A帯からB帯までさまざまなワイヤレスシステムをリリースするSENNHEISER。その中でも異色のシリーズがXSW-Dシリーズです。この記事で紹介するXSW-D XLR Base Setは、既存のXLR出力のマイクに接続するだけで、どんなダイナミックマイクもワイヤレス化することができます。「このマイクがワイヤレスになったら」という夢を叶えてくれる製品なのです。
SENNHEISER ( ゼンハイザー ) / XSW-D XLR BASE SET
実際にどの程度使える製品なのか気になるところ。仕様を確認しながら、機能や使い勝手などを紹介していきます。
XLR端子なら装着可能な「なんでもワイヤレス化アダプター」

<送受信機それぞれにXLR端子がある>
製品の概要を改めて紹介しましょう。
XSW-D XLR Base Setは、XLR端子を装備した送信機と受信機のセット。マイクに送信機を装着し、ミキサー側に受信機を装着すれば、どんなダイナミックマイクでもワイヤレス化できるという素晴らしい製品です。

<差し込むだけで装着完了>
ワイヤレス伝送については2.4GHz帯を使用したデジタルワイヤレスであるため、免許や申請は不要。誰でも気軽に、どんなダイナミックマイクでもワイヤレス化することが可能です。

<レコーダーに直接受信機を取り付けてみた>
受信機はミキサーやレコーダーに接続します。直接取り付けてもOKですが、XLR接続なのでケーブルに取り付けることも可能です。ミキサー周りに場所が無い場合はケーブルを介して取り付けると良いでしょう。

<ケーブルに受信機を取り付けることも可能>
注意点は、ファンタム電源の供給はできないということです。つまり、コンデンサーマイクに直接取り付けることはできません。
同時使用台数は5台、最大伝搬距離は75mとなっていますので、小さなイベントであれば十分カバーできます。

<付属のUSB-Cケーブルで充電>
送受信機はそれぞれバッテリー駆動となっており、USB-Cケーブルを介して充電します。バッテリー容量は850mAhで満充電には3時間必要。動作時間は最長で5時間となっているので、リハーサルで使用し、本番前に充電しておけば安心して使えそうです。
なお、付属のUSB-Cケーブルは充電目的であり、オーディオインターフェイス用途を提供するものではありません。USB-Cケーブルを介してパソコンに接続しても充電しかできませんので、ご注意ください。
マイク変更で音質向上できる面白さ!周波数特性には注意が必要
続いては実際の音質やワイヤレスの安定性について確認してみました。
2.4GHz帯デジタルワイヤレスは様々な機器を使ってきましたが、それらと同等、またはそれ以上の音質が感じられました。マイクを選べば既存の2.4GHz帯デジタルワイヤレスシステムより高音質なシステムを作ることができそうです。aptX® Liveを用いたワイヤレス伝送は十分に高音質であり、小規模イベントに留まらず、さまざまな場面で使用できる可能性を感じさせてくれます。
当然ですがマイクによって音質が大きく変化しますので、安価なマイクでは安価な音になりますし、高価なマイクは相応の音になります。高いグレードのダイナミックマイクを所有している方にとっては素晴らしいシステムになるでしょう。

<MD 445を接続すればあっという間にワイヤレス>
筆者もMD 445を使用してみましたが、MD 445の音質が活かされるため、従来のマイクユニット一体型の2.4GHz帯デジタルワイヤレスシステムよりも高音質であるように感じました。メインボーカルと司会で異なるマイクを使用することも容易です。
注意すべき点は、周波数特性です。80Hz~18,000Hzという低域側がやや狭い特性になっています。ローカットフィルターを使用するボーカルやスピーチでは問題になりませんが、低域が必要な場面では特性を考慮して使用可否を判断する必要があるでしょう。例えば会場で観客の声を収録する用途で使用する場合は、歓声の80Hz以下がカットされるということになりますし、楽器類に使用する場合も低音がカットされることになります。
ワイヤレス伝送については、使用している限りでは問題がでることもなく快適でした。離しても隠しても受信します。もちろん受信環境に依存するのですが、これはどのワイヤレスでも同じことです。受信機側はケーブル経由で接続することで設置自由度があがりますから、高い位置に設置することも可能です。見通しが悪い会場では受信機の位置を工夫すると安心して使えそうです。
固定システムとどちらを買うべき?
オーディオ品質に関しては、同社の他のワイヤレスシステムと比較すると価格相応の差があるものの、用途に影響するほどの違いはありません。
例えば受信機の性能については、上位のew 500 G4-KK205の受信機EM 300-500 G4はS/N比が115dBであるのに対し、XSW-D XLR Base Setの受信機XSW-D XLR FEMALE TXでは106dBとなっています。
もちろん使用しているコーデック(ワイヤレス化のために音を変換する部分)に違いがあるため、音質は異なります。しかし、小~中規模のイベントで使用する音響システムで実用上問題がでるような大きな差は認められないでしょう。
従って、音質面ではなく、使い勝手や求める信頼性を判断基準にすると良いでしょう。
電池の駆動時間はXSW-D XLR Base Setが内蔵バッテリーで5時間であるのに対し、エントリーグレードのワイヤレスシステムであるXSW 1シリーズでも単3乾電池で10時間の駆動が可能です。
伝送の面ではXSW 1ではアンテナ・ダイバシティ、XSW 2シリーズ以上ではトゥルーダイバシティと、伝送の信頼性は専用機の方が高くなります。また、XSW 2シリーズ以上はアンテナが別体式なので外部アンテナの接続が可能です。

<受信感度などに優位性があるXSW 2シリーズ>
実際のところXSW-D XLR Base Setを使っていても信頼性・駆動時間ともに問題は発生しないのですが、より信頼性を求める場合は専用機を購入した方が良いでしょう。
また、当たり前なのですが、マイク+XSW-D XLR Base Setの価格がシステム価格になります。マイクを持っていない人はXSW 1シリーズ等、マイクがセットになったシステムを購入した方が安価になります。
まとめると、スピーチやボーカル用途においてワイヤレス化して使用したいマイクを持っている方に向いている製品と言えそうです。好きなマイクをワイヤレス化するのはある種の夢ですから、求めていた人にとっては渡りに船の製品でしょう。
近距離であり同時に使用されるワイヤレスシステムが少ない屋外インタビュー収録の用途も本機が適していると思います。カメラ側にXLR入力があれば手軽に高音質ワイヤレス環境を導入できます。
使い方は、既存のシステムのXLR端子につなぐだけ。なんとも簡単にワイヤレスシステムが構築できるようになったものです。この、ある種「夢のような製品」で、新たな可能性を探してみてはいかがでしょうか。
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