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両利き?1Way?何が何だかなトラスロッド解説

2020-09-10

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

トラスロッドと言えば、ギターやベースのネック内部に仕込まれた金属製の棒で、主にネックの補強や反りの補正に使われるパーツですが、実はめちゃくちゃ奥が深いパーツだということをご存じでしょうか?今回は、そんな奥深パーツ「トラスロッド」について、色々語っていきたいと思います。

1. トラスロッドの原理

最初に書いた通り、トラスロッドの重要な役割として「ネックの反りを補正する」というものがあります。基本的にトラスロッドについているナットを締めると逆反る方向(順反り→逆反り)に、緩める(=逆回転させる)と順反る方向(逆反り→順反り)に動くわけですが、ただの金属の棒に付いたナットを回すだけでどうしてそんな動きが生まれるのか。わかりやすくするために、1Way(片利き)タイプを例にとって、イラストを使って説明していきます。

まずはアコギのネックを、センターラインから真っ二つに割ってみます。

大体こんな感じになります。この状態ではまだトラスロッドは入っていないので、早速仕込んでみようと思います。

仕込んでみました。さっきの図にはなかった灰色のパーツがトラスロッド、その上の乳白色の部分がトラスロッドを固定するための埋め木です。勘のいい方はもう気づいたかもしれませんが、トラスロッドが直線ではありません。実はここがこのタイプのトラスロッドのミソで、湾曲した状態で仕込まれることで初めて効果を発揮します。ロッド先端のナットをレンチで締め上げることで、曲がった状態で埋め込まれたトラスロッドを両端から引っ張る力が生まれます。その結果トラスロッドがストレートな状態に近づくことで、相対的にネックが逆反り方向に動くというわけです。

これが最も原始的な1Way(片利き)タイプのトラスロッドの動作原理です。

2. トラスロッドの種類

先ほどから1Way(片利き)タイプという言葉を使っていますが、当然両利きタイプも存在します。1Way含めて、トラスロッドには他にも様々な種類があります。どんな種類のロッドがあるのか、主流なものをいくつか見ていきましょう。

2-1. 1Wayタイプ(シングルアクション)

先ほどの解説イラストで例にとった、最も原始的な“アジャスタブル”トラスロッド、つまり調整可能なトラスロッドです。動作原理は先ほど説明した通りで、1Wayの名の通り、基本的に順反りを補正することにしか使用できません。楽器の製作過程次第で、僅かながら逆反りを順反りに補正する「疑似2Way」的な効果を持たせられなくはありませんが(逆反り平面出し)、あまり大きな効果は期待できません。ただしその単純な構造ゆえに信頼性も高く、キックポイント(トラスロッドの利きが一番大きくなる部分)を任意で決められることも大きなメリットです。

2-2. 1Wayタイプ(チャンネルロッド)

鉄の棒だけだった先ほどのトラスロッドの改良型で、シングルアクションロッドがコの字のアルミ棒(アルミチャンネル)に組み込まれているため、強度が向上しています。チャンネル内のロッドは最初から湾曲した状態で組み込まれているので、ネックにまっすぐな溝を掘りそのまま組み込むことができ、製作時の作業性も格段に向上しています。埋め木も必要ないので、製作側から見てもありがたいタイプでもある反面、基本的に先述の逆反り平面出しはできないのが玉に瑕です。2006年ごろまでのMartinや一部の古い国産アコギで使用されています。

2-3. 2Way(ダブルアクション)ダブルロッドタイプ

※反りをわかりやすくするためマスキングテープを巻いています

順反りにしか対応できなかった1Wayトラスロッドの改良型で、逆反りを順反り方向に補正する機能が追加されたタイプです。レンチを受けるナットがトラスロッド本体に溶接されていて、左右どちらに回しても外れなくなっていることに加え、上下2本の金属棒で構成するダブルロッド構造を取ることで、ナットを回転させて上下の棒に生まれた長さの差を利用して反りを補正できる構造になっています。

チャンネルロッド同様に埋め木を使わず仕込むことが可能で非常に便利な反面、各部の溶接個所の施工が甘いとそこから破断する可能性があるため、製作者側はロッドのメーカー選びに苦心することもあります。また、このタイプと同じような見た目・構造のダブルロッド1Wayアクショントラスロッドも存在してややこしいですが、これは先端のナットを取り外せるかどうかで簡単に判別できます。

2-4. 2Way Hot-Rod

上記のダブルロッドタイプを発展改良させたような2Wayトラスロッド。ブラス(真鍮)製のブロックを使い、ダブルロッドタイプではナット含め3か所あった溶接箇所を1か所に留め、上側と下側のロッドの強度差を無くすことで強度・耐久性の面が向上しています。ただしその分トラスロッドを仕込むための溝を深く掘る必要が出てくるため、薄いネックには使いづらいという問題もあります。とはいえその信頼性は非常に高く、愛用している個人製作家も多いようです。

2-5. ノンアジャスタブルロッド(Tバー)

その名の通りT字の断面を持つトラスロッドです。原始的と紹介した1Wayタイプより更に原始的なトラスロッドで、平たく言えばただのT字の鉄の棒です。弦の張力に対する抵抗力という意味ではかなり強い部類ではありますが、その名の通り後から補正を行うことができないので、一定以上の反りが発生した場合、フレットすり合わせをはじめとする大掛かりなリペアが必要になる場合もあります。腐食を除けばトラスロッドそのものが破損する確率はほぼゼロですが、T字の溝をネックに掘らなければならないこともあり、製作者側にとっては面倒な作業が要求されるなど玄人向け仕様となっています。プリウォー等、かなり古いMartinで使用されていました。

2-6. ノンアジャスタブルロッド(スクエアロッド、SQロッド)

「Tバーの仕込み作業って面倒やんなぁ…。せや!強度が出せるなら別にT字じゃなくてもええやん!」ということで、60年代に先述のTバーから仕様変更する形でMartinが導入した新型トラスロッドです。が、結局ただの四角い鉄の棒。仕込みの作業は楽になったものの、やはり玄人向けの仕様と言えるでしょう。

以上がかなりざっくりとしたトラスロッドの種類と解説です。他にもコンプレッションロッド、エボニーロッドやチタンロッドなど、色々なタイプや材質のトラスロッドが存在します。「このロッドはネック内部の密度が高いから音にいい影響が出る」といった話もありますが、個人的には楽器は様々な要素が積み重なってできあがるものだと考えているので、今回は敢えて言及していません。その辺りも含め、これをきっかけに自身で色々調べてみるのも面白いんじゃないかと思います。

T.O.R.

学生時代、小さな楽器店で初めて買った中古ギターの改修を切欠に、ジャンクギターの魔改造に手を染める。その後本格的にアコースティックギター製作を学ぶも、メンタルがお豆腐でできていたことにより楽器業界への就職は断念。現在はThor Resonant Factory(Thor Guitars)として、Instagramとヤフーオークションを拠点に、実益を兼ねた趣味として個人で製作活動を続けている。MartinやCollings、Greven等を参考にしたトラディショナルな作風が多いが、中身はフィンガーピッキング向けの、テクニカルな操作性特化の仕様が得意。マッドサイエンティスト的な面もあり、思い付きから楽器に関する実験を始めたり、大破して叩き売られているギターがお宝に見えたりしている。
instagram https://www.instagram.com/thor_resonant_factory/

 
 
 

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