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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その12

2020-09-23

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

ポリフォニックシンセサイザーCS-80が使われたTOTOの名盤

前回はヤマハのポリシンセCS-80を使ったエディ・ジョブソンの特集でした。今回はCS-80を使った代表的なミュージシャン、TOTOをご紹介します。TOTOはボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)の名盤「シルク・ディグリーズ(Silk Degrees)」のレコーディングメンバーが中心となったアメリカ西海岸を代表するバンドです。デビッド・ペイチとスティーブ・ポーカロによるツインキーボードバンドで1978年にデビュー。当初はアメリカンプログレハードロックなどと云われていました。西海岸のアメリカンロックにツインキーボードで味付けをした洗練された音楽を作っていました。タイトで粘るリズムの上にソウルフルなボーカルが乗るポップで洗練されたTOTOミュージックは世界にその名を広げていきました。その一翼を担ったのが2人のキーボードプレイであることは言うまでもありません。当時のロックバンドで2人のキーボード編成は珍しく、ツインキーボードによる新しいアレンジが生まれました。デビッドはピアノ系、スティーブはオルガン、シンセ系と役割分担を決め、TOTOサウンドが構築されています。デビュー当時の写真を見るとデビッドはヤマハCS-80を、スティーブがCS-80をプレイしています。

ヤマハ CS-80


■ 推薦アルバム:『宇宙の騎士(TOTO)』(1978年)

ファーストアルバムにしてTOTOの最高傑作。ベストはグラミーに輝いた「聖なる剣(TOTO IV)」という評価もありますが、私はファースト派です。その理由は「愛する君に(I'll Supply the Love)」「ホールド・ザ・ライン(Hold the Line)」「ジョージ・ポージー(Georgy Porgy)」など、高品質な楽曲が揃っていることとバンドの勢いがあることです。演奏能力に加え、作曲能力の高いメンバーの存在がバンドとして長続きしている最大の要因だと思います。そしてファーストアルバムのサウンドやムードを作っているのがCS-80です。このポリシンセなくしてこのアルバムはあり得ません。これまで単音しか出なかった楽器が和音に替わることでピアノ中心だったアメリカンロックに新風が起きました。その風を吹かせたのがヤマハのCS-80だったのです。

推薦曲:「子供の凱歌(Child's Anthem)」

オープニングからオーケストラを思わせるCS-80のサウンドが鳴り響きます。その後、3連のポルタメントがかかったアナログシンセ独特の音…シンセサイザープレイヤーの皆さんが大好きな音が聞こえ、まるでプログレシブロックを思わせるムードが立ち込めます。スティーブ・ルカサーのメロディーからの展開を聴けば当時、TOTOが「プログレーハード」と称されていたのがよく理解できます。

推薦曲:「愛する君に」

スティーブ・ルカサーのギターカッティングから始まるこの曲。プログレムードは一新します。ファンキーなサビがキンボールのソウルフルなボーカルを引き立てています。シンコペーションの効いたキメの後に登場するのがスティーブ・ポーカロがプレイするCS-80です。このアルバムの勢いを象徴するかのようなアナログシンセ特有の音。CS-80は「TOTOホーン」と云われるブラス系シンセ音色の固有名詞まで作り出しました


■ 推薦アルバム:『ハイドラ(Hydra)』(1979年)

TOTOのセカンドアルバムは前作のプログレハード路線からは外れ、良質なアメリカンポップロックバンドの様相が濃くなります。ロックというより「セント・ジョージ&ドラゴン(St. George and the Dragon)」など良質なポップソングが並んでいます。バンドの演奏はタイトで適材適所にバランス良く配置された楽器のアンサンブルが見事です。このアルバムでもCS-80のポリシンセサウンドはアルバムのムードを作る大きな要素になっています。

推薦曲:「ハイドラ」

冒頭部のSE部分から生ピアノにCS-80のテーマが被さり、ジェフ・ポーカロのタイトなリズムに合わせる形でCS-80がブラスアンサンブル風のリフを刻みます。中間部にもCS-80のホーン系の音がちりばめられ、CS-80無しではこの楽曲は成り立ちません。 話のネタですが...この「ハイドラ」では腕利き達の演奏からミストーンが聞こえます。 サビ部分のDo you want your freedom~Do you want my love♪~ loveの少し後に気持ちが悪い響きが聞こえるので直ぐに分かります。演奏全体が良かった為、録り直しをしなかったのでしょうか。真偽のほどは分かりません(^^♪

推薦曲:「99」

シングル化されヒットチャートにも上った前期TOTOの代表曲。スティーブ・ルカサーがボーカルをとっている。間奏でCS-80によるソロが秀逸。シングルを意識してか非常にメロディアスなソロ。TOTOの得意とするホーンの音です。このソロはアドリブというよりもあらかじめ譜面に起こし丹念に練られた印象を受けます。ピアノアルペジオのバックに流れるシンセパットもCS-80によるもの。滲んだような音色はこのポリシンセの得意とするものです。


■ 推薦アルバム『聖なる剣(TOTO IV)』(1982年)

グラミー賞を6部門受賞のお化けアルバム。シングルも3枚がチャート入りし、TOTOの音楽が一番輝いていたという評価も多い。一方、バンドとして1つの頂点を迎え、次に何をするのかがメンバーにのしかかるきっかけを作ったアルバムかも知れません。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」しかり、ピンク・フロイドの「狂気」しかりである。音楽や小説などは「ファースト・アルバム」、「処女作」が一番と云われるが、TOTOもその例外でないように私は感じます。

推薦曲:「アフリカ(Africa)」

 全米チャート1位に輝いた名曲。アフリカ原住民を思わせるリズムをループさせ、美し いメロディーが展開される。Aメロのソフトブラス系のバッキングはCS-80か?それに寄り添うカリンバ系の音はヤマハのFM音源デジタルシンセサイザーGS-1。この後、アナログのポリフォニックシンセサイザーに替わり、ヤマハがFM音源の廉価版であるDX-7が発売されます。世界中が新しい音に熱狂するのはもう少し先の話になる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:TOTO
  • アルバム:「宇宙の騎士」「ハイドラ」「聖なる剣」
  • 曲名:「子供の凱歌」「愛する君に」「ハイドラ」「アフリカ」
  • 使用楽器:ヤマハCS-80、CP-80、ハモンドAなど

鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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