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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 シンセサイザー番組で私が出会った音楽家 編~ その7

2020-08-07

テーマ:sound&person

■ 音楽の街、浜松はシンセサイザーと共に

「音楽の街」として知られる静岡県浜松市。1980年の半ば、私はシンセサイザーをテーマに1時間のTV番組を制作しました。浜松にはヤマハ、ローランド、カワイ、鈴木楽器など、世界的楽器メーカーが存在しています。 当時、シンセサイザーという楽器は発展途上で楽器メーカーは新しい音を求め、激しい競争を繰り広げていました。1980年代初頭から中期のことです。当時、ヤマハはデジタルシンセサイザーDX7、ローランドはD-50を発表。世界は新しい音に熱狂しました。ミュージシャンの感性を刺激した「音」から新しい音楽が誕生した・・・そんな時代です。

我々は「音楽の街」から生まれるシンセサイザーという楽器をミュージシャン達がどう捉え、音楽を作るのか、音は音楽家にとって「何」なのかをテーマに番組を作りました。深町純さん、井上鑑さん、本田俊之さん、林立夫さんなど、多くのミュージシャンにご出演いただきました。

ヤマハ DX-7

ローランド D-50


■ 冨田勲さんシンセサイザーの巨匠を取材

最初に尋ねたのは冨田勲さん。シンセサイザーミュージックの世界的巨匠です。穏やかな人柄の裏側に、「もの作りへの強い想い」を感じる方でした。冨田さんのスタジオはモーグシステムⅢなど、部屋中を埋め尽くすシンセサイザーで溢れていました。制作中にどこか別な場所で電源が入るとシンセサイザーの音程が狂い、それを改善した苦労話などを気さくに話してくださいました。シンセサイザーという電子楽器のパイオニアならではのお話でした。 当時のシンセサイザーは単音しか音が出ません。冨田さんはシンセサイザーの音を1つづつ重ね、オーケストラを再現しました。その手間たるや想像を絶するものがあります。行きつく場所を理解している芸術家はそんな苦労を厭わない・・・静かな情熱が冨田さんの音楽には溢れています。

富田勲/展覧会の絵


■ 小曽根真さんとゲイリー・バートンさんを取材

番組取材中、浜松ではバークリー音楽大学の出張授業が行われていました。その時の学長はヴィブラフォンの巨匠、ゲイリー・バートン。取材対象は小曽根真さん、日本を代表するピアニストです。小曽根さんはゲイリー・バートンとのデュオアルバムも制作しています。私は学長室で小曽根さんを取材する幸運に恵まれました。ゲイリーさんが大きな机に座り、小曽根さんがその前に直立不動で立ち、何やら会話をしていました。ゲイリーさんが発する言葉に対し、小曽根さんは大きな声で「Yes!」「Yes、Sir!」と返事をしていたのが今も目に浮かびます。その様子はアメリカ映画で見る軍隊そのものでした。バークリーって怖いところなんだと思いました。小曽根さんのインタビューは番組のシメにつながるものとなりました。「シンセサイザーによるたった1つの音が頭の中でイメージを膨らませる大きな要素になる」。印象深い言葉でした。

ゲイリー・バートン&小曽根真/フェイス・トゥ・フェイス

小曽根真&ゲイリー・バートン/タイム・スレッド


■ シンセサイザーマニピュレーター藤井丈司さんを取材

シンセサイザー番組のタイトルは「世界の音を変えた街」。番組のラストは藤井丈司さんが作った「新しい音」を子供たちがリリコン(電気尺八)を使って演奏する風景で幕を閉じます。 さて、藤井さんのお話です。藤井さんは当時、日本で一番の売れっ子でした。「シンセの音を作る人」、シンセサイザーマニピュレーターです。私のバンドの同僚が藤井さんの後輩だったため、コンタクトがとれました。サザンオールスターズ、桑田佳祐さんのファーストアルバムの内ジャケットにもその姿を見ることができます。当時の藤井さんのスケジュール帳にはSASの文字が多く書かれていました。神経細やかな方で、こちらの質問が少しでもブレていると納得をされない厳しさがありました。音楽家といえばノリで対応する・・・なんてとんでもない!そんな方に「番組の核となる誰も聞いたことのない音を作って欲しい」というのが我々のリクエストでした。今考えれば、恐ろしい提案です(汗)。できあがった「音」からは日本のトップを走るミュージシャンの矜持を垣間見ることができました。

桑田佳祐/『Keisuke Kuwata』


シンセサイザーという時代の寵児である電子楽器を取材し、私が感じたことは1つ。「電子楽器はまだヨチヨチ歩きの子供」でした。「どんな音でも作り出せる」と云われた、シンセサイザーは楽器の頂点になりうると勘違いをしていました。シンセサイザーが悪い訳ではありません。アコースティックピアノを考えてみてください。チェンバロから派生したピアノは1つの鍵盤を押せば、88鍵盤全てのピアノの弦が響き合い、密閉された箱の中で音が響きます。和音を弾けば更に数限りない音が響き合います。数百年の歴史を持つ楽器とシンセサイザーを比べるものではないのです。サンプリングもデータ容量の拡大で、その精度は上がりました。とはいえ、音の断片を写真で撮影したようなものです。箱の中で空気が揺れ、響き合う音をシンセサイザーは作り出すことはできません。しかし、シンセサイザーという電気箱から音ができ、新しい音楽が生まれたのは間違いありません。これからも小曽根さんの言葉にあるような「イメージの拡大」をシンセサイザーが担い続けて欲しいと私は考えています。

音楽ライター / シンセ鍵盤卿

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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