
MR.BIGやThe Winery Dogsでお馴染みのベースヒーロー、Billy Sheehan(ビリー・シーン)。
彼の名前を聞けば、真っ先に思い浮かぶのはあの「深く歪んだサウンド」と、それを武器に繰り広げられる超絶技巧の数々でしょう。速弾きやライトハンド奏法など、そのプレイスタイルは唯一無二であり、数多くのベーシストを魅了してきました。
もちろん、あの超絶プレイを完全に再現するのは容易ではありません。しかし「せめてあの音に近づけたい」と思ったことのある方は多いはず。今回は私が普段から愛用しているBOSSのフラッグシップ・マルチエフェクター GT-1000 を使って、ビリー・シーン風のソロベースサウンドを作り込む方法をご紹介します。
BOSS ( ボス ) / GT-1000 マルチエフェクター
今回使用する機材
ベースには Fender Japan Jazz Bass Special を使用しました。このモデルには DimarzioのModel PとModel J が搭載されています。ビリー・シーン本人のサウンドを目指すにあたり、今回は Pベース側のピックアップ のみを使用します。

ビリー・シーンの音作りの基本
まずは彼のサウンドを理解するところから始めましょう。
ビリーの音は一聴すると「強烈に歪んだベースサウンド」と感じますが、実際は非常に緻密に設計されています。ポイントは次の通りです。
- 低域はクリーンを維持
- ベースの存在感を支える低域は潰さず、クリーンに保つ。
- 高域のみを歪ませる
- ドライブ感とアタックを生む高域を歪ませ、ソロやリフで存在感を発揮。
- 2系統の出力設計
- ビリーのシグネイチャーモデル(Yamaha Attitudeなど)は、ピックアップごとに独立した出力があり、低域用と高域用で別々に音作りできるようになっています。
つまり「クリーンな低域+歪んだ高域」をブレンドしているわけです。これが「芯が残りながら暴れる音」の正体です。
今回は通常のアウトプットが1つのベースを想定し、GT-1000を使ってこの構成をシミュレートしていきます。
ステップ1:信号を2系統に分ける
GT-1000には「DIVIDER」という機能があります。これを使うことで、入力されたベースの信号を 2つのルートに分岐 させることが可能です。
- ルートA:低域(クリーン)用
- ルートB:高域(ドライブ)用
この時点でビリーのシステムにかなり近づきます。通常のペダルボードだけでは難しい処理も、マルチエフェクターなら柔軟に構築できます。
ステップ2:フィルターで帯域を分割
分けた信号をそれぞれ役割に応じて処理します。ここで重要なのが「どこで帯域を区切るか」という点です。
ビリー本人は クロスオーバーを使っておおよそ250Hzあたりを境界 にしています。GT-1000の場合はDIVIDERのフィルター機能を活用し、同様の設定を行います。
- クリーン側(低域) → LPFを250Hzに設定
- ドライブ側(高域) → HPFを250Hzに設定
250Hzという数値は目安であり、使用するベースやアンプ、スピーカーによって微調整するとさらに自分の好みに寄せられます。例えば、少し低め(200Hz程度)にすれば高域がより際立ち、逆に高め(300Hz前後)にすればロー感を強調できます。
ステップ3:低域(クリーン)の音作り
クリーン側はベースの土台となる部分です。アンプシミュレーターには NATURAL BASS を使用しました。これはクセが少なく、素直なサウンドが得られるためベースのキャラクターを活かすのに向いています。
コンプレッサー設定
さらに、クリーン側にはコンプレッサーを追加します。ビリーのサウンド分析を見ると Ratioを高め(7:1〜10:1)に設定し、AttackとReleaseを速め にしている印象です。これによりローが暴れず、タイトにまとまります。
今回使用したのは X-BASS COMP。設定は以下の通りです。
- THRESHOLD…70
- ATTACK…0
- LEVEL…50
- TONE…0
- RATIO…8:1
- DIRECT MIX…0
この設定でローがしっかり固まり、ハイ側のドライブとブレンドしたときに安定感が生まれます。
オクターバーの応用
The Winery Dogs期のビリーは、クリーン側にオクターバーをかけることもありました。GT-1000ではオクターバーを コンプの前段 に入れると自然に馴染みます。ロー側の処理なので、ギター用オクターバーの方が音が割れにくく綺麗にかかる印象です。
ステップ4:高域(ドライブ)の音作り
次に高域側。こちらがビリーらしい「歪みの正体」です。 アンプシミュレーターには X-MODDED を使用しました。これは深く歪ませても粒立ちが失われにくく、アグレッシブなソロにも対応できるモデルです。
EQとGAIN設定
Gainは高めに設定しEQは「ミドルを強調、ローとハイを削る」という かまぼこ型EQ にしました。
設定例は以下の通りです。
- GAIN…75
- SAG…+7
- RESONANCE…0
- LEVEL…50
- BASS…20
- MIDDLE…100
- TREBLE…10
- PRESENCE…0
- GAIN SW…MIDDLE
これにより、ピックアタックやタッピング時の粒立ちが際立ちます。ベースソロでギターに負けない存在感を発揮できるでしょう。
※ビリーは歪み側にもクリーンを若干混ぜていますが、GT-1000で完全に再現すると構成が複雑になるため、今回は割愛しています。
ステップ5:低域と高域をブレンド
最後に2系統をブレンドします。GT-1000のDIVIDERでは比率を自在に調整可能です。
今回は 100:100 に設定しました。つまり両方をフルで混ぜています。ライブやバンドアンサンブルでは環境に応じて調整すると良いでしょう。ローが埋もれる場合は低域を強め、高域が耳に痛ければドライブ側を抑える、といった調整が有効です。
実際に使ってみた感想
このセッティングでプレイしてみると、ローはしっかりと支えを残しつつ、ハイ側が暴れるような「ビリーらしい存在感」が得られました。特にソロパートやユニゾンフレーズで力を発揮します。
また、GT-1000はエフェクトチェーンの自由度が高いので、例えばドライブ側にディレイをかけてリードベース風にしたり、ロー側に軽くコーラスを足して広がりを出す、といった応用も可能です。
まとめ
GT-1000を使えば、シグネイチャーベースや専用のクロスオーバー機材がなくても、ビリー・シーンの迫力あるサウンドにかなり近づけます。プレイ面では彼のように速弾きやタッピングを完璧にコピーするのは難しいですが、まずは「音」を寄せることで雰囲気を掴むことができるでしょう。
ぜひご自身のベースとGT-1000で挑戦してみてください。
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