■ ノーチラスEP-1内蔵のシミュレートエフェクター 最終回
コルグのワークステイション・シンセサイザー、ノーチラスの探求リポート、エレピ遍のパートⅧです。
KORG ( コルグ ) / ノーチラス NAUTILUS-61
前回 まではノーチラスEP-1に付帯しているエフェクト機能である3種類のコーラスをリポートしました。
どれも高品位なエフェクトでおまけ的要素は皆無。ノーチラスのクオリティの高さに驚くばかりでした。
エフェクトの最終回となる今回は、フランジャー、コンプ、ワウワウエフェクトのリポートをします。コンプやワウワウは鍵盤屋の私にとってはいささか門外漢的要素が強いです。その前に私のエフェクトに対する考え方を少々…。
■ 1970年代後半から80年代前半の鍵盤系エフェクト事情
私はギタリストと違い、エフェクターはあまり使わないというのは以前にもこのコラムで書いた通りです。スタジオに入る時に2台の鍵盤楽器とシールド、ボリュームペダルを持っていくだけでも大変なのに、それに加えてエフェクターや関連アクセサリー等を持っていくのは、腰痛持ちで面倒くさがり屋の私にとって苦痛以外の何ものでもありません。
鍵盤楽器は元々の出音が勝負。そのオリジナルな音を大切にしたいというのが私の考え方です。シンセサイザーに至ってはオリジナル音を更にエフェクトで加工するのには抵抗感を持っています。この辺りはギタリストのメンタリティとは少し違うと思います。しかしシンセサイザーのドライな音には唯一、エコーやディレイは必要だと考えています。
学生当時の私のセットは、ハモンドオルガンNewX-5とローランドのモノフォニックシンセサイザーSH-5 、コルグのポリフォニックアンサンブルオーケストラPE-2000(ストリングス)の3台。エフェクトに関してはハモンドにリバーブが付いていたので、それを使っていました。PE-2000はエフェクトなし。SH-5 も大学1年当時はエフェクトなしでした。SH-5のモノフォニックシンセサイザーはコルグやヤマハよりも音が太かったのですが、その音の無骨さには閉口していました。でもいい音が出ました。
そんな中、大学2年生の頃にBOSSのアナログディレイDM-1(BBDタイプ)が発売されました。私はそれを購入し、SH-5に使いました。ディレイをかけるだけでSH-5の音はとても艶やかになりました。
しかしBOSS DM-1は長いディレイタイムの設定できませんでした。BBD素子にそこまでのスペックはなかったのだと思います。長いディレイが欲しければ、テープタイプのエコーマシンを購入する必要がありました。ローランドのスペースエコー、RE-201は当時8万円以上。高価で楽器ならまだしもエフェクトにそこまでお金を使える余裕などありません。そんな時代でした。
ディレイ以外で唯一、SH-5に使っていたのがフランジャーでした。
■ 「ユートピア」サウンドはフランジャー大会
私は学生時代、トッド・ラングレンのバンド「ユートピア」をコピーしていました。中野サンプラザでのコンサートにも出かけました。プログレファンであった私は「ユートピア」のシンセサイザーを多用した音楽スタイルに好感を持っていました。
英国のプログレシブロックとは異なり、あっけらかんとした音楽でそこから聞こえてくるシンセサイザーが何故か自分の感覚にマッチしていたのです。トッド・ラングレンのポップセンスと一風変わった音楽が好きだったことも一因だと思います。
1977年、「ユートピア」は2枚のアルバムをリリースしていますが、この2枚のアルバムにはフランジャーが大きくフィーチャーされていました。『太陽神』『悪魔の惑星』両アルバムのフランジャー感は半端ではありません。『太陽神』のナンバー、「ジェラシー」や「Sunburst Finish」などはキーボードだけではなく、ボーカルやコーラスにも大々的にフランジャーが使われています。その半端ないフランジャー感には驚くばかり。一体どうしてしまったのかと思う程です。学生の時はそれが逆に気持ちが良かったことを記憶しています。
また、この年のアルバムだけではなく、その後のトッド・ラングレンのソロ・ライブアルバム「バック・トゥー・ザ・バーズ」でもフランジャーは多用されています。私が聞いた中野サンプラザのライブも同様でした。
「ユートピア」のキーボーディストはロジャー・パウエル。シンセサイザーにはフランジャーが使われ、ソロは音をベンディングしてギターの様に弾いていました。
私は「ユートピア」の影響を受け、BOSSのフランジャーを購入。SH-5に使い、ロジャー・パウエルに近付くことだけを考えていました。
今ではシンセサイザーやオルガンなどには大概、エフェクトは内蔵されているので購入の必要もありません。
ノーチラスに内蔵されているエフェクトは非常に精度が高いので安心して使うことができます。
今回テストするフランジャーも必要十分な機能を有していました。
■ ノーチラスに内蔵されたフランジャーの検証
ノーチラスに搭載されている音源の呼び出し方は画面1のディスプレイ画面のセットリストからEPと表示されている5のTineタイプ(ローズピアノ音色)EP MarkⅠEarly Ampのエレピ音をタップ。
画面2のクイックアクセス・ボタンのMODEボタン(左上)を押します。階層に入っていくときには、このモードボタンから始まります。

ノーチラスディスプレイTineタイプ音色 選択されているのはEP MarkⅠEarly Amp(画面1)

クイックアクセスボタン MODEボタンは左上(画面2)
モードタイプセレクト画面より、PROGRAMボタンをタップ、エレピ音源画面を出します。

モードセレクト(画面3)
■ Tine EPⅠ Lateタイプ( ローズピアノ音色)内蔵エフェクター・セッティング
1. Tine EPⅠ Late エフェクト系の画面

今回も前回同様、私が所有していたローズMarkⅠの後期タイプのノーチラスにおける内蔵エフェクターの接続法などのセッティング方法です。
2. Tine EPⅠ Lateタイプ、エフェクター入出力端子画面

一番左側はエフェクターをかけるためのINSNRT EFFECT端子。 IN(上側)、OUT(下側)。実際のローズピアノはローズ側のINにエフェクターOUT側からのシールドを入れ、ローズ側のOUT端子から出たシールドをエフェクターのINに入れる。
ノーチラスの内蔵エフェクターを使用する場合はディスプレイのINSNRT EFFECT端子の画面を指でタップすると次の画面が現れる。
3. Insert Effect画面

この画面にある内蔵エフェクトを使用することができる。
Small Phase、Orange Phase、Black Phase、Vintage Chorus、Black Chorus、EP Chorus、Vintage Flanger、Red Comp、Vox Wahの9種類。(画面③)
TineEPⅠLateにかけるコーラス、画面右上Vintage Flangerのキャラクター画面を指でタップし、Vintage Flangerを選択する。
4. 選択されたVintage Flangerエフェクト画面

フランジャーを使う際にはLateタイプよりも新しいタイプのⅤの方が合っていると考え、EP 1 LateタイプからⅤタイプに変更。Lateタイプよりモダンな感じの音になるためだ。このVintage Flangerはどのメーカーのフランジャーをシミュレートしたのかは不明。
Speed、Depth、Resonanceはデフォルト設定。フランジャーの場合、Resonanceのカテゴリーが新たに加わる。この数値を上げることでフランジャーらしさが強調され、ドギツい音になる。下げると面白味がなくなるというセンシティブなカテゴリーだ。
このフランジャーをかけることでローズピアノのハンマーがTineを叩くアタック音が強調される。
ウエットとドライの割合はデフォルトでは53:47。試しに50:50にしてみると余り効果を感じることはなく、中途半端な音になる。デフォルトの設定にはそれなりの理由があるのかもしれない。ウエットの割合をさらに55に上げるといかにもフランジャーらしい音色になるがToo muchと感じる方もいるかもしれない。あとは好みの問題だろう。
フランジャーはフェイザーやコーラスと比較した場合、効果がよりドラスティックになるため、設定するのにセンスが問われることは言うまでもない。
5. Red Compエフェクト画面

Red Compはどのコンプをシミュレートしたのかは不明。
コンプレッサーは音声入力のバラツキをなくし音量を均一化するために使用される。
放送業務では複数のタレントがいる場合、出演するキャスター、リポーター、タレントに仕込む全てのピンマイクにミキサー卓側でコンプレッサーをかける。声の音量を一定に保つことでタレントが大騒ぎをした場合などに音声がクリップしないで済む。
私はコンプをローズピアノに使うという発想が全くなかったため、この検証はためになった。
コンプの効果を感じるためにはSensitivityを50に。プツプツとしたコンプ音になる。Sensitivityを上げていくとやはりToo muchな音になる。Attackを上げると高音域で歪感が強くなる。
ⅤタイプとLateタイプの両方共、コンプを使うことでこんもりとした感じのローズピアノの音になる。
コンプでアタック音の粒立ちが均等になり、鍵盤楽器に使うとアタック音がプツプツと聞こえる面白い効果が得られる。この効果を利用してローズピアノを低域で弾くと低い音がスラップベース的な音になる。この音をベース音として使っても面白いかもしれない。もう誰かがやっているのかも(^^♪
6. Vox Wahエフェクト画面

Vox Wahは文字通り、Voxのワウワウエフェクトをシミュレーションしたもの。シンセサイザーでいうVCF(ボルテージ・コントロール・フィルター)のカット・オフ・フリケンシー部分を抜き出し、周波数を変化させることで音色変化を得るエフェクター。
黒人系のギタリストが好んで使った。とはいえ、白人ミュージシャンもこのワウワウを使わなかった人はいないだろう。とにかく多くのギタリストが使用した。
キーボードにも使ったミュージシャンはいたが、どちらかと言えばビジュアル的にもペダルを踏み込んで音を弾くギタリストの方がマッチしていた。
このエフェクトの場合はほぼデフォオルトの設定。あのワウワウの音がする。
Sensitivityの値を上げるとワウ音が強調されるが、中低域が痩せてしまう印象があった。
私がワウワウを使うシチュエーションはこれまでに殆どなかった。イーブルスの名盤、『ホテル・カリフォルニア』のナンバー、「駆け足の人生」をコピーした際、使用した位。以前所有していたノード・エレクトロ4のエフェクトをオートワウに設定し、パラディドルっぽくローズ音で演奏をしていた。自分自身が所望する音楽とは少し異なる位置にあるエフェクトだ。
この検証でノーチラスにEP-1に付帯したエフェクトパートは終了します。何度か書いていますがこれらのエフェクトには歴史的名機の音を丹念に再現したコルグの音に対する強いこだわりを感じました。デジタル技術のなせる業なのかも知れませんが音的に「品の良さ」というのが一環して貫かれいたテーマなのかも知れません。
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