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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ヤマハDX7~DX7Ⅱ編 ~音楽を彩った電子鍵盤とシンセ名盤の数々~ その36

2021-05-19

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

今回もシンセサイザーの大傑作、FM音源搭載のヤマハDX7がテーマ。DXの最終回です。DX7など、FM音源で製作した名盤をご紹介します。

■ シンセサイザーの有史に名を刻むヤマハDX7& DX7Ⅱ

80年代はシンセサイザーなどの電気楽器にとって大きなエポックが生まれた時代です。これまでアナログ音源しかなかったシンセサイザーにデジタルという概念が持ち込まれ、その代表ともいえるFM音源搭載のヤマハDX7が発売されました。また、楽器間を1本のケーブルで繋ぎ、情報のやり取りをするMIDI規格も登場しました。DTM(デスクトップミュージック)と呼ばれる机の上から生まれる音楽もデジタル技術の台頭により誕生。デジタル系の機材が最も輝きを放ったのが、この80年代と云えます。

■ MIDI(ミディ)とは…

MIDIとはMusical Instrument Digital Interfaceの頭文字を並べたものです。電子楽器同士を接続するための世界共通規格で1981年に策定されました。電子楽器やコンピュータの演奏情報をメーカーや機種に関わらず、1本のケーブルで伝達する規格です。

シンセサイザーのMIDI OUT端子からの演奏情報がケーブルを介し出力され、もう一方のシンセサイザーのMIDI IN端子に演奏情報が入力されることでMIDI OUT側のシンセサイサーで弾いた音がMIDI IN側のシンセサイザーでも同時発音されるという仕組みです。このMIDI機能により、シンセサイザー間だけでなく、シーケンサー等の自動演奏装置機器との同期も可能になりました。シンセサイザーやコンピュータ、ドラムマシン等を同期させた音楽が多く作られるようになり、世界のトレンドとなりました。

また、音楽制作が職業的音楽家だけのものでは無くなり、アマチュアでもMIDIを使った音楽制作が可能になりました。

ヤマハDX7とDX7Ⅱは1983年、86年に発売されたシンセサイザーの傑作です(この間にもDX1やDX5など、多くのFM音源シンセが発売されています)。
また、MIDIの普及に伴い、鍵盤付きのシンセサイザーだけでなく、鍵盤無しのシンセサイザー音源も世に出回りました。プロミュージシャン御用達のDX7を8台分搭載したTX816は当時、89万円!と高価でアマチュアには手がでる機材ではありませんでした。

■ ヤハマTX802:DX7が2台分格納されたDX7Ⅱの音源版シンセサイザー

TX816はアマチュアにとって高嶺の花でしたが、DX7の2台分を搭載したDX7Ⅱの音源版、TX802は価格的にもアマチュアにも手が届くものになりました。マルチティンバー数も8となり、DTM音楽家にとって朗報となりました。しかし、このTX802はDX7Ⅱで可能だった2つの音を重ねるデュアル機能は持ち合わせていませんでした。とはいえ、当時のプロのラックには必ずといっていいほどマウントされていたのを記憶しています。

■ 推薦アルバム:フットルース /『フットルース・サンドトラック』(1984年)

推薦曲:「フットルース」

ケニー・ロギンスのボーカルによるビートが効いたロックンロール。イントロでギターがリフを弾き出し、2本目のギターが被さった後にシンセサイザーの音が入る。この音がDX7の音。子気味良いロックンロールにFM音源の音がマッチするのか疑問に感じる人もいるかもしれないが、見事にこの音がハマっている。全編を通し、この音でバッキングがされています。その後、ブレイクしてドラムの演奏だけになった直後、DX7の音が入り、その音で大きくベンディングする辺りはシンセサイザーの特性を上手く生かした演奏であると感じます。

■ 推薦アルバム:MIKI/『フィール・ダンディ』(1988年)

村上ポンタ秀一がプロデュースした女性シンガーの隠れ名盤。鍵盤狂漂流記その27でもご紹介しました。このアルバムのメンバーは村上ポンタ秀一をはじめ、佐藤允彦、岡沢章、大村憲司など(敬称略)超強力なミュージシャンが名を連ねています。ブラック・コンテンポラリーミュージックを意識した楽曲が並び、1990年にはセカンドアルバムをリリースしています。

推薦曲:「TOO BULUE」「CHASING TIME」

村上ポンタ秀一率いるMIKIバンドは六本木ピットインで数回聴きました。ドラムは村上ポンタ、キーボードは野力奏一、ギターは梶原順、サックスは包国充、ベースが坂井紀雄という強力な面子です。
キーボードの野力奏一は当時のピットインでのライブではエレピ系はDX7ⅡFDで、アナログシンセ系をローランドD-50で出していました。「TOO BULUE」、「CHASING TIME」共、FM音源の代表的なエレピ音をDX7ⅡFDで出していました。サスティンの無いシンプルなバッキングでMIKIのブラコン的楽曲をファンキーに演奏していたのを記憶しています。

■ 推薦アルバム:佐藤博/『FUTURE FILE』(1987年)

日本を代表する名キーボードプレイヤーにして、作曲家、プロデューサーの佐藤博さん、1987年のアルバム。参加ミュージシャンもPaul Jackson Jr.(g)、鳥山雄司(g)、NATHAN EAST(b)、JOHN ROBINSON(ds)、青山純(ds)など強力な布陣です。このアルバムでもDX系のFM音源が多用され、ファンキーかつメローな佐藤博の真骨頂をアルバム全編で聴くことができます。山下達郎曰く、「国内、最高のピアニスト」と自身の番組でもコメントしています。佐藤氏は1982年にシティポップの大名盤とされる「awakening」を制作しています。「awakening」は前述したDTMの元祖ともいえる作品でリンのドラムマシンを使用し、独自の音世界を構築しています。私は95年に佐藤博さんを取材しています。佐藤さんの取材記は後のコラムで考えています。どうぞお楽しみに!

推薦曲:「Fantasy」

佐藤さんの歌うバラードを鮮やかにしているのがヤマハDXによるFM音源です。DXの音が美しいバラードに独特な透明感をもたらしています。


今回取り上げたシンセサイザー、ミュージシャン 推薦アルバム、推薦曲

  • 使用楽器:ヤマハDX7、ヤマハDX7Ⅱ、ヤマハTX802
  • ミュージシャン:ケニー・ロギンス、MIKI, 佐藤博
  • アルバム:『フットルース・サンドトラック』『フィール・ダンディ』 『FUTURE FILE』
  • 推薦曲:「フットルース」「TOO BULUE」「CHASING TIME」「Fantasy」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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