今回のテーマはシンセサイザーの名器、アープオデッセイ(ARP Odyssey)です。これまでは名器であるミニ・モーグを使った名手達を紹介してきましたが、今回はもう1つのシンセの名器アープ・オデッセイで括られた国外ミュージシャンと名盤を紹介します。
アープ・オデッセイ資料
■モノフォニック(単音)シンセサイザーの名器といえば、ミニ・モーグとアープ・オデッセイに二分されるといっても過言ではありません。アープ・オデッセイは1972年に発表され、幾度かの改良を重ねながら1981年まで販売されました。アープ社のシンセサイザーとしては最も出荷台数が多く、数多くのミュージシャンに愛されました。
ミニ・モーグの操作パネルが黒で回転式のツマミだったのに対し、アープ・オデッセイは白いパネルに整然とスライダーが並ぶデザイン。無骨なモーグに対し、オデッセイはモダンで洗練された印象のデザインでした。
出音に関しては野太さが売りのモーグに対し、オデッセイはキレのいいシャープなサウンドが特徴でした。
■アープ・オデッセイには3種類のバージョンが存在します。最初のバージョンは白いパネルで音をベンディング(ピッチベンド)する際には、パネル左下の回転式のツマミを左右に回すことで音程の上げ下げをすることができました。機能的にはホイールを上下させるミニ・モーグの方が優れていたため、ベンディングしたピッチが不安定な印象を受けるソロも数多くありました。その後、不安定な回転ツマミ式に替わり、PPCと云われるゴム状の四角いボタンが3つレイアウトされました。左のPPCを指で押さえると音程が下がり、右は音程が上がる仕組みです。真ん中を押さえるとビブラートやトレモロがかかるモジュレーション・ボタンになっています。押さえる強さでベンドやモジュレーションの効果を変えることができました。
■また、オデッセイの3つのバージョンには、其々、異なるVCF(ボルテージ・コントロール・フィルター)が搭載されています。フィルターの特性で音が変わるため、3台の異なるオデッセイを所有しているマニアもいるようです。
先般、コルグやベリンガーからもアープ・オデッセイの復刻版が発売されました。この復刻オデッセイには時期が異なる3種類のVCFが全て搭載され、スイッチ1つで切り換え可能になっています。

アープ・オデッセイ Rev1(初期型)| パネルの左下に付いているツマミがピッチベンド時に使用するもの

アープ・オデッセイ Rev3 | パネル左下にあるのがPPC。長方形の白いゴム製のボタンでピッチベンドとモジュレーションをかける

MiniMoog synthesizer(イメージ)
初期型の白いオデッセイはディープ・パープル(Deep Purple)のジョン・ロードが「紫の炎(Burn)」で使用。国内でも坂本龍一、細野晴臣など愛好家が多い。YMOの楽曲でもシンセベースなどに使われています。白いボディのRev.1、黒いボディに金色のレタリングのRev.2、黒いボディにオレンジと白のレタリングのRev.3があります。それぞれフィルターの特性が異なり、バージョンによる出音の違いから好みが分かれます。
アープ・オデッセイが使われている推薦アルバム
■ 推薦アルバム:『ナイト・バーズ(Night Birds)』シャカタク(Shakatak)(1982年)

推薦曲:「ナイト・バーズ( Night Birds)」
イギリスのジャズフュージョンバンド、シャカタク。82年に生ピアノの印象的なメロディーと女性コーラスをフィーチャーしたオシャレな楽曲で一世を風靡した。シャカタクのリーダーであるビル・シャープはピアニストでアープ・オデッセイの使い手だった。イントロ頭からオデッセイの矩形波(管系の音)にポルタメントをかけた音色を使い、ギター・カッティングの上を泳ぐようなメロディーが聴ける。その後、キャッチーな生ピアノによるテーマ後に印象的なカウンターメロディーをアープ・オデッセイで奏でている。実際はピアノのテーマにも薄くオデッセイの音が被っている。2コーラス目はピアノのテーマに被るオデッセイの音が大き目にミックスされ、この楽曲にバリエーションを持たせている。オデッセイはミニ・モーグのような野太い音ではない一方、品のあるシャープでタイトな音色が印象的。シャカタクのようなスマートなジャズ・フュージョン・サウンドにはミニ・モーグよりもオデッセイのほうがマッチするという好例かもしれません。
■ 推薦アルバム:『万物同サイズの法則(One Size Fits All)』フランク・ザッパ(FRANK ZAPPA & THE MOTHERS OF INVENTION)(1977年)

推薦曲:「インカへの道(Inca Roads)」
冒頭はルース・アンダーウッドのマリンバのテーマリフからスタート。プログレ的(ゴング的?)素敵なイントロ。ここにマリンバの音を持ってくるあたりはザッパの真骨頂だ。そこに効果音としてかぶるのがアープ・オデッセイのホワイトノイズにモジュレーションを施したシンセサイザーの音。UFOが登場する歌詞なので、おそらくオデッセイの音はUFOの飛行音と想像される。その後にジョージ・デュークのとぼけたボーカルが聴ける。ブラックミュージックの御大が若い頃にはザッパの変態音楽を支えていたとは驚きだ!ザッパの音楽は変拍子やキメが数限りなくあり、生半可なミュージシャンでは対応できない。そういう意味で高度なテクニックを持つ、ジョージはザッパの求める音楽を表現できた数少ない若手ミュージシャンだったと云えるのではないか。この曲の後半には強者達によるダイナミックかつ繊細な演奏が聴ける。ジョージのオデッセイによるアドリブも聞ける。モーグの音の太さは反面、粗野な印象を持つこともあり、オデッセイのスマートな音を好むミュージシャンも多かったというのが理解できる。後にジョージは自身のソロアルバムなどでミニ・モーグも使用しており、多様性にあるミュージシャンだけに、あまり、機種にはこだわりがなく、楽曲に合わせて機種を変えていたのではないかと推測できる。
今回取り上げたシンセサイザー、ミュージシャン、推薦アルバム、推薦曲
- 使用楽器:アープ・オデッセイ
- ミュージシャン:ビル・シャープ(Bill Sharpe)/ ジョージ・デューク(George Duke)
- アルバム:「ナイト・バーズ」/ シャカタク、「万物同サイズの法則」/ フランク・ザッパ&マザース
- 推薦曲:ナイト・バーズ / インカへの道