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チキンライスとプルースト - 『Sugarなキモチ 第27回』

2019-02-22

テーマ:Sugarなキモチ

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ライブで名古屋遠征に行った際に、素敵な喫茶店に出会ったSugarです。

そこには“Sugarの一味”のベーシスト・長谷川さん(第13回、第22回、第24回の文中に登場)が愛するチキンライスがありました。お店の名前は“Jazz and coffee YURI”。

天井に設置された2つの大きなスピーカーからジャズのレコードが流れ、優しいベースラインをしっかりと心まで届けてくれます。テーブルには今でも1つずつ白い灰皿が置かれ、時代の中で少しずつ失われてきたものを振り返る気持ちになります。

ケチャップの風味よりも先に口の中に広がるミルキーなバターの香りがたまらない一品で、私も瞬時に虜になりました。

フランスの文豪、マルセル・プルーストの著書『失われた時を求めて』では、主人公が紅茶に浸したマドレーヌの匂いから幼少期を思い出すシーンが描かれていますが、ベーシスト長谷川さんのチキンライスもきっと同じ感じなのだろうと思いました。

プルーストはこんな風に文章にしています。

「そしてまもなく私は、うっとうしかった一日とあすも陰気な日であろうという見通しとにうちひしがれて、機械的に、一さじの紅茶、私がマドレーヌの一きれをやわらかく溶かしておいた紅茶を、唇にもっていった。
しかし、お菓子のかけらのまじった一口の紅茶が、口蓋にふれた瞬間に、私は身ぶるいした、私のなかに起こっている異常なことに気がついて。すばらしい快感が私を襲ったのであった、孤立した、原因のわからない快感である。」
(ちくま文庫『失われた時を求めて』井上究一郎訳 1巻、74ページ)

こうして
「町も庭もともに、私の一杯の紅茶から出てきた」(同、79ページ)

と書かれたように、特定の匂いを嗅ぐことでその香りと結びついている記憶が呼び起こされる現象のことは、後に作家の名前をとり「プルースト効果」または「プルースト現象」と呼ばれるようになりました。

難しいことはさておき、嗅覚と記憶を司る脳の仕組みは複雑に結びついているようです。外からの刺激によって脳の引き出しがパッと開くことは聴覚でもあり、懐かしい音楽を聴くことで認知症が改善するといった例も出ているようです。

いずれにしても、自分と外の世界とを繋いでいる“五感”という素晴らしいプレゼントに感謝したくなります。
1つの体に詰め込んだ“人生”という宇宙のように膨大なデータの中から、自分ではもうすっかり忘れ去っていたはずの煌めいた記憶をもう一度輝かすのですから、素敵な出来事です。

チキンライスをほうばりながらニコーっと笑うベーシストの先輩は、ただただ幸せそうに懐かしさに包まれていて、その奥に秘めているたくさんの思い出の煌めきに、何も知らないはずの私まで懐かしさを覚えるほどでした。

こうしてまた、スピーカーからの柔らかいベースの響き、チキンライスの香り、Nancy WilsonのBut Beautifulのレコードジャケット、ミュージシャンの笑顔とが私の記憶の中で複雑に入り混じってしまわれ、いつかこの日をすっかり忘れてしまったとしても、何かの刺激によって突然にタイムカプセルが開く日が来るのかもしれません。

忘れることすらも楽しみながら生きていきたいと思います。

Sugar

シンガーソングライター、コラムニスト、ボーカル講師、パン作り講師、京都の町のイベントプロデュースに携わるなど、現在活動は多岐にわたる。慶應義塾大学在学時から活動し、TV番組等にも出演。2017年秋からはSugar.songwriterとして京都を中心とした音楽活動を開始。大の愛犬家。2018年には日韓国際結婚。
website https://sugarmusic.theblog.me
instagram sugar.songwriter

 
 
 
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