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「さん」付け文化、本当にそれだけでいい?

2026-07-27

テーマ:サウンドハウス創業者のコラム「Rickの本寝言」

Rickの本寝言 サウンドハウス創業者が本音をついつい寝言でつぶやく!

最近、社内で部長や課長などの役職名や肩書きではなく、「○○さん」と呼び合う企業が増えています。「さん」付け文化が広まっている背景には、肩書きよりも、一人ひとりの人格を尊重する文化が浸透し始めていることがあると言われています。その目的は、誰もが自由に意見を言える職場環境を作ることにあります。相手のジェンダーや肩書き、年齢、先輩・後輩といった立場をさほど気にせず、誰もが一定の敬意を払いつつ気楽に呼び合えることができるのが、「さん」付けの利点です。誰に対しても「さん」付けをすることにより、心理的安全性が高まるのではないかという考え方もあります。確かに、その意義は理解できます。

最近では小学校でも「さん付け」指導が広がっているというニュースも流れています。クラスメートをあだ名で呼ぶことを禁じ、「さん付け」するように指導する学校が増えているというのです。その理由のひとつに、あだ名がいじめに結び付くケースが見られると言われています。しかしながら、呼び名までルール化することは、子どもたちの自由かつ、円滑なコミュニケーションを阻む恐れもあり、議論が続いています。

大事なことは、本人が呼ばれたい名前で呼ばれるのが一番良いのではないでしょうか。よって、「さん」付けを会社のルールとして全員に求めることには、少し違和感があります。呼び名というものはその人自身を表すラベル、芸名のような役割のものであり、本人の自由意志を尊重するべきではないか、というのが自分の考えです。また、「さん」付けが定着した社風は、場合によっては、社員同士の距離感を保つための文化として機能していることもあるように思います。相手との一定の距離感があるからこそ、「さん」と呼ぶことにより、自身との関わりを調整し、それがいわゆる暗黙の安心感に繋がることもあるのではないでしょうか。

自分が創業したサウンドハウスでは、創業当初、社員は家族、という考えに徹していました。だから、親しい家族のように名前もそのまま呼び、毎日のように一緒にご飯を食べ、時には旅をし、一緒に海外に行くことも少なくはなかったのです。また、男女の区別も創業以来、一切ありませんでした。旅は道連れ、世は情け、とも言わんばかり、社員といつも行動を共にしていた時代が懐かしいです。ところが、自分が創業した会社であるにも関わらず、創業時代のカルチャーは激変し、その一端として、いつの間にか社内でも「さん」付けのカルチャーが浸透しました。それ自体は決して悪いことだとは思いませんが、この流れに関しては、少し説明が必要です。

そもそもサウンドハウスは、アメリカで企業経営をしていた自分が創業した会社であり、創業当初からアメリカ流の経営スタイルを貫いてきました。その事例として、形式やルールに捉われることなく、例えば服装は自由であり、社員同士も友人のような関係性という風潮を大事にしてきたのです。事務所内では愛犬がいつも闊歩し、みんなに懐いていたことも懐かしく思えてきます。とにかく社内では日本離れした空気感が漂っていました。

創業当初は若手社員がほとんどであったため、みんながすぐに親しくなり、自分もその中に入って、それぞれが呼ばれたい名前をそのまま使うようになりました。社内での呼び名は、その人が親しい友人から呼ばれている愛称やニックネームが使われることも少なくありませんでした。その結果、実にフラットな組織が生まれたと考えています。

自分のアメリカ名はRICKで、普通にリックと呼ばれることに長年慣れていたこともあり、会社のトップでありながら、自然にリックと呼ばれるようになりました。最初に入社した経理の女性は、自分よりもかなり年上でしたが、そのまま普通に「さん」付けではなく、みんなが彼女の下の名前を呼ぶようになりました。また、入社した女性社員の中には、「ちゃん」付けで呼ばれた方もいたし、中には学生時代のニックネームのまま呼んで、という方もいました。そして、社内外でも親しい友達のように、ニックネームをそのまま呼ぶようになり、ある時、来社されたゲストの方から、「あの方は奥様ですか?」と言われたこともありました。それほどまで、社員と親しく呼び合っている間柄に見られたのでしょう。それはむしろ、自分の誇りにも思えることでした。なぜなら、そのような親近感が生まれる会社の組織こそ、自分が大事にしてきたコーポレート・カルチャーだったからです。

そのようなアメリカ風のサウンドハウス・カルチャーの流れが変化する転機となったのが2011年です。古代史のリサーチャーとして「日本とユダヤのハーモニー」を執筆するため4年間、会社代表の席を知人に任せました。その新社長が社員全員に対し、社長を「さん付け」で呼ぶようにと指導したのです。その時から、サウンドハウスの社内でも「さん」付けが広まっていきました。そしてアメリカ風の考え方が、段々と消え失せていくことになったのです。

昨今では、例えば女性社員を下の名前で「さん」付けもなく、そのまま呼ぶことは、場合によってはクレームにもなりかねません。「ちゃん」付けも慎重にならざるを得ない風潮が漂っています。おそらく自分は、若手社員のご両親よりもだいぶ年上であり、みんな自分の子どものようにも見えます。それでも「ちゃん」付けはいけない、という考え方が増えてきていることから、自らを戒め、社員との間に一線を引く努力をするようになったのはつい最近のことです。それは、社員と距離を置くことであり、不本意な話です。お堅い昭和の時代から自由な令和の時代になったはずが、逆にルールに縛られてみんながそれぞれ相手と距離を置くようになったようにも思えて仕方ありません。

いずれにしても、理解しづらいことがひとつあります。それは、名前を呼び捨てにされたくない、と言っている社員が、海外から来られるゲストと再会すると、ごく普通に名前をそのまま呼び捨てにされても、クレームにならないことです。外国の方ならば、名前をそのまま呼ばれても、本人はニコニコと挨拶をする。一方で、同じことを自分がすると、なぜ怒る社員がいるのだろうか。自分自身も海外生活が半分であり、内心は半分、アメリカ人的な感覚なのですが、致し方ない昨今の風潮として受け止めています。

社内における呼び名については、結論は簡単です。本人が呼ばれたい名で呼ばれるのが一番良いということにつきます。企業文化は、呼び方で決まるものではありません。互いを尊重し、信頼し合える関係があってこそ、本当の意味で自由なコミュニケーションが生まれます。そして人を尊重するとは、呼び方を企業が統一することではなく、相手が望む呼ばれ方を尊重することではないでしょうか。「さん」でも、ニックネームでも、呼び捨てでも構いません。大切なのは本人の意思と人間関係を尊重する企業文化であり、お互いの信頼関係なのです。

Rick - 中島尚彦 -

1957年東京生まれ。10代で米国にテニス留学。南カリフォルニア大学、ウォートン・ビジネススクールを経て、フラー神学大学院卒。GIT(Guitar Institute of Technology)第2期生のギタリスト。80年代にキリスト教会の牧師を務め、音楽ミニストリーに従事しながら、アメリカで不動産会社を起業。1989年、早稲田でライブハウス「ペトラクラブ」をオープン。1993年千葉県成田市でサウンドハウスを創業。2001年、月刊地域新聞日本シティージャーナルを発刊。主幹ライターして「日本とユダヤのハーモニー」の連載をスタートし、2010年よりwww.historyjp.com を通じて新しい切り口から古代史の流れをわかりやすく解説。2023年、一般財団法人サウンドハウスこどものみらい財団を創設し、こどもたちの支援にも従事。趣味はアイスホッケー、ピアノ演奏、トレイルラン、登山など。四国八十八ヶ所遍路を22日で巡る。グループ企業の経営指導に携わるかたわら、古代史の研究に取り組み、日本のルーツ解明と精神的復興をライフワークとする。

 
 
 
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