はじめに
こんにちは。
現代の音楽には様々なジャンルがあり、作曲者たちはそのジャンルらしい楽器、あるいは意外な楽器を駆使して、楽曲に彩りを与えています。
しかし、音楽を奏でるのに楽器が必須かというと……答えはNOです。世の中には、身の回りにあふれる音、環境音だけを用いて作られている音楽があります。今回は、そんな音楽を「フォーリー・ミュージック(Foley Mucis)」と名付けて、実践的に学んでいこうと思います。
そもそも「フォーリー」とは、映像に合わせて足音や衣擦れ、風の音など、つまり環境音を付けていくことを言います。「フォーリー・ミュージック」とは、環境音を使って音楽を作ってみようという試みなのです。
素材集め
さて、まずは楽曲の素材となる環境音を収集するのですが、その集め方は2つ。
順に解説していきます。
1. 自分で録音する
私たちの生活空間では、いたるところで音が鳴っています。自分で録った音は誰にも真似できないので、楽曲のオリジナリティを生み出す上で欠かせない要素です。できるだけ、この方法で集めたいところですね。
これは、筆者が今回の制作で、実際に録音した物たちです。これらがハイハットになったり、あるいはシェイカーになったりしています。

録音にはマイクロフォンはもちろんのこと、ハンディレコーダーやスマートフォンが活用できます。
持ち運びできる物から音を撮るなら、マイクを使うのが良さそうです。特にコンデンサーマイクなら、空間で鳴っている音をそのまま捉えてくれます。その代わりオーディオインターフェイスが必要なので、外でのレコーディングには不向きかもしれません。
フィールドレコーディングにオススメなのはハンディレコーダーです。とは言いつつ、筆者はハンディレコーダーを持っていません。そこで目をつけているのがコレ!
zoom社のハンディレコーダー「H1n」です。1万円を切る価格でありながら、24bit/96kHzの高音質録音に、2in 2outのオーディオインターフェイス機能まで実現した一台。日本のメーカーですから、サポートに関しても安心です。
ハンディレコーダーがない場合は、手軽にスマートフォンで録音してしまいましょう。今回、筆者もいくつかの音をスマホで録りました。新しい機材を買う必要がないので、すぐにでも作業を始められます。
以上の通り、どんな人でも気軽に始められるフィールドレコーディングですが、忘れてはならない注意点があります。それは、著作権に配慮すること。著作権は、アーティストの楽曲だけでなく、例えば携帯電話の着信音にも生じている可能性があります。録音した着信音をそのまま使ってしまうと、権利の侵害となるリスクがあるのです。
少し話は飛びますが、ヒップホップでは既存の楽曲の一部をサンプリング・加工して、自身の作品に組み込む手法がよく使われます。他者の作品を再構築して全く新しいものに作り変えるというクリエイティブな方法である一方、無断で人の作品を使ってしまうと著作権の侵害とみなされる場合もあるのです。そのような背景から、音源の権利関係をクリアにしつつサンプリングを行える、「サンプルパック」が非常に便利なのですが……。
閑話休題。録音した音源を使用する際は、それが他人の著作物ではないか、著作権を侵害しないかどうかについて、十分に気を付けるようにしましょう。
2. フリー素材を使う
すべての音を自分で録れたら良いのですが、そうもいきません。例えば、セミの鳴き声や雪を踏む音など、季節に依存する音。教会の鐘や海の波音など、特定の場所に出向かないと録れない音。今回は録音ではなく作曲が目的ですから、そのような音はフリー素材に頼ってしまいましょう。
有料・無料問わず、検索すればたくさんのフリー素材サイトがヒットします。筆者も、今回のイメージに合う音をいくつかダウンロードしました。
フリー素材を利用する場合もまた、著作権には注意しましょう。素材の利用規約を確認し、違反にならない形で活用してください。
作曲
素材を集め終わったら、いよいよ作曲に移ります。環境音の特性上、音程を持たないパーカッシブなサウンドが多いはずですから、ビートを刻むイメージで作っていくと良いかもしれません。
曲にするために、録った素材をDAW上に並べていかなくてはなりません。その並べ方は2つ。
- そのまま並べる
- サンプラーを使う
1. そのまま並べる
WAVデータのままトラックに並べていく方法の利点は、波形が目に見えることです。そのおかげで、音の始まりや終わりの位置を細かく調整できます。
曲中で登場する回数の少ないサンプルは、こちらのやり方が良いでしょう。
2. サンプラーを使う
サンプラーを使うメリットは、MIDIでコントロールできることです。そのため、他のソフトウェア・インストゥルメントと同じ感覚で打ち込めます。また、1つのサンプルに音程を割り当て、演奏することも容易です。
メロディ楽器や、キック、スネアの役割を果たすサンプルは、このやり方が良さそうです。
DTMで使うサンプラーには、DAW付属のものやNativeInstrumentsの「KONTAKT」「BATTERY」などのソフトサンプラー、またRolandの「SP-404」、AKAIの「MPC」シーリズなどのハードサンプラーがあります。
今回は、Studio One付属の「IMPACT XT」と「SAMPLE ONE XT」を使用しています。
ミックス
曲ができたらいよいよミックスです。普段のミックスとは少し意識を変えて、ガッツリ処理しても良さそうです。
特に自分で録った素材の場合は、不要な音が入り込んでいるかもしれません。EQで耳障りな共鳴を抑えたり、出過ぎた低音を削りましょう。
環境音は普段から聞いている音そのものですから、「音の位置」は丁寧に演出しましょう。パンで操作する左右の位置だけでなく、ボリュームフェーダーやコンプで前後感も調整します。人の耳は、音が小さく、アタックが弱いほど遠くにあると感じます。
完成
ここまでの作業を経て完成した楽曲がこちらです。
おわりに
私たちの身の回りでは、常に何かしらの音が鳴っているものです。それは決して楽器のような美しい響きではないかもしれません。
しかし、「音が鳴っている」ことに意識を向けて初めて生まれる価値もあるのです。
この記事が、改めて音を意識するきっかけになれば嬉しく思います。
今回もありがとうございました。
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