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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その13

2020-09-29

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

意外!アメリカンロックのピアニストがポリシンセCS-80を好演!

前回はヤマハのポリシンセCS-80を使ったTOTOの特集でした。今回はかなりの変化球でリトル・フィート(Little Feat)の鍵盤屋、ビル・ペイン(Bill Payne)の登場です。リトル・フィートは通好みなアメリカンロックのバンドです。ギタリストであるローウェル・ジョージが在籍していたと言った方が通りはいいのかもしれません。粘っこくうねるリズムはリトル・フィートしか出すことはできません。サザン・オールスターズの桑田佳祐氏が大のファンでサザンのファースト・アルバムにもリトルフィートを模した「いとしのフィート」という曲を聴くことができます。アメリカンロックを弾かせればビルは理想的なピアニストであり、グルーブしまくるホンキートンク系ピアノは彼が得意とするところです。そんなピアニストがどうしてシンセサイザー、しかもポリシンセを使うのか?ピアノ一本で十分ではないか!私はそう思っていました。リトル・フィートのライブ、「ウェイティング・フォー・コロンブス(Waiting For Columbus)」を聴くまでは…。しかし、彼はピアニストである前にアレンジャー的視点で音を俯瞰できるキーボーディストだったのです。ライブアルバム「ウェイティング・フォー・コロンブス」でCS-80の使いどころを聴けば、音楽をトータル的に捉えていた一人の音楽家としての姿が見えてきます。

ヤマハ CS-80


■ 推薦アルバム:『デキシー・チキン(Dixie Chicken)』(1973年)

リトルフィートの最大の出世作にしてリトルフィートの最高傑作。タイトル曲「ディキシー・チキン」はビル・ペインの特徴が色濃くでた秀作。その他に「ファットマン・イン・ザ・バスタブ(Fat Man in the Bathtub)」等、佳曲が揃っている。

推薦曲:『デキシー・チキン』

「デキシー・チキン」とは南部女性の略。歌詞内の僕はホテルで出会ったサザンベル、(BELLは美人のスラング)南部美人から、♪~もし、君が僕のデキシーチキン(恋人のスラング)になってくれるなら僕は君のテネシーラム(テネシー羊…多分恋人のスラング) になるよ~という歌を川のほとりで聴く(デキシーランドジャズが鳴り響く、ニューオリンズのバーボンストリートはミシシッピ川沿い)。この男性(僕)は南部美人に対し、恋心を抱くが彼女とは別れてしまう。1年後、ホテルのバーテンダーが酒を出してくれた時、バーテンダーはサザンベルが歌った同じ歌を歌い、それに合わせ周囲の人間も同じ「デキシー・チキン」を歌う…自分しか知らないと思っていた歌を実は誰もが知っていた・・・そこで僕自身がピエロだったと思い知るという微笑ましい内容。ローウェル・ジョージの名曲だ。ビル・ペインの真骨頂である強力なホンキー・トンクピアノから幕を開け、ローウェル・ジョージのボトルネックギターが唸りを上げる。


■ 推薦アルバム:『スタンピード(Stampede)』(1975年)

ウエストコーストロックの雄、ドゥービー(The Doobie Brothers)の名盤です。ビルはこのアルバムで強力なピアノを弾いています。このアルバムはビルのピアノ無しでは成り立ちません。ビルのピアノのダイナミクスとグルーブはこのアルバムの聴きどころです。『ウェイティング・フォー・コロンブス』とこのアルバムと比較して聴くと面白いかもしれません。

推薦曲:「スイート・マキシン(Sweet Maxine)」

のっけからビル・ペインの強力なピアノイントロからスタート。掛け値なしの正統アメリカン・ロックです。聴いているだけで腰が浮き上がって来るような錯覚に陥ります。

推薦曲:「君の胸に抱かれたい(Take Me in Your Arms (Rock Me a Little While) )」

この曲もイケイケのロックナンバーです。ドライブしまくるビルのピアノがドゥービーの演奏を支えています。


■ 推薦アルバム:『ウェイティング・フォー・コロンブス』(1979年) 

リトル・フィートの2枚組(レコードでは)ライブアルバム。このライブを初めて聴いたときに耳を疑いました。ビル・ペインのポリシンセCS-80が見事、楽曲に納まっていたからです。ボーカリスト、トム・ジョンストンが唄うドゥービドゥービー・ブラザースは正統派のアメリカンロックバンドですからシンセサイザーを多用することは殆どあり得ません。リトル・フィートも同様でストレートなアメリカンロックにポリシンセは必要ない・・・これが私の考えでした。しかし、このライブではアメリカンロックバンドにポリシンセを融合させた新しいアメリカンロックの姿を見ること(聴くこと)ができます。ポリシンセはプログレのマストアイテムという概念がこのライブを聴き、吹き飛びました。そして、アメリカンロックにおけるポリシンセの違和感のない響き…ビルがここまでのシンセサイザー使いとは驚くばかりでした。

推薦曲:「ファットマン・イン・ザ・バスタブ」

アメリカンロックのシンセアレンジとして見本のような曲。中間部のポリシンセ、CS-80のソロが聴きもの。シンセサイザーのソロは単音という概念をこのアルバムで覆されました。ノコギリ(鋸歯状)波によるシンセ使いが一番好む音で素敵な緒ソロを弾いています。

推薦曲:「オール・ザット・ユー・ドリーム(All That You Dream) 」

この曲もCS-80のノコギリ(鋸歯状)波を使い、レゾナンスを微妙に効かせたホーン系の音で後半に強力なソロをとっています。ギター、ピアノといったトラディショナルな楽器が中心のアメリカンロックの中にあり、ポリシンセを何の違和感もなく楽曲に溶け込ませたビルのセンスに脱帽するばかりです。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:リトル・フィート
  • アルバム:「デキシー・チキン」「ウエイティング・フォー・コロンブス」
  • 曲名:「デキシー・チキン」「オール・ユア・ドリーム」
  • 使用楽器:ヤマハCS-80、CP-80、ハモンドB-3など

鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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