身近になったAIサービスと音作り
AIサービスは私たちの生活にすっかり浸透しました。ChatGPTをはじめとする生成AIは、文章作成や翻訳だけでなく、プログラミングのコード生成、画像や楽曲のアイデア出しなど、幅広い分野で活用されています。
音楽分野でも「歌詞を書かせる」「作曲のヒントをもらう」などの事例が増えており、今後は制作現場においてAIが重要なパートナーになる可能性を秘めています。
そんな中でふと湧いた疑問が、「ギターの音作りをAIに任せたらどうなるのか?」というものです。特にマルチエフェクターの音作りは、初心者にとってハードルが高い作業。AIがガイドしてくれるなら非常に心強いですよね。
そこで今回は、実際にChatGPTに音作りを依頼し、その設定をBOSSのフラッグシップ・マルチエフェクター GT-1000 に落とし込んでみました。
今回目指す音色と使用機材
今回狙うのは、邦楽でも使いやすいコードバッキング向けのクランチサウンド。(参考曲 Vaundy「常熱」)
軽快でありながら芯のあるサウンドを再現できれば成功といえるでしょう。
使用する機材は以下のとおりです。
ChatGPTには次のように質問しました。

最近のChatGPTは以前に比べて質問の仕方がラフでも意図を汲んでくれるようになり、とても便利になったと感じます。
ChatGPTの回答
ChatGPTからの回答は以下の通りです。

まず「アンプの種類」「歪みのかけ方」「ギター本体のピックアップ選択」などが示されました。回答後半では細かいパラメータの数値まで提示されています。
ここから、GT-1000で実際に再現できる範囲で音作りを進めていきます。
アンプの設定と注意点

まずアンプモデルの設定です。GT-1000には数多くのアンプタイプが搭載されており、その一つを選びパラメータを調整していきます。ChatGPTの回答は非常に細かく、「Gain」「Bass」「Middle」「Treble」「Presence」など一般的な項目に加え、「Amp Type」「Sag」といったGT-1000ならではのパラメータにも触れていました。
ただし問題もあります。ChatGPTが提案した「Sag 30〜40」という数値はGT-1000では設定不可能。GT-1000のSagの範囲は -10〜+10 までなので、今回はおおよそ1/10として +3 に設定しました。
スピーカータイプはGT-1000内蔵のキャビシミュレーター「2×12*5(Celestion搭載オープンバック)」を選択。
この状態で試奏してみたところ、ナチュラルでクリーンなサウンドが得られました。参考曲に比べるとまだ物足りないものの、クリーン系としては非常に使いやすく、次の工程に期待が持てる仕上がりです。
エフェクター設定1:Comp & Drive

続いてコンプレッサーとオーバードライブを追加します。
ChatGPTの回答では「Light Comp」というタイプでしたが、GT-1000には存在しないため代替として BOSS COMP を選択しました。オーバードライブは「Blues Driver」指定だったため、GT-1000内の Blues OD を使用。
Tone値についても注意が必要です。ChatGPTは「50」と指定していましたが、GT-1000は -50〜+50 の範囲なので、ここでは中間値の 0 に設定。
この状態でのサウンドは、かなり参考曲に近い歯切れの良いクランチ感を得られました。ただし空間系がまだ入っていないため、音の広がりは不足しています。
エフェクター設定2:Reverb & Delay

次に空間系を追加します。ChatGPTの指定でReverbのHigh Cutが6.0kHzでしたが、GT-1000では6.3kHzにしか設定できないため、近い値を採用しました。その他のパラメータはChatGPTからの指定がなかったのでデフォルト値を使用。
リバーブとディレイを加えたサウンドは、空気感が加わり一気に完成度が増しました。ただし参考曲と比べるとややウェットすぎる印象もあります。とはいえ、ここまでAIの提案だけで十分に使える音が作れたのは大きな発見でした。
最終調整
仕上げに自分なりの調整を加えました。
- ピックアップを フロント → フロント+リア(内側タップ) に切り替え、テレキャスターのハーフトーン的なサウンドを狙う。
- アンプのEQのPresenceとTrebleを少し下げる
- リバーブやディレイのLevelを下げ、ウェット感を抑える。
実際に試してわかったこと
今回の検証で特に感じたのは次の3点です。
- AIの提案は「方向性」を掴むのに非常に有効
ゼロから作るよりも効率的にゴールへ近づける。 - 数値や機能は完全には一致しない
GT-1000特有の仕様や数値範囲に合わせた調整はプレイヤー自身が行う必要がある。 - 最後は人間の耳と感覚が仕上げを決める
AIが提案するのはあくまでたたき台。最終的な「良い音」はプレイヤーの感性次第。
まとめ:AIと人間の役割分担
AIは膨大な知識をもとに理想的なセッティングを提案してくれます。しかし、機材ごとの仕様差や「心地よい」と感じるポイントまでは完全には把握できません。
今回の実験では、ChatGPTが示してくれたベースを出発点にし、自分の耳で調整していくことで実用的な音作りができました。
マルチエフェクターの音作りに悩んでいる方は、まずAIに相談してみると新しい発見が得られるかもしれません。特に初心者にとっては「音作りの道しるべ」として大きな助けになるでしょう。
今回の回答結果の詳細は こちら から。
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