B)、岡井大二(Ds)。『一触即発』は1974年にリリース。和製ロックの大名盤として高い評価を得ています。
私の所属したバンドでは「おまつり」と「一触即発」をコピー。四人囃子の魅力は森園勝敏のギターとボーカルによるところが大きいです。特に上手なボーカルではないが森園の歌唱には得も言われぬ味わいがあります。和製プログレを標ぼうするバンドにとって森園は欠くことのできないプレーヤーであり、陰影のあるボーカルと末松康生の詩が四人囃子の楽曲に深みを加えています。当時、20歳そこそこのメンバーがこのアルバムを作り上げたというのは驚愕に値すると思います。

推薦曲:「一触即発」

我々がコピーしたのは四人囃子の大名曲、「一触即発」。最初のコピーは「おまつり」でしたが、シンセサイザー、キーボードを切り口とするこのコラムでは「一触即発」を最初に 取り上げます。
B面の多くを費やす大作主義は当時のプログレの流行りでもありました。短いリズムを強調したイントロの後、森園のギターメロからスタートし、シンセサイザーパートがあり、ボー カルバートへ繋がるなど、組曲的な構成になっています。
坂下秀実のキーボードプレイはハモンドオルガン、シンセサイザー等、出しゃばらない的確なプレイが印象的。ハモンドオルガンの刻み等はピンク・フロイドの『おせっかい』を想起させます。四人囃子はプロになる以前もピンク・フロイド『おせっかい』の「エコーズ」を完全コピーで演奏するバンドと云われていたので、それも十分に頷けます。
当時、私が使用していたのはSH-5の他にハモンドNewX5やコロンビアの古いエレピなどでした。軽音の同級生だったS君は音楽学科のピアノ専攻だった為、腕前はプロ級でS君にはいろいろと教わりました(S君は後にプロになり、稲垣潤一さんのライブアルバム、『J.LIVE』にもその名前がクレジットされている)。
SH-5はボーカルパートのブリッジ的な間奏部分で活躍。このアルバムのブリッジ部分では森園のボーカルをレスリースピーカー(オルガン専用のロータリースピーカー)に入れ不思議な感じを演出しています。私が見た四人囃子のライブでは坂下氏がSH-5のピンクノイズをバンドパス・フィルターにかけて風の音を作っていました。我々もそれを真似て同様な音を出しました。風の効果音はSH-5ではすごく簡単に出せました。78年頃は鍵盤楽器から風の音が出るとは誰も考えないので随分、ウケた記憶があります。

推薦曲:「おまつり」

四人囃子を我々のバンドで最初にコピーした曲が「おまつり」。私が19歳の時です。この曲はギタリスト森園勝敏のロック的でない特性が良く出ている曲。ロック的でないというのは森園が後に四人囃子を脱退する要因と微妙に関わっています。森園は四人囃子脱退後、プリズムというジャズフュージョンンバンドに加入する。「おまつり」を聴くとプリズムで展開する音楽との共通項を見出すことができます。
「おまつり」のリード部分を聴くと「一触即発」のようなディストーションギターではなく、ストラトキャスターのナチュラルなトーンを生かした音質でプレイしているのが誰も分かるでしょう。Em7とD△7の繰り返しの2コードの展開はある種、ボサノバのギターを思わせます。坂下のオルガンソロも前半はロックというよりはボサノバを意識しているように思われます。
途中からはロックになるが、「おまつり」を覆っているムードは夢の中をさまよう孤独な少年といったところか?サビ後の森園のギターも「仲間外れにされ、自分の街に戻るバラ色のシャツを着た少年」(曲中にあるシチュエーション)の寂しさを思わせるフレーズが出色です。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:四人囃子 / 森園勝敏 坂下秀実
  • アルバム:「一触即発」
  • 曲名:「一触即発」「おまつり」
  • 使用楽器:ハモンドオルガン、ミニモーグ、SH-5、フェンダーローズ
 

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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