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大切な店が、またひとつ消えていく。。。

2026-05-25

テーマ:サウンドハウス創業者のコラム「Rickの本寝言」

Rickの本寝言 サウンドハウス創業者が本音をついつい寝言でつぶやく!

ついに、その時が来てしまった。東京都内でも長い歴史を誇る赤提灯酒場、戦後の昭和時代から続いてきた目白の著名な焼き鳥屋「鳥八」が、2026年6月30日をもって閉店することとなった。オープンは1970年、創業以来56年以上にわたり、目白の地で営業を続けてきたのだ。オーナーは姉と弟の2人。すでにご高齢でもあり、戦後、台湾から日本へ戻られ、大変な苦労を重ねてこられたとも聞いている。そんな背景を思うと、胸に込み上げてくるものがある。本当に長い間、ご苦労さまでした、と心から伝えたい。

とにかく鳥八は、一言で言えば「すごい!」としか言いようがない。「吉田類の酒場放浪記」や「おんな酒場放浪記」にも登場するほどの知名度を誇りながら、店内は昭和そのままの姿を保ち続けている。一歩店に入ると、そこはまるで別世界、昭和の空気がそのまま流れているのだ。もちろん、カウンターは狭く、椅子も小さい。一見すると、年季の入った古びた居酒屋にしか見えない。ところが、壁いっぱいに貼られたメニューと値段を見ると、その印象は一瞬で驚きへと変わる。古いのは店だけではなく、価格までも昭和のままなのだ。

とは言え、つい最近、やむなく値上げをしたとも聞いている。そのため、値段の部分だけは紙を貼って修正されている。それでも焼き鳥5本で550円。消費税込みで1本100円ほどなのだから安い。肉がたっぷり付いた手羽先は3本450円。これが絶妙な味で、店の看板メニューとも言える。実際、鳥八の「皮」を食べてしまうと、他ではもう満足できなくなるほど美味しい。しかも3本330円だ。さらに、マグロの刺身は680円。量たっぷりのポテトフライは揚げたてで400円。サワー系ドリンクも400円。大ぶりの生椎茸焼きが2個で550円とくるのだから、もうたまらない。

鳥八が目白で愛され続けてきた理由は、単に安いからではない。決め手は、やはりこの姉弟2人の人柄にある。台湾から帰国されたこともあり、中国語も堪能だ。弟さんは黙々と焼き鳥と調理に専念し、お姉さんが接客と配膳を担当する。その絶妙なコンビネーションの中で、お姉さんの軽妙な話術に、来客は自然と引き込まれていく。もともと鳥八は、地元インテリ層が集う焼き鳥屋として知られていた。目白周辺には、早稲田大学、学習院大学、日本女子大学などが点在しており、それらの大学で教鞭をとる先生方もこの店に通っていた。赤提灯酒場としては珍しく、カウンター越しには、高度な知的議論が飛び交う。そんな光景も、この店ならではの魅力だった。

特にここ最近は、インバウンド需要やSNSの口コミの影響もあり、中国系の来店客が急増した。するとオーナーは流暢な中国語で応対し、毎晩数時間をこの店で過ごしている早稲田大学の講師までもが、自然と中国語で会話を始める。こんな焼き鳥屋は、日本全国を探してもまず存在しないだろう。だからこそ、惜しまれてならないのだ。
この10年間、自分にとって大切な店が目白から次々と消え去っていった。コロナ前には、常連として週に何度も通っていた松屋が閉店した。その直後には、大好きだった日高屋も姿を消した。さらに、その後に入った大阪王将も数年前に閉店してしまった。そもそも駅前のマクドナルドでさえ、店を閉じた。目白の飲食店が共通して抱えていた問題は、人手不足だ。特に若いスタッフを確保することが難しく、十数年前から外国人アルバイトへの依存が目立ち始めていた。その外国人スタッフですら採用が難しくなり、松屋が閉店したニュースは記憶に新しい。

矢継ぎ早に飲食店が閉店してしまった目白。では、これからこの町はどうなっていくのだろうか。目白は、池袋と新宿に挟まれた東京屈指の好立地であり、さらに徳川家ゆかりの地でもある。つまり、都内でも極めて恵まれた地勢と環境を持つエリアなのだ。そんな目白で、飲食店に代わって急速に台頭してきたのが、コーヒーショップだった。そして目白は、大手コーヒーチェーンがひしめき合う激戦区へと変貌することになる。

学生の図書館化した目白駅そばのサンマルク(日曜午前)

駅前のイタリアンレストラン跡にはスターバックスが入り、マクドナルド跡にはサンマルクカフェがオープンした。どちらも広々とした店内は、まるで図書館のような空間に仕立てられている。その道路向かいにはドトールがあり、さらに隣には地下の老舗喫茶「伴茶夢」がある。そしてスタバの向かいには高級路線の宮越屋珈琲が登場し、1杯1,000円近いコーヒーを提供している。さらに数年前には、ドトール系列のエクセルシオールが宮越屋珈琲の真正面にオープン。そして最近では、中国系投資家による新興チェーン「Cotti Coffee」まで登場した。いまや駅前100メートル圏内に10店舗以上のコーヒーショップが乱立している。そして驚くべきことに、どの店も学生を中心とした客で常に満席状態なのだ。

目白駅ビル1Fのスタバは学生でいつもいっぱい!

ここで疑問が生じる。以前の飲食店は人手不足で閉店に追い込まれた。では、なぜ同じ場所でコーヒー店は次々と開業できるのか。その理由は、大手上場企業が運営するコーヒーショップが、「おしゃれで働きやすいバイト先」として映るからだろう。目白には日本女子大学や川村学園女子大学など女子大が多く、駅前には学習院大学もある。とにかく女子学生が多い街なのだ。そうした女子大生たちにとって、職場環境が清潔で、雰囲気も明るく、マニュアルもしっかり整備された大手コーヒーショップは理想的なアルバイト先に見える。牛丼屋やカレー店には行きたがらず、油の匂いが充満するラーメン店はさらに敬遠される。その点、コーヒーショップはハードルが低く、友人が来店しても気軽に会話できる。しかも時給も悪くない。だからこそ、以前のような人手不足の問題を回避できている。その結果、目白駅周辺はコーヒーショップで埋め尽くされ、どの店も学生で賑わっているのだ。

話が少しそれてしまった。本当に言いたかったのは、コーヒーショップの大繁盛ではない。「鳥八」が消えてしまうことが、残念でならないということだ。時代は変わっていく。そして昭和の情緒を色濃く残した赤提灯が、またひとつ目白から姿を消す。代わりに登場するのは、若者向けのモダンな店舗。それ自体は決して悪いことではない。しかし、昭和に生まれ、昭和に育った自分にとっては、その両方が共存していたからこそ魅力的だった。古いものと新しいもの。そのコントラストと強弱感が、街に独特の味わいを与えていたのだ。
そんな良き古き時代が、いよいよ終焉を迎えようとしている。そう思うと、ただただ侘しさだけが募る今日この頃である。

昭和の雰囲気に包まれた「鳥八」の入り口

Rick - 中島尚彦 -

1957年東京生まれ。10代で米国にテニス留学。南カリフォルニア大学、ウォートン・ビジネススクールを経て、フラー神学大学院卒。GIT(Guitar Institute of Technology)第2期生のギタリスト。80年代にキリスト教会の牧師を務め、音楽ミニストリーに従事しながら、アメリカで不動産会社を起業。1989年、早稲田でライブハウス「ペトラクラブ」をオープン。1993年千葉県成田市でサウンドハウスを創業。2001年、月刊地域新聞日本シティージャーナルを発刊。主幹ライターして「日本とユダヤのハーモニー」の連載をスタートし、2010年よりwww.historyjp.com を通じて新しい切り口から古代史の流れをわかりやすく解説。2023年、一般財団法人サウンドハウスこどものみらい財団を創設し、こどもたちの支援にも従事。趣味はアイスホッケー、ピアノ演奏、トレイルラン、登山など。四国八十八ヶ所遍路を22日で巡る。グループ企業の経営指導に携わるかたわら、古代史の研究に取り組み、日本のルーツ解明と精神的復興をライフワークとする。

 
 
 
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