
パワーアンプのトップブランド、QSC社の創設者の一人であるPatric Quilter氏により立ち上げられた新鋭ブランドQuilter。今回は、世界中のギタリストを魅了しているQuilterサウンドの秘密に迫るGeorge Dyer氏のブログを転載します!
George Dyer氏のブログより
2016年11月24日
Quilter(クイルター)アンプが登場後、コンパクトで軽く、信頼性の高いチューブトーンのアンプを探していたギタリストは、こぞってこの新しいアンプを導入。その結果、Quilterアンプは瞬く間に市場に浸透して行きました。私もすぐに飛びついた1人です。もし、私のFender Bluse Jrを欲しい方がいればメッセージを送ってください。すぐに譲ります。でも、結局Quilterアンプを買ってしまうような気がします。
ここでは、Quilterアンプがその小さな軽いボディの中で、いかに素晴らしいサウンドを作ることができるかについて説明したいと思います。
レビューをたくさん読むより、次の記事を読んでみてください
Quilterアンプの設計について詳細を述べていきます。まず、すぐに知りたいと思う方のために、最初ここで簡単に説明します。
- ライトウエイト・スイッチモード電源:
- 軽量・小型化を図ると同時に、AC電流をDC電流に効率良く変換します。
- アナログ・オーバードライブ・シェイピング回路:
- ハーモニック・オーバードライブ、クリッピング、ディストーションなど、チューブアンプの特徴を再現するパーツを、プリアンプ部に採用しています。
- 軽量で効率の良いクラスDパワーアンプ:
- アンプはチャンネル毎に100W。軽量かつ、伝統的なチューブアンプと比較して、エネルギー効率も非常に高くなっています。
- スピーカー・フィードバック・システム:
- オーバードライブ・シェイピング回路とパワーアンプがスピーカーの動作からフィードバックをかけ、パワーアンプのダンピングファクターを大きくすることが可能となります。
 私が所有しているQuilter MicroPro Mach 2はPat Quilter氏によりデザインされました。1960年代後半、Pat Quilter氏はソリッドステートによるベースアンプとギターアンプを作りましたが、当時プロミュージシャンが好むアンプの選択としては、チューブアンプが確固たる地位を築いていました。
 Pat Quilter氏と彼のパートナーはパワーアンプの設計と製造に対するビジネスの方針を転換、プロオーディオの分野において数十年もの間に渡り、「QSC」ブランドで大成功を収め、その製品は世界中の映画館やコンサート会場で見られるようになりました。そして、その成功を糧に2011年にギター/ベースアンプの開発・製造に改めて挑戦することにしたのです。
 この新しいQuilterのアンプに出会ったほとんどの人は驚きを隠せません。9 kgの重量と旅客機の前座席下に収まるサイズのこの小さなアンプは、その重さと大きさからは想像もつかないパンチがあり、20 kg、40wのチューブアンプよりパワーがあります。さらに、価格もリーズナブルで、信頼性が高く、ほとんどの人が「良い」から「最高」の評価をしています。
詳細に入る前に、ギターアンプの動作原理ついて少し
エレキギターの弦を弾くと、その振動により、ピックアップのコイルワイヤーに微弱電流が流れます。その電気信号の波形は弦の振動とほぼ同じです。ギターアンプはこの弱い電気信号を増幅してスピーカーを鳴らしています。

技術資料 : http://hyperphysics.phy-astr.gsu.edu/hbase/audio/amp.html
真空管(チューブ)、または伝統的なソリッドステート・ギターアンプはクラスA、B、ABのいずれかのアンプデザインを採用しています。電源を通して電流を流し、電流レベルを真空管、またはトランジスタがドライブできるレベルまで増幅します。トランスから始まり、コンデンサー、抵抗、再びトランスなど、さまざまな部品を通って、真空管とトランジスタは、ギターから来た信号をアンプで使用するレベルまで増幅していきます。
Quilterのアンプは他ギターアンプと何が違うのでしょうか?
このアンプはLine 6やBlackstarのようなデジタル・モデリングアンプではありません。しかしながら、中にコンピュータチップを搭載している点は同じです。また、トランジスタを搭載してますが、クラシック・ソリッドステート・アンプとも違います。その代わり、Quilterはスイッチング電源の他、アナログ・オーバードライブ・シェイピング回路、クラスDパワーアンプを搭載しています。
クラスDアンプは次のようにギター信号を増幅します。
- ギター信号はコンパレーターを通ります。
- コンパレーターは定周期の基準三角波を生成します。
- ギター信号が一瞬でも基準三角波のレベルを超えると、コンパレーターの信号はプラスになり、基準三角波より下がるとマイナスになります。
- これにより、矩形波が生成され、そのパルス幅はオーディオ信号の幅に比例します。

技術資料: https://www.maximintegrated.com/en/app-notes/index.mvp/id/3977/
- 矩形波はバイナリーゲートの機能を持つトランジスタに送られ、数百 kHz でスイッチングされます。
- トランジスタからの信号はコンパレーターにより、増幅された矩形波になります。
- この信号はフィルターを通り、矩形波の高周波とコーナーが取り除かれ、オリジナル入力信号と同じ正弦波に変換されます。
クラスDアンプの利点は何ですか?
クラスDアンプは、軽くコンパクトで効率が良くパワフルであるにもかかわらず、発熱はごくわずか。一方で真空管やクラシック・ソリッドステート回路は、重く、効率は良くありません。この古いデザインでは、常にエネルギーロスが生じています。
クラシック・アンプ・デザインで起こるエネルギーロスのほとんどは、パワー真空管をリニアレンジで動作させる必要性から起こります。また、最適に動作するには、真空管を動作温度まで上昇させる必要があります。チューブアンプの電力はギター信号を増幅するよりも、真空管を温めるために多く消費されます。
一方で、クラス D アンプはおよそ 90%の効率で動作し、わずか 10%のエネルギーが熱として放出されるだけです。従来のギターアンプは 70%から 90%のエネルギーを熱に変えています。放熱するために余裕のある部品配置、広い空間、ヒートシンク、冷却ファンも必要です。(クラスD アンプはその効率の良さからスマートフォンなどにも搭載されています)。
スイッチング電源によりさらなる軽量化と、ヒートロスの削減
パワーサプライの役割はコンセントからの電気を、アンプ回路が動作する電気信号に変えることです。アンプの設計により、電流の仕様は異なりますが、殆どのパワーサプライに共通の問題は大きくて重いことです。Quilter アンプではこの問題を回避しました。
スイッチング電源(switched power supply)では、コンセントからの電気を超高速で切り替えて超高周波の交流(AC)信号を作ることができるトランジスタを使用します。この超高周波信号により、小型で軽量のパワートランスで済むようになります。一般の電源はコンセントからの低周波電流をパワートランスに流します。このトランスは磁気飽和を避けるため、通常、重く、大きくなります。スイッチング電源のもう一つの利点は、広い電流、電圧、周波数領域を扱うことができることです。従来の電源を使用したアンプと異なり、Quilter は商用電源が 110V から 220V に切り変わっても、トランスを必要としません。このため、不安定な電源環境のコンサート会場で演奏していても、電圧変動に影響されません。 (スイッチング電源を採用したのは特に画期的なことではありません。Walter Woods 氏が1970 年代にスイッチング電源を採用したベースアンプをデザイン、製作しています。
ちなみに、彼は楽器用アンプにクラス D パワーアンプを初めて採用した人物でもあります。)
Quilter プリアンプ回路がチューブトーンとオーバードライブをエミュレート
もちろん、クラス D アンプ設計にしただけでは、チューブアンプのトーンは得られませんでした。
しかしながら、このクラス D アンプの大きなメリットである効率の良さを活用し、チューブアンプの特徴である、温かくレスポンスが早いオーバードライブ・サウンドを作るために、Quilter は複雑なプリアンプ回路を開発しました。Pat Quilter 氏の特許出願情報によれば、彼のアナログプリアンプ回路は次の要素を含んでいます。
- イーブン・ハーモニック・ジェネレーター:
- 倍音はサウンドの音質を決める重要なファクターです。220Hz の完全なサイン波は「A」音になりますが、これだけでは、あまり魅力のない音です。それに周波数 440Hz(2 倍音ハーモニクス/1オクターブ)、660Hz (3 倍音ハーモニクス/パーフェクト 5th)、880Hz(4 倍音ハーモニクス/2 オクターブ)などの周波数を加えて、「A」音に個性を加えます。チューブアンプはシグナル・クリッピングや後述するその他の現象により、これらを自動的に作り出します。イーブン・ハーモニック・ジェネレーターは、次段回路がクリッピングポイントに近づいたとき、偶数次高調波を加えます。これにより Quilter はクラシック・チューブ・オーバードライブサウンドを実現しています。

技術資料: http://www.electronics-tutorials.ws/amplifier/amp_4.html
- ソフトクリッピングセル:
- 交流信号が設定したリミットを超えると、クリッピングが起こり、歪み、ハーモニクス、サステインを生成します。クリッピングには2種類あり、1つは対称クリッピング(正負両方が同じ値でクリッピングされる)であり、もう1つは非対称クリッピングです。(対称クリッピングが奇数倍音のみ加わるのに対して、非対称クリッピングでは奇数と偶数の両倍音が発生します)。Quilter の回路では、偶数倍音はハーモニックジェネレーターにより加えられます。ソフトクリッピングセルでは主に偶数倍音を作ります(奇数倍音は低域を強調します)。ソフトクリッピングセルは、アンプが少しオーバードライブ気味になっても、倍音が確実に存在できるように、クリッピングを徐々に起こします。

技術資料: http://blackstoneappliances.com/dist101.html
サグコントローラー: プッシュプル回路、またはクラス AB 回路において、アンプは出力が大きくなると電源に電流が多く流れます。つまり、ギタリストが大音量で演奏すると、真空管の整流器を通った電流が増え、次に抵抗も増えます。真空管の整流器は AC 電流をDC に変換するだけでなく、アンプに搭載された他の真空管のプレートに電圧を加えます。整流器の抵抗が増えると、他の真空管のプレートに供給している電圧が少し下がります。これにより、アンプの出力も少し下がり(これを「サグ(たるみ)」と呼んでいます)、出力信号にコンプレッション・エフェクトが与えられます。さらに、パワー真空管の電圧が下がり、クリッピングが早く起こります。

技術資料: http://www.valvewizard.co.uk/smoothing.html
ゼロ・クロッシング・プロセッサー: ゼロクロッシング・プロセッサーは、特に入力信号が大きい時に AB クラスアンプで起こる、一時的なバイアスシフトをエミュレートします。具体的に言うと、ギターをハードにピッキングした時、少しの間、アンプの歪みを抑える効果があります。また、ゼロの位置で信号の一部を出力しない特性があり、それが豊かな歪みを作り、細かいパッセージでも明確に一音一音区別できるようになります。この現象はチューブアンプ全てで起こるわけではありません。Howard Dumble のアンプデザインのように、この現象を最小にしようとするものもあります。このバイアスシフトとクロスオーバー・ディストーションが必要かどうかは意見が分かれるところですが、多くの真空管アンプに内包される特徴です。
Quilter アンプユーザーは、これらのエフェクトを、直接ではありませんがコントロールすることができます。アンプにはプリセットがあり、使い慣れたアンプトーンと組み合わせて使用することができ、プリセットのレベルはゲインとブーストコントロールにより調整することができます。プリアンプ信号がクラス D パワーアンプに行く前に、ユーザーが調整できる EQ とマスターボリュームを通ります。
他のアンプデザイナー、有名な Peavy や Roland は真空管のオーバードライブをシュミレートするために、同じようなアナログ回路を使用しました。Quilterの違うところはクラスDアンプを用いることで、他のメーカーで使用されているソリッドステートのパワーアンプよりヘッドルームをさらに広く取ることができることです。余裕のあるヘッドルーム、または高い電圧を扱う能力はQuilterのチューブアンプ・エミュレーションを成功に導いた要因の1 つです。チューブアンプが発生する電圧スパイクは独特のエフェクトを生むため、これをエミュレーションすることはチューブアンプのサウンドを再現するための重要な要素となります。
Quilter のアンプは、チューブアンプとスピーカーとの緩い結合によるサウンドを再現
アンプの出力信号がスピーカーを鳴らします。このAC信号はスピーカーのコイルを通り、磁場を生じさせます。入力信号が変化すると、磁場も変化、コイルがある一定の比率で動きます。コイルはスピーカーのダイアフラムに繋がっていて、アンプ出力と同じ周期で空気を振動させます。そして、素晴らしいギターサウンドが生まれるのです。
アンプの出力信号に対するスピーカーの抵抗をインピーダンスと呼んでいます。その値は多くの要因により決まります。特に顕著なのは、出力信号周波数です。

技術資料: http://www.electrosmash.com/marshall-mg10
スピーカーのインピーダンスは、アンプの出力回路に電流を発生させ、アンプそのものが一種の抵抗として働きます。ソリッドステート・アンプは非常に低い抵抗を持っているため、スピーカーコーンは自分が発生する逆起電流により動きやすくなります。これによりスピーカーは、アンプから送られた信号を忠実に再生します。
一方で、チューブアンプは、スピーカーが生成した電流がアンプの出力トランスを通らなければならないため、高いインピーダンスを持ちます。つまり、スピーカーにより生成された逆起電流は弱くなり、スピーカーコーンが動きづらくなります。この低いダンピングファクターにより、アンプはスピーカーを忠実にコントロールすることはできなくなります。その結果、アンプ信号の再生能力は低くなります。これが結果的に、よく知られる温かみのあるチューブサウンドにつながるのです。
Quilterのフィードバック回路電流は、スピーカーからパワーアンプとオーバードライブ・シェイピング回路、両方に流れます。その回路は次の 4 つのことを実現しています。
- スピーカーにより生成された電流に対して現れるチューブアンプのハイインピーダンス負荷の特性を再現。
- スピーカーのインピーダンスが高いときに現れる電圧スパイクを生成。
- オーバードライブ・シェイピング回路により、チューブアンプがスピーカーの特性(スピーカーダンピング)によるトーンを再現。
- スピーカープロテクション回路により、スピーカーがリミットに達したとき、アンプ出力をカットしてダメージから保護。
優れた部品を搭載
ここで紹介した機能のほとんどは、以前のアンプ設計から使われてきたものです。しかし、Pat Quilter 氏はこれら全てを組み込んだ最初のアンプデザイナーでしょう。結果として、チューブサウンドを他の誰よりも忠実にエミュレートしたアンプを設計しました。願わくはPat Quilter 氏がさらに高いレベルを求めて開発をし続けることを祈っています。
いかがでしょうか?私も知らなかったことが多数!大変勉強になりました。今後も皆さんに役立つ情報をお届けしていきます!












 









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