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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その263 ~残暑に聴いて効く!ラテンジャズミュージックPart3~

2025-10-08

Theme:sound&person, Music in general

グルーブするリズムを支えるブラジリアン・パーカッションの威力

前回に続き、ラテンジャズ特集Part3です。
ラテンジャズ、アフロキューバン・ジャズに欠かせないのがブラジリアン・パーカッションです。その中でも、アフロ由来のサウンドで特に存在感を放つのがコンガやボンゴです。
コンガはラテンジャズ、アフロキューバン・ジャズ、サルサなどには欠かすことができない重要な楽器です。
コンガやボンゴがリズムに加わることで、一気にラテンのムードが醸し出され、眠っていた体内の細胞がうずき出すような感覚になります。とにかく、聴いていると元気が湧いてくる音楽。それがラテンジャズです。

今回は、コンガやボンゴといったパーカッションが大きくフィーチャーされた楽曲や、ドラムが活躍するグルーヴィーな楽曲をご紹介します。

■ 推薦アルバム:ホレス・パーラン 『HEADIN’ SOUTH』(1961年)

アフロキューバン・ジャズのカテゴリーの中でもレジェンドといわれるピアニストがホレス・パーラン。彼は米国ペンシルベニア州生まれのジャズピアニストだ。
ホレスは子供の頃にポリオを患ったため、右手の小指と薬指が思うように動かなかったといわれている。そのハンディキャップが、ファンキーで独創的な演奏スタイルを作り上げたと想像に難くない。ブロックコードで盛り上げていくアドリブスタイルを聴くと、そのようなハンディは微塵も感じられない。一方で、シングルトーンではなくブロックコードという選択は、そのハンディゆえだったのかもしれない。

ホレス・パーランはファンキーでアーシーはあるが、ビ・バップをベースにしたピアニストという印象が強い。1960年初頭はラテンジャズブームが米国全体を席巻しており、レコード会社の要望などからラテンジャズに寄せたアルバムを制作したと考えられる。

アルバムのメンバーはホレス・パーラン(pf)、ジョージ・タッカー(b)、アル・ヘアウッド(dr)のドリオ編成。そこにパーカッショニストのレイ・バレットが参加したことが、大きなキーポイントとなっている。 レイ・バレットはプエルトリコ出身のコンガ奏者で、ファニア・オールスターズの中心メンバーでもあった。彼は演奏家としてだけでなく、自身のソロアルバムをリリースするなど、作曲家としても名を馳せた。クルセダースがプロデュースした彼のソロアルバム「アイ・オブ・ザ・ビホールダー」を聴くと、壮大な構成を持つ組曲的なものもあり、只者ではないことをうかがわせる。

アルバム『ヘッディン・サウス』では、レイ・バレットのコンガがバンドのグルーヴをより鮮やかにし、アフロキューバンなムードを下支えしている。

推薦曲:「Congalegre」

イントロのウッドベースのラインにレイ・バレットのコンガが絡み、ドラマーのアル・ヘアウッドが3-2のクラーベを刻む。そこにファンキーなピアノのメロディが重なると、一気にラテンのグルーヴが炸裂する。
ホレス・パーランのアコースティックピアノによるアドリブは、4ビートに乗って展開されるファンキーで熱いソロだ。ブロックコードを交えた右手のメロディラインもさることながら、強力にグルーヴする左手のコンピング(バッキング)がラテンムードを押し上げている。
4ビートでありながらストレート・アヘッドなバップ・ジャスに陥らないのは、パーランに流れるファンキーな血と、レイ・バレットのコンガに呼応するバンド全体のリズムの捉え方によるものなのだろう。

■ 推薦アルバム:ケニー・ドーハム 『アフロ・キョーバン』(1957年)

ケニー・ドーハムの代表であり、アフロキューバン・ジャズを語る上で欠かすことのできない名盤である。また、本作は彼のブルーノート・レーベルにおけるデビュー盤でもある。4管による分厚いアンサンブルが聴きものだ。メンバーもリズムの中心に御大、アート・ブレイキーを据え、パーシー・ヒース(b)やカルロス・パタート・バルデス(cong)、ハンク・モブレー(t.sax)、ホレス・シルヴァー(pf)といったファーストコールを揃え、熱気溢れるラテンジャズを展開している。

推薦曲:「アフロディジア」

冒頭から渦巻くコンガが印象的な、ラテンテイスト満載の楽曲。この曲は80年代にロンドンのクラブDJによって、ダンスミュージックのキラーチューンとして再発掘されたことでも知られている。ケニー・ドーハムといえば、あの名曲『ブルー・ボッサ』の作曲者だが、その断片をこの楽曲にも聴き取ることができる。
ラテンのリフの間を縫うように泳ぐ、ケニー・ドーハムのトランペット。その音色はどこか物悲しく、哀愁を帯びている。サビからのコード展開を受けて、さらに美しくサウダージを感じさせるメロディラインを味わうことができる。こんなところにラテンジャスの妙味がある。この哀愁こそがドーハムの持ち味であり、『ブルー・ボッサ』にもつながるのだ。

■ 推薦アルバム:チャーリー・ラウズ 『BOSSA NOVA BACCHANAL』(1962年)

1962年にリリースされた、ラテンジャズカテゴリーにおける名盤。
レコーディングメンバーはチャーリー・ラウズ(t.sax)、ケニー・バレル、チャンシー・ロード・ウェストブルック(g)、ラリー・ゲイルズ(b)、ウィリー・ボボ(dr)、カルロス・パタート・ヴァルデス(cog)。当時のファーストコール達による名演を聴くことができる。

推薦曲:「オルフェのサンバ」

オルフェのサンバの作曲者はボサノバ・シンガーである、ルイス・ボンファ。
乾いた音によるケニー・バレルのギターソロが秀逸。メロディアスで、実によく歌っている。その後には、お待ちかねのカルロス・バルデスによるコンガソロが控え、これもまた聴きものである。
『オルフェのサンバ』は多くのミュージシャンにカバーされているが、その理由はラテンジャズにも通じるリラックスしたメロディラインの魅力に他ならないだろう。

■ 推薦アルバム:ホレス・シルヴァー 『Finger Poppin' with the Horace Silver Quintet』(1959年)

ホレス・シルヴァーは1928年9月、米コネチカット州生まれのジャズピアニストであり作曲家。ファンキー・ジャズの元祖として知られる。50年代前半のアート・ブレイキーらとのセッションは、ハード・バップと呼ばれるモダン・ジャズスタイルの萌芽となった。その後、自己のクインテットを結成し、ファンキー・ジャズ路線にシフト。ヒットを連発した。『ソング・フォー・マイ・ファーザー』は彼の代表作であり、屈指の名盤だ。
このアルバムではホレス・シルヴァーの他にブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(t.sax)、ジーン・テイラー(b)、ルイ・ヘイズ(dr)という強力な布陣で、溌剌としたラテンジャズを展開している。

推薦曲:「Swingin’the samba」

ホレス・シルヴァーの代表曲の一つで、ピアノソロが素晴らしい。粒が揃った出音で、安定感がある。溢れ出るラテン風のメロディラインが尽きることがない。この楽曲にはコンガが使われていないが、ドラマーのルイ・ヘイズが叩くフロアタムを交えたタムの使い方は、まるでコンガとドラムがデュエットしているかのような錯覚に陥るほどだ。そのグルーヴ感は恐るべきものである。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ホレス・パーラン、レイ・バレット、ケニー・ドーハム、チャーリー・ラウズ、ケニー・バレル、ホレス・シルヴァーなど
  • アルバム:『HEADIN’ SOUTH』『アフロ・キョーバン』『BOSSA NOVA BACCHANAL』『Finger Poppin' with the Horace Silver Quintet』
  • 推薦曲:「Congalegre」「アフロディジア」「オルフェのサンバ」「Swingin’the samba」

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shinsekenban

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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