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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その46

2021-08-24

Theme:sound&person

1980年、一世を風靡したアルバム、エアプレイの「ロマンチック」。
1年前、それを占うジャズボーカルアルバムがあった。
共通項は2人のミュージシャン…パートⅠ エアプレイ編

1980年にAOR史上に残る名盤、エアプレイの「ロマンチック」がリリースされました。プロデューサーでキーボードプレイヤーのデビッド・フォスターと同じくプロデューサーでギタリストのジェイ・グレイドン、2人によるユニット「エアプレイ」の傑作アルバムです。この2人は鍵盤狂漂流記のその45で紹介したアース・ウインド&ファイアーの「黙示録」にも関わり、後に大ブレイクをする音楽家です。

今回、パートⅠはウエストコーストのロックユニット、エアプレイによる「ロマンチック」です。
また、エアプレイのアルバム「ロマンチック」の1年前に、このアルバムに肩を並べるかそれ以上の名盤が生まれています。ジャズボーカルグループのマンハッタン・トランスファーの大名盤、「エクステンションズ」です。「ロマンチック」と「エクステンションズ」の2つのアルバムはある意味で兄弟アルバムとも云えます。
ロックとジャズという2枚の歴史的アルバムに関わったのは当時まだ無名だった2人の音楽家、デビッド・フォスター(key)とジェイ・グレイドン(G)でした。

■ 推薦アルバム:エアプレイ『ロマンチック』(1980年)

1プロデューサー、デビッド・フォスター(key)とジェイ・グレイドン(g)が組んだユニット。ヴォーカリストにトミー・ファンダーバークを迎え、バック・ミュージシャンにはスティーヴ・ルカサー、ジェフ・ポーカロ、スティーヴ・ポーカロ、ビル・チャップリンなど、ウエストコーストの腕利きが参加。ウエストコーストロックといえばイーグルやドゥービーブラザースというバンドが浮かびますが、エアプレイはウエストコーストロックの概念を覆すユニットでした。アルバムにはロックという文脈を踏襲しながらも、新しい音楽の種が沢山含まれていました。その種が推薦曲にも挙げた「貴方には何も出来ない」であり、「アフター・ラブ・イズ・ゴーン」でした。この2曲はこれまでのロックには無い楽曲で、才気あふれる2人の英知が注がれているという印象を持ちました。

また、当時の日本では歌謡曲のアレンジにエアプレイの音楽がコピーされまくりました。歌番組を見ていると「アッ、これエアプレイだ」「これジェイ・グレイドンのフレーズだ」など、笑えるシーンが沢山ありました。彼らの音楽には、これまでには無かった新しさやアイディアがあり、それを聴いた日本のミュージシャンも刺激を受け、パクリまくったという背景があるのではないかと思います。アース・ウインド&ファイアーのバラード曲、「アフター・ラブ・ハズ・ゴーン」などはその最たるものでした。

また、ジェイ・グレイドンのギターフレーズ1つをとってみても、これまでに聴いたことの無かったフレーズや音、新しいギターソロのアプローチも数多く聴く事ができました。
とにかくこの2人が作る音楽が新鮮で勢いがあり、音楽好きを虜にしたのです。

推薦曲:『貴方には何も出来ない』

デビッド・フォスターとジェイ・グレイドン、スティーブ・キプナー(キプナーもAORの名盤、ノック・ザ・ウォール・ダウンを残している)による楽曲。この曲はマンハッタン・トランスファーのアルバム「エクステンションズ」にも納められています。私はマントラのアルバムの後、エアプレイのこの曲を聴きましたが、頭のブラス風のキメからピアノのコードバッキングに移行する辺り、AメロからBメロ、サビに入る前のメロディ(勿論、サビも!)など、これまでに聴いたことのないフレーズのオンパレードでエアプレイ恐るべし!どこからこの曲の着想がでてくるのか驚いた記憶があります。その想いは40年以上経った今も変わりません。
 中間部のジェイ・グレイドンのギターソロは秀逸。マントラの同曲ではシンセサイザーソロになっています。

推薦曲:『アフター・ラブ・ハズ・ゴーン』

アース・ウインド&ファイアーに楽曲提供した曲のセルフカバー。歌詞とアレンジが変更 されています。アースのパートでも書きましたが、バラードの概念を覆した素晴らしい楽曲。私はこれまでにこのようなバラードを聴いたことがありませんでした。
デビッド・フォスターによる生ピアノとその間を縫うように入ってくるフェンダーローズ・エレクトリックピアノが素晴らしすぎます。AメロからBメロ、その後に来るサビのメロディもこれまでのバラードには無く、想像を超えています。一体どういう過程でこの曲が作られたのか現場にいたかったというのが本心です。

また、デビッド・フォスターはシンセサイザーという楽器を前面に出すことなく、上手く楽曲に入れ込む名人だと思います。この人は根っからのアレンジャーでアンサンブルの中で効果的にポルタメントなど、シンセサイザーの特性を生かした使い方をしています。

今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:エアプレイ(デビッド・フォスター、ジェイ・グレイドン)
  • アルバム:「ロマンチック」
  • 曲名:「貴方には何も出来ない」「アフター・ラブ・イズ・ゴーン」
  • 使用機材:アコースティック・ピアノ、フェンダーローズ・エレクトリック・ピアノ、ミニモーグシンセサイザーなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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shinsekenban

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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