渡辺貞夫電気ジャズ考 PARTIII
今回の鍵盤狂漂流記は渡辺貞夫さん(以下敬称略)特集パートIIIで最終回です。渡辺貞夫の音楽はジャズがベースにあるのは云うまでもありませんが、もう1つの要素として「ブラジル」「アフリカ」があります。サンバやボサノバといったブラジル音楽は渡辺貞夫にとって欠くことのできない大きな要素です。また、アフリカのリズムからも多くのインスピレーションを受けていることも分かります。特にカメルーン出身のベーシスト、リチャード・ボナとの共演したアルバムはリチャード・ボナの参加で、ナベサダミュージックの新たな局面を開いたとも云える仕上がりになっています。
■ 推薦アルバム:渡辺貞夫『ELIS』(1988年)
ブラジルの歌姫、エリス・レジーナをトリビュートしたアルバム。アメリカ音楽誌、「ラジオ&レコード」でジャズ・チャート4週連続1位を記録したヒット作。
セーザル・カマルゴ・マリアーノ(key)エイトール・テイシェイラ・ペレイラ(g)ニコン・アスンサゥン(b)パウリーニョ・ブラーガ(ds)パペーチ(per)トッキーニョ(g,vo)らのブラジルメンバーが参加。キーボーディストのセザール・カルマゴ・マリアーノを音楽監督兼に招き、制作された名盤。

推薦曲:『O QUE PASSOU PASSOU』『ELIS』
ジャズ・フュージョンタッチの「O QUE PASSOU PASSOU」は80年代後半のライブではよく取り上げられ、白熱した演奏が聴けたスピード感ある名曲。曲中のキメアレンジが見事。
歌姫、エリス・レジーナに捧げられた「ELIS」はボサノバのリズムに乗り、渡辺貞人のアルトサックスがサウダージ溢れるメロディーを奏でる。
■ 推薦アルバム:渡辺貞夫『イン・テンポ』(1994年)
「ELIS」以来となるプロデューサー、キーボーディストであるセザール・カマルゴ・マリアーノを招聘し、ブラジリアンなジャズを展開している。
キーボーディストのセザール・カルマゴ・マリアーが弾く、シンセサイザーはアメリカのキーボーディストと違い、音色がパーカッシブで奏でるリフも同様に聴こえるのは僕だけではないと思います。この後のセザールプロデュースのアルバム、『ヴィアジャンド』でも同様な事が云えると思う。

推薦曲:『A MESSAGE TO BAHIA』『O BELLMARE』
「メッセージ トゥ バイーア」はセザールのパーカッシブなシンセサイザーの装飾的音色に導かれ始まるブラジリアン・ジャズフュージョン。ブラジルもの、4ビートものなど渡辺貞夫の音楽カテゴリーは様々あるが、メロディーの素晴らしさには変わりがない。楽曲の後半部、サックスとセザールによるピアノソロの掛け合いが秀逸。セザールのソロは渡辺貞夫とは違った意味でよく唄っていると思う。
「オー・ベルマーレ」はベルマーレ平塚の応援歌。サンバをベースにしたポップでブラジリアンなボーカルチューン。誰でもが口ずさめるメロディーが印象的な名曲。
■ 推薦アルバム:渡辺貞夫『ワン・フォー・ユー』(2006年)
リチャード・ボナをゲストに迎えたコンサートからのベスト・パフォーマンスを収録。リチャード・ボナの参加はアフリカの大地を想起させる。ボナによるボーカルとメロディーが印象的でナベサダミュージックの新境地を堪能することができる。ボナの無垢な感じが楽曲を包む素晴らしいライブになった。

■ 推薦アルバム:渡辺貞夫『SADAO 2019 LIVE AT BLUENOTE TOKIO』(2019年)
ファーストコール・ドラマー、スティーブ・ガットを招聘し、キーボーディスト、ラッセル・フェランテ(p)、ベーシスト、ジョン・パティトゥッチ(b)という、現在考えられる最高のミュージシャンを揃えたブルーノートでのライブ。渡辺貞夫のサックスに盟友、ラッセル・フェランテの抑制された鍵盤プレイ寄り添う名盤。

推薦曲:『シェガ・ジ・サウダージ』(2019年)
ジョアン・ジルベルトで知られるボサノバの名曲をジャズレジェンド達が演奏するというありそうでなかった事が実現。当たり前の曲を当たり前に演奏する難しさを噛みしめることができる。ナベサダ流、サウダージ感が溢れている。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤
- アーティスト:渡辺貞夫、セザール・カルマゴ・マリアーノ、リチャード・ボナ、ラッセルフェランテ等
- アルバム:「ELIS」「イン・テンポ」「ワン・フォー・ユー」「SADAO 2019 LIVE AT BLUENOTE TOKIO」
- 曲名:「O QUE PASSOU PASSOU」「ELIS」「A MESSAGE TO BAHIA」「O BELLMARE」「シェガ・ジ・サウダージ」
- 使用機材:フェンダー・ローズピアノ、アコースティック・ピアノ等
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