リハーサルスタジオやライブハウスの定番アンプといえば、Marshall JCM2000 が代表的な存在です。
その「定番」ゆえに、どんなジャンルにも対応できる万能アンプというイメージがありますが、実際に音作りに悩んだ経験はありませんか?
筆者が学生だった頃は「JCM2000さえあれば何とかなる」と思っていましたが、最近レッスンをしている中で、このアンプに苦手意識を持つ人が増えてきたように感じます。
そこで今回は、筆者が実践しているJCM2000の音作りのコツや扱い方を紹介していきます。

音作りの基本的な流れ
JCM2000の具体的なセッティングに入る前に、まず筆者の音作りの基本的な流れを紹介します。
最初に行うのは、ボリュームとゲインの設定です。この時、アンプのEQはすべてゼロにします。
一般的にはEQを「12時(フラット)」から調整する方法が主流ですが、筆者は「ゼロ」から始めます。
ボリュームとゲインをある程度決めたら、次はEQを調整していきます。ここでも徐々に上げていくのではなく、一度MAX近くまで大胆に上げてみます。
この操作によって、そのアンプがどの帯域にどんな特性を持っているのかを把握できるからです。
当然、MAXでは出すぎてしまうため、そこから一気にツマミを下げて適正な位置を探っていきます。
ツマミを少しずつ動かさない理由は、耳が徐々に慣れてしまい、変化を感じづらくなるからです。
音作りのポイントとして大切なのは、「足りないところを足す」よりも、他の楽器のためにスペースを空けるという発想です。
この考え方を持つことで、EQや音量を上げすぎなくても、各パートがスッキリとまとまって聴こえるようになります。
Ch1の音作り(クリーン〜クランチ)

JCM2000には2つのチャンネルがあります。Ch1ではクリーン〜クランチまでの音作りが可能です。
さらにCh1内で「Clean」と「Crunch」モードを選べます。
クリーンサウンドを作る際は、Crunchモードを使用するのがおすすめです。
こちらの方が音に太さと張りが出やすく、エフェクターのノリも良くなります。
ゲインはギターやピックアップによって調整が必要ですが、コードを強く弾くとわずかに歪む程度に設定するのがベスト。
そこからさらにゲインを上げてクランチ寄りにし、ギターのボリュームノブやペダルでコントロールするのも効果的です。
また、アンプ側のリバーブを少しだけ加えるのもおすすめ。
クリーンはレンジが広いためバンド内で浮いて聴こえることがありますが、リバーブを少し加えることで全体に馴染みやすくなります。

Ch2の音作り(ドライブ〜リード)

Ch2では、より歪んだサウンドが得られます。こちらも「Lead1」「Lead2」の2モードが搭載されています。
より深く歪むのはLead2ですが、バンドアンサンブル内での音抜けを考えると、Lead1の使用がおすすめです。
JCM2000はゲインを上げすぎると音が潰れがちになるため、深い歪みを求める場合はオーバードライブペダルの併用が効果的。
特にBOSS SD-1やIbanez TS9といった定番ペダルがマッチします。
Ibanez ( アイバニーズ ) / TS9 Tubescreamer チューブスクリーマー
定番の使い方は、ペダル側のゲインをゼロ、レベルを上げてブースト的に使う方法です。
JCM2000のEQの扱い方

JCM2000の音作りで一番の難所とも言えるのがEQ設定です。
このアンプは、耳に痛い帯域やベースと干渉する低域が持ち上がる傾向があり、使用するギターによっては調整がシビアです。
以下に、各EQツマミの特性を簡単にまとめます。
BASS
12インチ×4発の1960Aキャビネットでは、100〜200Hzあたりの低域が出やすいため、BASSを上げすぎるとベースと干渉し、低域が飽和しがちです。
- ハムバッカー搭載ギター:2〜3
- シングルコイル搭載ギター:4〜5
基本的に12時を超えることはほぼありません。
MIDDLE
中域というよりは高域寄りの帯域が持ち上がる印象。耳に刺さりやすい帯域なので、2〜3程度に抑えるのが無難です。
TREBLE
MIDDLEよりもさらに高い帯域に効きます。こちらも上げすぎると耳が痛いため、2〜3程度にとどめましょう。
PRESENCE
超高域を調整するツマミ。3〜4程度までなら比較的安心して上げられますが、こちらもやりすぎ注意です。
ちなみに先日筆者がバンドで使用した時のEQのセッティングはこんな感じでした。

この日はハムバッカー搭載のギターを使用しバッキングパートメインだったのでEQは全体的に下げ気味です。
DEEPスイッチとTONE SHIFTについて
JCM2000には2つの特殊なスイッチが搭載されています。
- DEEPスイッチ:BASSより下の帯域をブースト
- TONE SHIFTスイッチ:中域をスクープし、ドンシャリサウンドに
筆者はこれらのスイッチは基本的に使いません。
DEEPは低域が出すぎてベースと干渉しやすく、TONE SHIFTはアンサンブルで音が埋もれやすくなるためです。
実際、筆者の周囲のプロギタリストでも、これらのスイッチを積極的に使っている人はほとんど見かけません。
とはいえ、状況によっては有効なケースもあります。
- ベースの音が腰高で迫力が足りない → DEEPスイッチでサポート
- ボーカルが埋もれてしまう → TONE SHIFTでギターの中域を引っ込めてスペース確保
このように、バンド全体のバランスを考えて使うことで、音作りの選択肢が広がるかもしれません。
マルチエフェクターのリターン挿しについて

最近では、アンプで音を作るのではなく、マルチエフェクターで完結した音作りを行い、アンプのリターン端子に接続して出力するという方法をとる人も増えています。
JCM2000でもこの「リターン挿し」は可能ですが、注意点があります。
ヘッドフォンで作った音色をそのままリターンに入力すると、耳に刺さる高域やベースと干渉する低域が強調されやすく、扱いにくい音になりがちです。
そのため、スタジオでリターン挿しを行う場合は、実際にリターンに接続した状態から音作りを行うことをおすすめします。家で練習する用のパッチとライブ用のパッチは分けた方が良いです。
また、BOSSのGT-1000やGT-1のように、接続する機器(アンプのリターンやPAなど)に応じて出力特性を切り替えられる機能を備えたマルチエフェクターも存在します。
こういった機能を活用し、使用する環境に合わせた出力設定を行った上で音作りをすることで、マルチエフェクターのポテンシャルを最大限に引き出すことができます。
BOSS ( ボス ) / GT-1000 マルチエフェクター Playtech製エフェクターバッグ付
まとめ
JCM2000は「定番アンプ」と呼ばれながらも、音作りにコツがいるアンプです。
EQのクセやチャンネルの特性を理解し、自分だけでなくバンド全体のサウンドを意識した音作りをすることで、真価を発揮してくれるでしょう。
この記事が、皆さんの音作りのヒントになれば幸いです。
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