バンド演奏では、各メンバーが同じ音程感覚を共有していることが非常に重要です。チューニングのズレが全体のサウンドに影響を与えることがあります。
音楽活動を始めたばかりの頃、先輩から「メーカーによってチューナーの精度が違うから、バンドで演奏する時はメンバー全員で同じチューナーを使った方がいい」というアドバイスを受けました。当時は深く考えずに「なるほど、そういうものか」と思っていましたが、実際どれだけ差が出るのか気になったため、今回改めて検証してみることにしました。
この記事では、複数メーカーのクリップチューナーで測定した際、どれだけ針の動きに差が生じるのかに焦点を当てています。
使用するチューナーは、以前のコラム で紹介したこちらの4機種です。
使用機種
TC ELECTRONIC PolyTune Clip
圧倒的な精度と見やすいディスプレイで人気のモデル。

BOSS TU-10
信頼性と視認性に優れている定番モデル。

KORG Sledgehammer Pro
独特の形状と表示方式が特徴。ノーマルモードのほか高精度ストロボモードを搭載。

Daddario PW-CT-12
ヘッドの外観を邪魔しないコンパクトなモデル。

実験1 PolyTuneを基準とした場合
まずはこの4機種の中でも最も精度が高い(±0.02セント)PolyTune Clip のストロボモードでチューニングし、その後、他の3機種ではどのように表示されるかを検証しました。
A=440Hzで統一し、ポリチューンでチューニングした直後に各機種へ持ち替えるという方法です。
BOSS TU-10
ポリチューンでチューニングした直後、BOSSで同じ弦を鳴らすと、針が少し早めにフラット方向へ寄る傾向がありました。
ただしこれは「ズレている」というより、針の反応速度や揺れ方の癖による部分が大きい印象です。
KORG Sledgehammer Pro
KORGはストロボモードとノーマルモードの2種類で比較しました。
- ● ストロボモード
- 全弦で一貫してフラット方向に寄る傾向が見られました。
ストロボの動きが敏感で、中央に留まる時間が短いのが特徴で、「ほんの少しでもズレていれば“動いて見える”」という高精度ゆえの挙動です。 - ● ノーマルモード
- ノーマルモードではほぼ差なし。
ストロボモードほどセンシティブではないため、一般的な使用では問題なく一致しました。
Daddario PW-CT-12
DaddarioはPolyTuneとほとんど同じ挙動を示しました。
針の中央への収束も近く、反応のタイミングも自然で、特に大きな差はありません。
実験2 BOSSを基準にした場合
次に、逆のパターンとして測定精度±1セントのBOSS TU-10で基準チューニングを行い、他のチューナーで測定しました。
PolyTune Clip
ストロボモード・ノーマルモードともに、ほぼズレなしの結果でした。
KORG Sledgehammer Pro
こちらもストロボモードとノーマルで比較。
- ストロボモード:再びフラット方向に寄る傾向
- ノーマルモード:大きな差はなし
やはり、ストロボモードの高精度ゆえに細かな差が大きく見えるようでした。
Daddario PW-CT-12
今回もBOSSとのズレはほとんど見られませんでした。
検証結果から見える「チューナーの癖」
今回の結果を全体的に見ると、唯一明確な傾向として KORGのストロボモードのみフラット方向に寄りやすい という挙動が見られました。
ただしこれは、「KORGの精度が低い」という意味ではありません。
むしろ逆で、精度が高すぎるために“ピタッと止まる瞬間”が短い ということです。
PolyTuneやBOSS、Daddarioは、中央付近に針がとどまる“許容範囲”が比較的広く、ユーザーが「合っている」と判断しやすい設計になっています。
一方、KORGのストロボモードは、わずかな揺れも表示に反映されるため、常に「もう少し詰めたい」と感じるような表示になりがちです。
まとめ
今回の検証では、どのチューナーも極端にズレることはなく、いずれもライブ・スタジオで十分に使用できる精度があると改めて確認できました。
ただし、表示方式や反応速度の違いにより、「中央に止まっているように見える時間」がメーカーごとに異なるため、メンバーが違うチューナーを使うと、人によっては音程の解釈が微妙に変わる可能性があります。
特にKORGのストロボモードは高精度ゆえに挙動がシビアで、より細かなピッチの揺れが見えてしまうため、他メーカーとの比較で唯一フラット方向に寄りやすい挙動を見せました。
こうした特性を理解した上で、バンド全体の音程感を揃えるためにはチューナーの統一が有効 だと改めて感じた結果となりました。
チューニングは演奏の基礎であり、バンドサウンドの土台です。
ぜひ皆さんのバンドでも、チューナー選びを見直し、より精度の高いアンサンブルを目指してみてください。
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