前書きなしでさっそく行きましょう。駒の話です。



画像の駒は左から、新駒(しんごま)、工場出荷の駒、修正した駒です。
新駒は未加工品。つまりパーツ工場で大まかな形に作られたものです。このままでは楽器に使用できないので望ましい形に削って加工します。
駒には材質でランクがある事は過去ブログで書いておりますので、よろしければご一読ください。
新駒
新駒と成形済の駒を重ねた画像がこちら

削りの工程には「大まかな決まり」はありますが、作業する人により形状はアレンジがされるものです。
工場出荷の駒
量産品の楽器に工場出荷時点でついてくる駒はある程度の加工がされて入荷してきます。
しかし駒上面のR(丸みのこと)が適切でなかったり、全体のフォルムが今一つだったりした場合は手を入れて加工を加えます。サウンドハウスを除く、世間で流通する通販バイオリンのほぼ全数はこの状態で届くと考えていいでしょう。
修正した駒
サウンドハウスから出荷されるPVN244の駒です。本来は奏者の好みが出来るだけ反映された仕上がりになるのが理想ですが、商品として供給される量産楽器の場合、いわば「万人好み」のセッティングにされることになりますし、逆に時間的な制約などの理由でそれ以上の事は出来ないのが実情です。
それでは百聞は一見に如かず。駒の成形作業を動画にてご覧ください。なお、説明の都合上、画面の見やすさ等を考慮して若干実際の作業よりも割愛している部分が大きいことをご容赦ください。要所だけまとめましたが実際はもっと時間のかかる作業です。
動画キャプチャと説明

ザクザクとノミで削っていきます。

ここで形が決まります。

糸道を均等に11.5mmのピッチでつけていきます。

各弦の太さに合わせたヤスリで糸道をつけます。

駒の腕部分、人間で言えば二の腕の外側を削ります。

この作業を「あしぐり」と言います。というか、そう習ったので何十年も語源について考える事はありませんでした。

そしてこの使っている小刀も「クリ小刀」と呼んでいるというわけです。

これは彫刻刀、平刀です。ジョイフル本田で買ったものです。

この小刀は私の師匠に当たる方から頂いたものです。
なぜ削って形を整えるのか
これはシンプルに考えて良いと思いますが
- 音の改善につながる
- 見栄えが良くなる
の2点に尽きるかと思います。
音の改善につながる、とは?
削ることで駒の質量(重さ)が軽く、全体に厚さが適切になって、良く響くようになる。
これは駒の材質や、楽器との相性でも効果のほどは個体差があるわけですが、響きを良くするために駒を薄くするのは効果的な方法のひとつではあります。
見栄え
キレイに仕上げる。何事においても大事な要素ですが、美的感覚はそれぞれですしこれも過剰な造形美を誇るほどの装飾は音に影響があるものではないと思います。それでも世間に出回る楽器の駒はよく見ると一個一個微妙に異なる削りが施されていて、それはそれで見ていて愉しいものです。
沢山の楽器を一度に見る機会、というのは一般の方には多くないと思いますが、楽器店を訪ねたりする機会があれば駒の造形を見てみるのもいかがでしょう。

こうして「廉価なバイオリンで良い音を出すため」に出来そうなことは一通りやってみました。各部調整を終えたPLAYTECH PVN244、出てくる音はどうだったのでしょう。
そしてここで素晴らしい音を奏でるPVN244の動画!!を掲載できれば出来過ぎですが、録音は部屋の残響の影響や録音する機材の特性上、かなり難しくおそらくは良さが伝わる動画にはならないだろうと思いますのでご想像にお任せします。ただし、音は間違いなく改善しています。
読者の皆様はご自分の楽器にご自分の意志で、手を加え、愛情を注いでより良い音を目指し、ご自身の耳と身体で「音、良くなった!」と実感して頂きたいのです。
これがこのブログで最も伝えたかったことです。
今回の主役をつとめたPLAYTECH PVN244にご注目ください。自信を持っておすすめしたいバイオリンです。
PLAYTECH ( プレイテック ) / PVN244 バイオリン 4/4
ブログの効果?なのか?
PVN244在庫が少なくなってきました!次の入荷ももちろん予定はありますが、お急ぎください。
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PLAYTECH ( プレイテック ) / PVN344 バイオリン 4/4
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これまでのブログ
- 第1回 廉価なバイオリンでよい音を出すためには [第一回] 良い音とは?誰が決める?
- 第2回 廉価なバイオリンでよい音を出すためには [第二回] 弦は音を決める最大要素! ペグへの巻き(つけ)方と上ナットとの関係
- 第3回 廉価なバイオリンでよい音を出すためには [第三回] 「上(うわ)ナットの調整!「上」ナットがあるなら「下」もある??」
- 第4回 廉価なバイオリンでよい音を出すためには [第四回] 「指板にフレットがついてない!フレットはそもそも要らない?!打てない??」
- 第5回 廉価なバイオリンでよい音を出すためには [第五回] 魂柱~こんちゅう
第6回の今回が最終回です。
6回にわたりお付き合い頂きました読者の皆様、ありがとうございました。
あとがき
楽器は歳を取ります。
経年での状態の変化は目には見えにくいものの、木材というのは温湿度や経年で形状が微妙に変わるものですし、弦楽器の場合は「弦の張力」という、見えないけれどとても大きな力を楽器全体で支えて、バランスを取って出来ているものですから、その張力にアクティブに打ち勝つ力は楽器自体にはありません。
つまり、弦楽器はへたったり、劣化したりするものなのです。だから手入れが必要ですし、それは奏者の「楽器への関心」が第一歩であることはいうまでもありません。
ブログに書いたようなごく一般的な調整の類は音の改善の約束というよりは、楽器の状態のチェックの過程で気になったところに手を入れる「作業」に他なりません。音はその後の結果です。その楽器を育てるのは奏者のあなたです。楽器を大事に扱い、良いコンディションを保ち、手にしている楽器から良い音を引き出すには、を考えてもらえる、そういう奏者であり続けてほしいと願います。
良い(高価な)楽器になれば、ニカワで組み立て、天然のニスを使って塗装されてより繊細ですからデリケートの極みと言えます。つまり、このブログで書いたことはごく基本的ではありますが、読者の方がこれから手にするかもしれない「廉価とは言えないバイオリン」にも当てはまることが殆どです。
ぜひこのブログ内容、思い出したら時々ご参考にして頂けると幸いです。
何か言い足りない事があるのに気が付きました。「弓」です。

音を語るのに、弓の話をしないのは片手落ちですね。極めて重要です。
次回のブログは弓にしましょう。これはきっと長くなります。恐らく連載になるでしょう。
お付き合い頂けるものかどうか。それではまた。