その実力がいかんなく発揮された名盤
永久保存盤ライブアルバム特集は、国内編から舞台を海外に移します。 今回は、アメリカンロックの超名盤である『ホテル・カリフォルニア』が大ヒットし、ロックミュージックにおける1つの頂点を築いたイーグルスのライブ盤です。 ライブツアーにおける機材ケースをアルバムジャケットにあしらった洒落たアートワーク。アメリカンロックの栄華が聴ける、1つのマイルストーン的アルバムがこの『イーグルス・ライブ』なのです。
■ 推薦アルバム:イーグルス『イーグルス・ライブ』(1980年)

イーグルスはアルバム『ホテル・カリフォルニア』の次作『ロング・ラン』をリリースし、間もなく解散する。 『ホテル・カリフォルニア』の想像を超えた大ヒット。しかしメンバー間のいさかいや過大なプレッシャーに押しつぶされ、名曲「ホテル・カリフォルニア」を超える楽曲制作ができなくなってしまったというのが大方の理由のようだ。レコード会社からの催促があったことも想像に難くない。 このライブアルバムは2枚組で、そんな要求からもエスケイプできるだけのボリュームと内容になっている。
ライブ録音された楽曲の大半は、バンドメンバーの確執が酷かった時代に録音されたもの。よくある話だが、メンバーは殆ど顔を合わせないままビル・シムジクによる編集作業によりアルバム制作がなされた。「史上最高に冷え切ったライブアルバム」というのがイーグルスファンの定説だ。 とはいうものの、演奏される楽曲はそれなりにリストアップされ、ベスト盤的要素が強い。演奏のできもすこぶる良い。ただ名曲である「呪われた夜」はアルバムに入れてほしかった! という気持ちは残る。
2枚組制作にあたり、楽曲の不足分を補うため、ギタリストのジョー・ウォルシュのソロアルバムからの楽曲「Life’s Been Good」もトラックに含まれている。私もイーグルスのステージを観ているが、ジョー・ウォルシュの「Life’s Been Good」は日本公演でも演奏されていた。 全体的にはしっかりまとまった演奏で、アメリカンロックを演奏するバンドとしては間違いなく合格点が付けられる内容になっている。
もともとメンバーはそれなりのキャリアを積んでいるし、ウォルシュはバンド、ジェイムス・ギャングのリーダーであり、ギタリストのドン・フェルダーはイーグルス移籍前、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングのリードギタリストとして名を馳せており、音楽監督的なスキルも擁していた。イーグルスはウエストコーストでは腕利きのメンバーが集まっていたのだ。
楽器の演奏的には上手なメンバーであるが、彼らの特筆すべき特徴はコーラスワークにある。アメリカンバンドは大概、コーラスは上手いが、イーグルスのメンバーは全員がリードボーカルをとれる力がある。声の混ざりがよく、コーラスワークは絶品だ。 またボーカリストのグレン・フライ、ジョー・ウォルシュはキーボードも弾けるというスキルの持ち主。イーグルスの楽曲にはアコースティックピアノやフェンダー・ローズピアノ、ハモンドB-3、ストリングスといったキーボードも多く入っている。それをメンバーが全て弾いているというのもこのライブの大きな特徴だ。
推薦曲:「ホテル・カリフォルニア」
スタジオ録音版である「ホテル・カリフォルニアには30ポイント以上の編集点がある」とプロデューサーのビル・シムジクは証言している。それなりの施しがスタジオ録音版の「ホテル・カリフォルニア」にはあるということだ。 とかくライブ盤ではスタジオ録音盤とは違い、スタジオトラックを再現できずに失望してしまうということがかなりの頻度で起こる。 しかしこのライブアルバムのトラックを聴くと、イーグルスというバンドはその類には属さないということが理解できる。一発録音でここまでのクオリティを保てるのは一流バンドの証でもある。
ライブ盤の「ホテル・カリフォルニア」はドン・フェルダーのギブソンSGダブルネックの12弦側でのアルペジオからスタートする。楽曲としてのバッキングはグレン・フライのアコースティックギターによるコードカッティングが大部分をしめる(その他に謎のローディ?がテレキャスターでレゲエビートのカッティングをしている)。 楽曲のアンサンブルはドン・フェルダーとジョー・ウォルシュ2人によるハモリのオブリガートとリフが多くを占めている。 アコギ以外の2人のギタリストはコード弾きをすることは少ない。ここがホテル・カリフォルニアの結構大きなポイントだ。このギターアンサンブルはライブの再現性としてよく考えられていると感心する。 最後のツインリードのソロパートは多少の差はあるが、スタジオ版とほぼ変わることなく再現されている。最後の3連のメロディも若干変更されている程度。ライブではこのツインリードを楽しみにしている観客も多いだろうから、その辺りを演奏者側も理解しているのだろう。
アンプラグドブームの1994年、イーグルスのリユニオン盤『Hell Freezes Over』 で「ホテル・カリフォルニア」が再現されているが、フェルダーとウォルシュのツインリードの部分はオリジナルテイクとは全く異なっている。 コードに沿って単にアドリブしました的な演奏で、最後の3連部分では元に戻るが、オリジナルテイクのフレーズがいかに練られていたかを思い知る結果となった。 ロックミュージックはジャズとは違いソロパートのバランスが難しいのだろう。それはロックという音楽がギターソロを含め「1つのパッケージ」として捉えられているからなのかもしれない。
推薦曲:「I can’t tell you why」
アルバム『ホテル・カリフォルニア』の次作『ロング・ラン』からシングルカットされた楽曲。当時はAOR全盛で、それを受けて制作したことが想像できる。冒頭はギターではなく、フェンダー・ローズエレクトリックピアノからスタートするあたりはAORからの影響大。ローズピアノはグレン・フライが弾いている。5小節目から入るストリングス(KORG PE-2000)はジョー・ウォルシュが弾いていた。 メインボーカリストは、ベーシストのランディ・メイズナーに替わって入ったティモシー・B・シュミットだ。この曲でギターを弾くのはドン・フェルダーのみ、残る2人のギタリストは鍵盤にまわるというバンドとしての懐の深さが伺える。
推薦曲:「New kid in town」
『ホテル・カリフォルニア』からの楽曲。私もバンドでこの曲を演奏したが、「ホテル・カリフォルニア」よりもややこしく、結構面倒な曲という印象が強い。この曲もローズピアノから始まり、サビからはハモンドオルガンも入ってくる。コーラスパートも複雑だ。実際のライブではグレン・フライがローズピアノを弾き、ジョー・ウォルシュがハモンドオルガンを弾いていた。 こういった鍵盤楽器を交え、しかも美しいコーラスを付けられるというのは、マルチプレイヤーが揃っているからこそだろう。 スタジオ録音盤と変わらないハイレベルな演奏が聴けるのは、この手のバンドとしてはかなり珍しいのではないかと思う。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:イーグルス、グレン・フライ、ドン・フェルダー、ジョー・ウォルシュ、ティモシー・B・シュミット、ランディ・メイズナー など
- アルバム: 『イーグルス・ライブ』
- 推薦曲:「ホテル・カリフォルニア」、「I can’t tell you why」、「New kid in town」
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