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【注意喚起】うるおってきた!湿度がアコギに与える影響について

2020-09-04

テーマ:sound&person

最近すこぶる暑い日が続きますが、この環境に参っているのは人間だけではありません。今回は環境がギター(主にアコギ)に与える影響と、何でそうなるかという原理についてお話していきたいと思います。

その1. 湿度と気温とギターの密な関係

湿度と気温とアコギと言えば、切っても切れない関係にありますが、具体的にどんな環境下でどんな変化がギターに起こるのかを、まずは室温をおよそ25℃として、相対湿度(※1)を基準に解説していきます。下記の数字はあくまで参考程度で、極端な場合を除きあまり神経質になり過ぎる必要はありません。大体こんなもんなんだなーとお考えください。

なお、楽器自体は一般的な工場などの基準に則り、気温22~25℃、湿度50%前後の環境下で製作されたものと仮定します。

○ 湿度45~55%=快適

ギターにとって非常に快適な環境です。空調の風や直射日光に注意して、窓際などの環境変化の大きい位置や極端な気温(室温)でさえなければ、異常を起こす可能性は考えにくいと言えます。壁掛けタイプのハンガーなどに吊るして保管しておけばなおのこと良し!肝心の音や操作性も、本来持っている性能を最大限発揮できる環境です。

では、ここから湿度を下げてみましょう。

○ 湿度40~44%=僅かに乾燥による変化が出始める、かも

安全な湿度から少し乾燥した程度。「直ちに影響はない」が通用するレベルなものの、この環境が続くのはちょっとよろしく無いかな?といえます。具体的には、数日放置するとネックの逆反りが僅かに発生し始める程度です。が、セッティングや塗装様式次第では弦のビリつきが出始めるかもしれません。

○ 湿度35~39%=そこそこ危険

更に乾燥が進むと、よりネックが逆反り、弦のビリつきが更に大きくなるほか、アコギの場合トップが落ち(凹み)始め、弦高が(異常な状態で)下がり始めます。数日放置するとフレットの端が指板からはみ出てバリとして触れるようになります。

○ 湿度25~34%以下=非常に危険

かなり危険です。例え耐久性に優れると言われるウレタン塗装のアコギでも、合板でない限りいつどこが割れてもおかしくありません。ネックも極端に逆反りして、確実にビリついてきます。

○ 湿度24%以下=終了

(楽器として)終了します。よほど運が良くない限り、大抵のアコギは壊れると考えていいでしょう。ネックの逆反りも極まり、もう弾けたもんじゃありません。ビビるとかじゃない、場合によっては音が出なくなります。

大体の場合このように変化していくことが多く、基本的には

  • ネックが逆反る
  • (アコギの場合)トップが落ちる=凹む。または割れる

という経過を辿ります。

では逆に、湿度が高すぎるとどうなるのかも見ていきましょう。

○ 湿度56%~65%=湿気の悪影響が僅かに表れるかも

湿度40~44%と同様に、まだすぐに慌てるような湿度ではありません。しかしほんの僅かにネックが順反りをし始め、アコギの場合音の輪郭がぼやけ始めます。できるだけ早めに適正範囲内に戻るよう、急激な変化に気を付けながら、少しずつ環境の調整を始めた方が良いでしょう。

○ 湿度65%~70%=割と危険

危ない環境に片足を踏み入れ始めていて、ネックが順反り、弦高も高くなってきます。トップも浮き(膨らみ)始めて、弦高が上がってきます。更に音の輪郭がよりぼやけてくるでしょう。この辺りから、長期的に見ると、接着面の耐久性が落ちてくる心配が出てきます。

○ 湿度71~80%=非常に危険

非常に危険です。ネックは完全に順反り、トップが膨らみ放題、稀に各部が歪んで疑似的にハイ起き状態(ジョイント根元からネックが「くの字」に持ち上がる現象)になる場合も。音の輪郭は完全にぼやけ切ります。接着剤が緩み始め、ブレースやブリッジなどの接着がはがれ始める可能性が高くなってきます。

○ 湿度81%以上=新たな生命が芽生える

物は言いようですが、長期間放置すると楽器やケース内部にカビが生え始める可能性が出てきます。ネックの順反りも非常に強く出て、トップの膨らみも極めて大きくなり、運が悪ければギターが破損、崩壊する危険があります。

大体の場合このように変化していくことが多く、基本的には

  • ネックが順反る
  • (アコギの場合)トップが浮く=膨らむ
  • 接着した部分が剥がれる

という不具合が出てきます。湿度が低いとネックが逆反ってトップが凹み割れる、湿度が高いとネックが順反りトップが膨らみ剥がれる、というイメージで覚えてください。

たまに「~のギターは作りがズサンで、すぐに不具合が出る」「日本の過酷な環境には荒い作りでは耐えられない」といった話を聞きますが、こういった不具合のほとんどは、作りや素材の違いより、楽器にとって最適な環境を用意できていないことが原因だったりします。もちろん中には「致命的な構造的欠陥や材のシーズニング不足があった」というケースも無くはないかもしれませんが、構造上・理論上、どちらかと言えばレアケースと言えます。不具合の有無にかかわらず、まずはギターを保管している環境をチェックしてみることが大事です。

その2. 変化の原理

湿度が低いとネックが逆反ってトップが凹む、湿度が高いとネックが順反りトップが膨らむ。何でこのような変化のしかたをするか、という理由について解説していきます。

大抵の場合、ギターは木材でできています。一口に木材と言っても、バルサのような非常に軽いものから、リグナムバイタのように金属の代用品にも使われる硬く重いものまで様々です。同じ木材なのになぜこんなにも違うのかという話ですが、これは木材としての密度(気乾比重(※2))の違いによるものと言えます。例えるなら、中身がスッカスカなスポンジと、中身がギッチギチなウレタン樹脂の塊とでは、体積が同じでも重さが全く違うのと同じようなイメージです。

では、これら2つの物体(スポンジとウレタン樹脂塊)を水に浸けた時、より多くの水分を吸収できるのはどちらでしょうか。当たり前ですが、答えは何の捻りもなくスポンジです。

密度が低い物質(木材)の方がより多くの水分を含めるということになります。放置した際に空気中に、より多くの水分を出せるのもスポンジです。要は、

  • 密度が低いと水分の吸収・放出がしやすい(起こりやすい)
  • 密度が高いと水分の吸収・放出がしにくい(起きにくい)

ということが言えます。ではこれをネックの木材に当てはめてみます。

一般的なアコギのネックを参考に、ネック材をアフリカンマホガニー、指板をエボニーと仮定すると、それぞれの比重は以下の通りになります(資料により若干の違いはあります)。

アフリカンマホガニー:およそ0.53~0.59
エボニー:約1.19

となり、ネック材の方が比重は軽い=密度が低い=水分を含みやすい(放出しやすい)

という図式が見えてきます。これはつまり、指板よりネック材の方が多くの水分を吸収(あるいは放出)する余地があり、湿気の影響を受けやすいということです。例えローズ系指板やメイプルネックでも、密度の数値は違えど、密度のバランスと言う意味で、大勢は変わりません。 結果、湿度が高くなったときはネック材が指板より多く膨張して順反りを、湿度が低くなればネック材が指板よりも大きく収縮して、指板を引っ張ることで逆反りを起こす、という現象に繋がります。アコギのトップも同様に、薄いトップ材を支えるブレース材の方が、構造上環境変化の影響を受けやすいため、湿度が高いと膨らみ、湿度が低いと凹むという変化が生じるわけです。

その3. 快適な環境づくりのために

環境が楽器に与える影響はわかった。じゃあ、どうしたら最適な環境が作れるの?という話を、最後にしたいと思います。と言っても特別な技術が必要なわけではなく、基本的に適宜エアコンで気温を一定範囲内に調整しつつ、必要に応じて加湿器や除湿器で相対湿度を一定に保つことで最適化する、というのが現状では最適解かなと思います。湿度には「相対湿度」と「絶対湿度」の2種類があり混乱してしまいそうになりますが、あまり難しく考える必要はありません。市販されている大体の湿度計は相対湿度を示しているので、極端な気温(30~35℃を超えたり10℃を下回ったりしない)でもなければ、夏場=気温が高めなら湿度はやや低めに、冬場=気温が低めなら湿度はやや高めに、「基準範囲で数%調整できたらいいな」程度に考えておけば、大きな問題は大抵回避できると思います。

他に気を付けることと言えば、例え適正範囲内だったとしても

  • 極端かつ急激な変化(過酷な環境(夏場または冬場の外)から持ち込んで、そのままいきなりケースを開封するなど)は回避する
  • ハードケースに入れているからと油断しない、エアコンなどの風を楽器に直接当てない
  • 窓際など、直射日光が当たり環境の変化が激しい場所に放置しない

といったところでしょうか。この辺はよく言われる基本ですね。

エアコンや除(加)湿器を常時ないし積極的に運転するのは、電気代的にもなかなかしんどくはあります。とはいえ、大切な楽器を長く安心して使うためでもあるので、ある意味デイリーメンテナンスの一環として実践してみてください。

※1…湿度には「相対湿度(%)」と「絶対湿度(g/㎥)」があり、多くの場合「湿度」と言えば前者を指す。「相対湿度」は気温ごとの飽和水蒸気量対する、実際に空気中に存在する水蒸気の割合。同じ湿度50%でも、実際に一定体積の空気中に含まれる水蒸気量は異なる。対する「絶対湿度」は、1㎥中に含まれている水蒸気量を指し、気温に関係なく算出される。

※2…水を1として、乾燥させた同じ体積の木材の重さとの比率。高ければ重く、低ければ軽い。

T.O.R.

学生時代、小さな楽器店で初めて買った中古ギターの改修を切欠に、ジャンクギターの魔改造に手を染める。その後本格的にアコースティックギター製作を学ぶも、メンタルがお豆腐でできていたことにより楽器業界への就職は断念。現在はThor Resonant Factory(Thor Guitars)として、Instagramとヤフーオークションを拠点に、実益を兼ねた趣味として個人で製作活動を続けている。MartinやCollings、Greven等を参考にしたトラディショナルな作風が多いが、中身はフィンガーピッキング向けの、テクニカルな操作性特化の仕様が得意。マッドサイエンティスト的な面もあり、思い付きから楽器に関する実験を始めたり、大破して叩き売られているギターがお宝に見えたりしている。
instagram https://www.instagram.com/thor_resonant_factory/

 
 
 
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