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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その261 ~残暑に聴いて効く!ラテン・ジャズミュージック~

2025-09-26

Theme:sound&person, Music in general

ボサノバもいいが…ChillからActive、Hotへ!

「夏はボサノバ」というのは、私の音楽を聴く上でのひとつの傾向です。
どうしてかといえば、押しつけがましくなく、シーンを問わず、空気のように流れる音楽だからです。かといって、簡単で単純な3和音のコードではなく、その裏には複雑なテンションを含んだ音が鳴っています。
サラッとした歌いまわしが、まるでリネンのシャツを着ているかのような気持ちにしてくれる。このテンションコードが「サラサラ感」の正体です。

ボサノバはどちらかといえばゆったりとした2ビートの音楽でグルーブはあるものの、音楽的には「Chill」なカテゴリに区分けされます。
「Chill」は「寒い」「冷たい」などの意味の他に、「ゆったりした」や「リラックスした」という意味合いもあります。最近は「チル・ミュージック」というカテゴリーもあり、一部で人気の音楽でもあります。

今回は、音楽的には親戚のようなカテゴリーに属しますが、もっとアクティブでホットな音楽、「ラテン・ジャズ」のお話です。
ボサノバが「Chill」なら、ラテン・ジャズは「Hot」な音楽。
リラックスはしたいけど、意識はクリアでいたい。そんな時に聴く音楽は、圧倒的に「ラテン・ジャズ」です。

ラテン・ジャズはその名のごとく、南米のキューバやブラジルから渡ってきた移民たちによって作られました。独特なリズムから形成されるサルサやマンボ、ルンバなどをベースにした音楽がラテン・ジャズです。いわゆる4リズムの楽器隊だけでなく、コンガやボンゴ、アゴゴといったパーカッションがふんだんに使われ、ラテンのグルーヴが渦巻く中、軽快なメロディが展開されます。ボサノバやサンバとは音楽として原住所は似たようなところですが、ある種、対局にある音楽がラテン・ジャズなのです。
夏の暑さで身体もだるく、やる気がでない時に聴くなら、絶対にラテン・ジャズをお勧めします。

■ 推薦アルバム:グラント・グリーン/『THE LATIN BIT』(1963年)

ジャズ・ギタリスト、グラント・グリーンが1963年にリリースした、グラント自身初のラテン挑戦アルバム。
彼は米国ミズーリ州出身。ブルージーかつファンキーにグルーヴする彼のギターは、1980年代にレア・グルーブのカテゴリーとして新たなブームを巻き起こした。このアルバムでは、ブルージーな味わいに4ビート的なスイング感を交えた、明るくダンサブルな楽曲が多く収められている。
ラテンのエッセンスをふんだんに盛り込んだ確信的なアルバム。メンバーはテナーサックスのアイク・ケベック、ピアニストはソニー・クラーク、ジョン・エイドリアーノ・エイシア、ベースにウェンデル・マーシャル、ドラマーにウィリー・ボボらを起用し制作された。

推薦曲:「Mambo inn」

グラント・グリーンはバップ系ギタリストではあるが、明快でファンキーさを纏った彼のフレーズは、若干の拙さも相まって非常にキュートに我々の耳に届く。
この楽曲は4ビートというよりも16ビート感が強く、コンガなどラテン・パーカッションがビートの芯を支えるトロピカルなチューン。パッブ特有のダークなトーンはみじんも感じられない。
面白いのはピアニスト、ジョン・エイドリアーノ・エイシアのアコースティックピアノソロ。グラントのギターよりも、むしろこちらのピアノの方がバップ感が強い。
彼のプレイは派手ではないが、ギタリストを含めたバンドアンサンブルをよりグルーヴィーにさせる屋台骨を担っている。
アンサンブルのグルーヴをグイグイと押し上げるラテン・パーカッションのうねりが、沈みがちな気分も持ち上げてくれる。

■ 推薦アルバム:ハンク・モブレー/『Dippin'』(1966年)

1966年にハンク・モブレーがリリースした、ラテン・ジャス色濃厚な傑作アルバム。
モブレーのリーダーシップ、作曲能力がいかんなく発揮され、ソウル・ジャズ、ボサノバ、ハード・バップ、モダン・ジャズなど、当時のトレンドを十分に意識したアルバムとなっている。参加メンバーの熱演が、アルバム全体にちりばめられた一枚。

推薦曲:「リカード・ボサノバ」

こういう言い方はおかしいかもしれないが、この楽曲の白眉はリー・モーガンのトランペットソロ。もう終わりかと思えば、また次へと、様々なフレーズがとめどなく押し寄せてくる。しかもその熱量に圧倒されてしまう。こういうソロを聴くと、身体にエネルギーが充満してくるのが分かる。勿論、ハンク・モブレーのサックスソロも素晴らしいが、リー・モーガンに一歩譲るのは聴いてもらえば分かるはずだ。
アコースティックピアノを演奏するのはハルロド・メイバーン・ジュニア。ホーンプレイヤーのフレーズを受け継ぐ形でのソロ展開など、ハード・バップを背景にした、新たな時代の萌芽を感じさせるプレイが印象的だ。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:グラント・グリーン、ジョン・エイドリアーノ・エイシア、ハンク・モブレー、リー・モーガン、ハルロド・メイバーン・ジュニア
  • アルバム:『THE LATIN BIT』『Dippin’』
  • 推薦曲:「Mambo inn」「リカード・ボサノバ」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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shinsekenban

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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