
アコースティックギターを録音する場合、一番理想的なのは、コンデンサーマイクを用いたしっかりとしたマイキング録音です。マイクを通したアコギの音は、空気の振動やボディの共鳴を自然に捉え、温かみと奥行きを持ったサウンドになります。スタジオレコーディングではこの方法が定番ですが、自宅でアコギをマイキングして録音するのは難しいケースが多いです。
例えば、静かな環境を確保する必要があり、外の騒音や生活音が入ってしまうと一気にクオリティが落ちます。また、適切なマイクやオーディオインターフェイスを揃えるコストも馬鹿になりません。さらに、マイク位置の調整には経験が必要で、ベストなポイントを見つけるには時間がかかります。スタジオを借りれば環境は整いますが、時間やお金の負担が大きいという問題もあります。
そこで現実的な選択肢となるのが、ピエゾピックアップを搭載したエレアコの「ライン録音」です。直接オーディオインターフェイスに繋げば手軽に音を収録できますし、外部環境に左右されることもありません。しかし、ラインで録ったそのままの音は「冷たく無機質」「カリカリして耳に刺さる」と感じる方も多いはずです。ボディの響きや空気感が不足しているため、どうしても生のアコギらしさに欠けてしまいます。
そこで今回は、BOSSのフラッグシップ・マルチエフェクター GT-1000 を使い、ラインのエレアコサウンドをできる限りマイク録りに近づける方法をご紹介します。GT-1000はエレキギター用の印象が強いですが、実はアコースティックギターでも非常に優秀な武器になります。ライブ、配信、宅録のいずれでも活用できるテクニックですので、ぜひ参考にしてください。
BOSS ( ボス ) / GT-1000 マルチエフェクター
1. アコギ用プリアンプを使う – 「AC RESONANCE」の活用
まずはGT-1000に搭載されているアコギ専用プリアンプ AC RESONANCE を使用しましょう。ピエゾピックアップからの信号は、弦の振動をダイレクトに拾うため「生音感」に乏しく、どうしても固い印象になります。ここにAC RESONANCEを挿入することで、アコギ特有のボディ鳴りや共鳴感を補ってくれるのです。
GT-1000のAC RESONANCEにはいくつかのタイプが用意されており、「STANDARD」「BRIGHT」「WIDE」などキャラクターを選べます。
- STANDARD: もっとも自然でオールラウンドに使える。
- WIDE: 低域から高域まで広がりのあるサウンド。ソロ演奏やバラードにおすすめ。
- BRIGHT: カッティングやストローク向け。明るいトーンが欲しいときに最適。
サウンドサンプルを用意してみました。
まずは、ピエゾ単体の音です。
この音にプリアンプを入れてみましょう。設定は以下の通りです。
TYPE ・・・ WIDE
RESONANCE ・・・ 45
TONE ・・・ -20
LEVEL ・・・ 60
この時点でだいぶライン臭さは消えましたね。
ですが、まだ生っぽさには欠けますね。
2. アンプシミュレータを使う – キャビシミュで空気感を補う
「アコギなのにアンプシミュレーター?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、ここで注目すべきはアンプそのものではなく、セットで利用できる キャビネットシミュレーター です。
GT-1000に搭載されている TRANSPARENT というアンプタイプは、アコギ向けに設計されたワイドレンジ仕様で、音を濁らせずにキャビネットの効果を加えることができます。キャビシミュは実際にスピーカーを通した際の空気振動を再現してくれるため、ライン直結では得られない自然な奥行きが生まれます。
アンプシミュレータを使ったサウンドはこんな感じです。
アンプ設定
GAIN ・・・ 45
SAG ・・・ 0
RESONANCE ・・・ +10
LEVEL ・・・ 70
BASS ・・・ 50
MIDDLE ・・・ 50
TREBLE ・・・ 50
PRESENCE ・・・ 50
GAIN SW ・・・ MIDDLE
SOLO SW ・・・ OFF
3. コンプレッサーでレンジを整える – 「X-BASS COMP」も試してみる
ピエゾピックアップの特徴の一つは、レンジの広さです。低域から高域までフラットに拾うため、一見すると解像度が高く聞こえますが、そのままだと「演奏の強弱が大きすぎて不自然」「アタックが強すぎて耳障り」と感じられることもあります。
そこで役立つのがコンプレッサー。アタックを軽く抑え、音量差を整えることで、より聴きやすく自然なサウンドになります。GT-1000には複数のコンプが用意されていますが、アコギで意外に使えるのが X-BASS COMP。名前の通りベース用のコンプですが、低域をしっかりまとめつつ自然なかかり方をするため、アコギのボディ感を損なわずに使えます。
コンプはプリアンプの前に挿入するのがオススメ。これにより、後段のAC RESONANCEが安定した入力を受けられ、より自然に響きます。
コンプ設定
THRESHOLD ・・・ 50
ATTACK ・・・ 75
LEVEL ・・・ 40
TONE ・・・ 0
RATIO ・・・ 3:1
コンプのキャラクターも相まってだいぶいい感じになってきたのではないでしょうか?
4. リバーブを加えて空間感を演出
最後にリバーブを加えることで、さらにマイク録りに近い自然な空気感を作り出せます。リバーブはギター単体で聞いたときのリアリティを補うだけでなく、アンサンブルに混ざったときの馴染みやすさにも直結します。
GT-1000のリバーブは多彩で、ルーム、ホール、プレートなどシチュエーションに応じて選択可能です。アコギの場合は ROOM や HALL を軽めにかけるのが定番。深すぎるとモワモワしてしまうので、あくまで自然に響きを足す程度に留めましょう。
今回は AMBIENCE というリバーブタイプを選択しました。
アンビエンスマイクを再現したリバーブで、空間的な奥行きを演出してくれます。
録音の際はリバーブをかけずにドライで収録し、後からDAWで加えるのも賢い選択です。リバーブは後から調整が効くので、ミックスの段階で曲の雰囲気に合わせる方が柔軟に対応できます。ライブで使う場合はPAエンジニアと相談し、会場の響きやPAのリバーブとバランスを取ると良いでしょう。
TYPE ・・・ AMBIENCE
TIME ・・・ 1.0s
TONE ・・・ 0
DENSITY ・・・ 5
EFFECT LEVEL ・・・ 40
PRE-DELAY ・・・ 0ms
LOW CUT ・・・ 63.0Hz
HIGH CUT ・・・ 8.00kHz
LOW&HIGH DAMP ・・・ 0
MOD&DUCKセクションは全て0
まとめ
エレアコのライン録音は、簡単に行える反面、そのままでは「生々しさ」に欠けるのが課題です。しかしGT-1000を活用すれば、以下の4つのポイントでマイク録りに迫るサウンドを作ることが可能です。
- AC RESONANCE でボディ鳴りを補正
- TRANSPARENTアンプ+キャビシミュ で空気感を付与
- コンプレッサー でレンジを整えて演奏性を向上
- リバーブ で空間感を演出
この流れを押さえれば、宅録でもライブでも、ピエゾ直の硬い音から脱却し、リスナーにとって心地よいアコースティックサウンドを届けられるでしょう。
GT-1000はエレキ用のマルチエフェクターとして知られていますが、そのポテンシャルをアコギで活かすことで、より幅広い音楽シーンに対応できる万能な機材であることが実感できます。エレアコのライン録音に不満を感じている方は、ぜひ一度試してみてください。
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