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1954年製ストラトキャスター誕生秘話Part2

2021-11-18

Theme:sound&person

前回Part1でシンクロナイズド・トレモロ・ユニットについて述べた。今回はPart2として【ボディ】【ピックアップ】について話そう。

【ボディ】

1954年製のストラトキャスター(以下ストラト)のボディ材はテレキャスターと同じく『良質のアッシュ材』が使われている。1956年中期まで使用されているアッシュ材は、アルダー材より加工が容易ではない。仕入れる値段も高い。塗装も手間がかかる。時によりアルダー材より重い。これでは良いところがないと思ってしまいそうだが、、、。

50年代のアッシュ材はまだ大量に消費されておらず、その分、材木を選び抜いていると思われるので比較的軽めだろう。70年代には50年代と違うアッシュ材を使用していたと思われるので4キロを超える個体もあったほどだ。

しかしアッシュ材はアルダー材と比べて、 はっきりとした音の輪郭がある。ザクザクしたリフを弾くにも丁度良く、リバーブをかけるとメロー、水晶の如く透明感あるアルペジオ、右手で奏でる繊細なフレーズも得る事が出来る。ピッキングタッチも追従性が高い傾向があるので熟練者とアマチュアの音の差がはっきりしている。

フェンダー社内では『木目の綺麗さや音色の面で』アッシュ材の方がストラトに向いている、と考えられていた。

私は10年ほど前に『カスタムショップ製NOSのスラブ指板ストラト』を所有していた事がある。ボディ材は勿論アルダー材だった。良く歪んでくれたギターだったが体にどうしても馴染まなかった。したがってカスタムショップ1990年代前半に製造された『カスタム・ショップ製1954年モデル』を手に入れるためにNOSスラブ指板ストラトを手放してしまった。残念な事だったがネックが板目であった事が手放した一番の理由だ。

また以前、カスタム・ショップの貼りメイプル指板のラージヘッドストラトを試奏したことがある。『音は良かったがやはりネックが板目』で裏からネックを見た限り、とても高級なギターとは思えなかった。

さらに上述の『カスタム・ショップ製1954年モデル』も気に入らず手放し、『2002年製のカスタム・ショップの1954年モデル・レリック仕様』を入手して現在に至る。

レオ・フェンダーは一般に容易く調達出来る木材を選んだ。綺麗なメイプル材の虎目模様などを使わず、コストパフォーマンスが高い普通の安定供給できる材木を選んだ。そして、できるだけ多くのプレイヤーに量産型ストラトを使って欲しかったのだ。そのため、自らの研究室にコメントをしてくれそうなギタリストを招き、意見を聞き、改良していくのだった。たまに「そのギター貸してあげるよ。いつ返してとは言わないからね。」と豪語したらしい。

もし、現代において高級材で社内の職人がカスタムギターやone off物の逸品を作ろうと思ったら出来ない訳がない。その様なギターは米国NAMMショーや特別なオーダーに作られる物に限る。50年代60年代のフェンダー社は普通に伐採出来る材木さえ手に入れば良しとしたのだ。まだ木材の希少性があまりなかった頃の話だ。ちなみに、現代ではフレイムメイプルやバーズアイ・メイプルなどは希少性があり、値段も高く取り引きされているが、昔は木の病気だと言われ、捨てられていた、、、。

【ピックアップ】

ギターの心臓部ピックアップ。エレキといわれる所以のパーツ。ストラトのボディに付いている3個のマイク。アルニコ(アルミニウム・ニッケル・コバルトの合金)『2』や『5』が主にストラトに使用されているが、『54年製だけアルニコが3である。』3はストラトが作られた54年製~82年製までのマグネットの中で、『最も弱い磁力だ。』またテレキャスターにも1951年初期から1955年初期までのリアピックアップにアルニコ3が主に使われている。ということで

1954年製ストラトキャスターはテレキャスターのアップグレードバージョンだと仮定する。

なぜなら54年製アッシュ材ボディ、メイプルワンピースネック、リアピックアップ がアルニコ3・・・トレモロユニットを除いて、ほとんど初期1954年製ストラトキャスターとテレキャスターは似た仕様だ。

だがアルニコ3のピックアップを安価なギターにマウントすれば1954年ストラトの音に近くなる、というのは間違いだ。例えてみよう。『有名歌手』がストラト本体としたら、『マイク』はピックアップだ。つまりマイクが廉価だとしても、歌手の声は紛れもなくプロだ。しかし歌手が素人なら、どれほど優れたマイクを使っても、有名歌手ほどの美声は出ない。

したがって木材が良くないと、ピックアップ等を交換しても良い結果は出ないのだ。昔、国産のレス・ポールタイプにオールドPAFをマウントしても全く鳴らなかったが、逆に国産PUをギブソン・レス・ポールタイプに搭載したらパワーが上がって驚いた事があったと言われた。

また何故3個のピックアップにしたか?レオは『2つのピックアップが主流なら3個にしよう』という、単純明快な決定だった。 興味深い事に『ギブソンのES-5。これは1949年に発表されたモデルであるが、3個のピックアップに3個のボリューム』があったのでレオの電装系の仕様とは違ったと言える。ちなみにレオ達は4個のピックアップをマウントしたギターを真剣に試作しているが、成功には至らなかった。

【その他ボディに関して】

リアピックアップはどうして斜めにしているか?この理由は、ブリッジ近くでピッキングした時、煌びやかなトーンを求める反面、低域が失われるからだ。そのような事で僅かながら、タフさと力強さを得られる様に設計したのだ。音の改善はもとよりデザインもシャープでバランスが優れていると思われる。

最後になったが、『ストラトの形状』。これは紛れもなく、プレシジョン・ベースのホーンを基にしている。『バランス』を保ちながら上に伸ばした結果、左右の高さを微妙に変えた美しいシェイプとなった

また、向かって右側のラインはデザインだけではなく、ハイフレットの弾き心地にも良い結果となっている。

(ボディ画像。 カスタムショップレリック1954年モデル。フェンダージャパンの80年代リッチーブラックモアモデル。ジャパンの方が『左右の角の面積が少し違う』)

(全体撮影。左角の大きさが明らかに違う。)

次回はPart3にて1954年製、その他の特徴を述べよう。


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Realize

リッチーブラックモアのアルバム『Diffcult to Cure』の『第9』アレンジを聴いてファンになり、『Spotlight Kid』を聴いてストラトキャスターに目覚める。以後様々なストラトを手にし、20年以上ストラトオンリーで毎月ライブ活動を行っている。
ストラトに対するこだわりは強く、『ギターマガジン』、米国誌『VINTAGE GUITAR MAGAZINE』に所有ストラトが掲載されたことがある。翻訳書として、2002年Fender Accessories Catalogue等に掲載されている『The Fender Stratocaster』第4版がある。
ストラトへの改良は外見からみたら何処を変えたかわからないのがポリシーである。

 
 
 

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