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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~その50

2021-09-30

Theme:sound&person

■アーバン・ミュージックの極み マイケル・フランクスの世界 前編

今回の鍵盤狂漂流記はマイケル・フランクスをお送りします。マイケル・フランクスは1944年生まれの77歳。アメリカ西海岸の音楽家です。マイケルの音楽はポップスで括られてはいるもののジャズやボサノバ等をベースにした複雑なコードハーモニーによって成り立っています。1973年のデビュー作から今日に至るまで、自身の音楽スタイルを貫き、ライブアルバムを含む、19枚のアルバムをリリースしているのは奇跡に近いことだと思います(コンピレーションアルバムを除く)。しかも、どのアルバムも一定レベルを堅持しています。インテリジェンスに裏打ちされた肩肘張らない音楽への姿勢が、その質を保つ秘訣なのではないかと思います。

マイケル・フランクスの前編は初期のマイケルのアルバムとプロデューサー、ミュージシャン周辺をピックアップできればと思います。

アルバム制作で1つの鍵を握るのがプロデューサーの存在です。セカンドアルバムとサードアルバムは洒落た音楽をプロデュースしたら右に出るものはいないと云われるトミー・リピューマです。トミー・リピューマと云えばジャズピアニスト&ボーカリストのダイアナ・クラールやジャズギタリスト、ジョージ・ベンソンのプロデュースで知られています。

■ 推薦アルバム:マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』(1975年)

マイケル・フランクスのセカンド・アルバムにして永遠の名盤。マイケルの音楽を成り立たせている1つの要因はその音楽を担うミュージシャンです。このアルバムの担い手はピアニストのジョー・サンプル、ギタリストのラリー・カールトン、ベーシストのウィルトン・フェルダーといったクルセダースのメンバーです。サックスプレーヤーはマイケル・ブレッカーとデヴィッド・サンボーン。おまけにストリングス・アレンジはニック・デカロ!何も言うことはありません。

クルセダースの音楽はアーシーなタッチの曲も多く、マイケルのアルバムの様に洗練されてはいません。今聴いても、全く古さを感じないのはプロデューサー、トミー・リピューマの手腕が大きいと思います。敢えてシンセサイザーは使っておらず、トミーの音楽へのこだわりが伝わってきます。

アルバムタイトルの「アート・オブ・ティー」はマイケルが岡倉天心の「茶の本」に感銘を受け、付けたタイトルと云われています。いかにも博士号まで取得しているマイケルらしい逸話ですね。

推薦曲:『エッグプラント』

エッグプラントとは茄子の事。茄子の料理を19種類作る女性を歌った曲。洒落たイントロから4ビートタッチで曲が進行する。ジョー・サンプルのフェンダーローズ・エレックトリックピアノのオブリガートとソロが最高!

推薦曲:『モンキー・シー・モンキー・ドゥ』

「エッグプラント」と並ぶマイケル初期の代表作。「エッグプラント」同様、ジョー・サンプルのブルージーなエレピバッキングが冴えている。

■ 推薦アルバム:マイケル・フランクス『スリーピング・ジプシー』(1977年)

アルバム・タイトル、「スリーピング・ジプシー」はアンリ・ルソーの絵画「眠れるジプシー女」から付けられたと云われています。マイケルは絵画やアート好きで彼のアルバムジャケットにはルソーやゴーギャナンの絵画やニューヨークの彫刻などが使われています。

「スリーピング・ジプシー」はマイケル・フランクス3枚目のアルバムにしてマイケルの最高傑作。作風は前作、「アート・オブ・ティー」を継承。楽曲が前作よりもパワーアップしている印象があります。「淑女の想い」や「アントニオの歌」は多くのミュージシャンがカバーをしています。この2曲の他にも佳曲が多く、しっとりとした印象が強いアルバムですが、永遠の名盤として語り継がれています。バック・ミュージシャンの演奏もアルバム評価を高めています。

ところでアルバムを買った時から思っていたのですが、アルバム右下の蛾のイラストは、どういう意味を持つのか…お分かりの方は是非、教えて下さい!

推薦曲:『淑女の想い』

生ピアノとフェンダーローズ・エレピ、2種のピアノでバッキングがされている。デビッド・フォスターのアレンジの素がこの曲にあったかどうかは定かではないが(笑)、生ピとエレピのアンサンブルが見事。インテリジェンス溢れるマイケルの曲を際立たせている。
マイケル・ブレッカーのテナーサックスソロも素敵すぎる。ソロの途中でボサノバタッチのビートがサンバのニュアンスに変化するところが洒落ている。

推薦曲:『アントニオの歌』

頭のパーカッション直後、ジョー・サンプルによるアコースティック・ピアノが発する2つの音が素晴らしい!サウダージのイメージをたった2つ音で印象付けている。
ジョー・サンプルは4ビートをベースにしたピアニストと違い、リズムを小節の限りなく後ろでとるタイプではありません。プレイにジャズが見え隠れするものの、点画的フレーズを楽曲に上手くマッチさせている。メロディアスでサウダージなピアノソロも素晴らしい!こういうソロを聴くとシンセサイザーなんて必要ないと思ってしまうのは私だけは無いと思います。

楽曲後半のデビッド・サンボーンのソロも冴えわたっています。途中でフェイドアウトしてしまうのは惜しすぎます。

今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:マイケル・フランクス、ジョー・サンプル、ラリー・カールトン、マイケル・ブレッカー、デビッド・サンボーン等
  • アルバム:「アート・オブ・ティー」「スリーピング・ジプシー」
  • 曲名:「エッグプラント」「モンキー・シー・モンキー・ドゥ」「淑女の想い」「アントニオの歌」
  • 使用機材:アコースティック・ピアノ、フェンダーローズ・エレクトリックピアノ

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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shinsekenban

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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