現在では、日本の伝統楽器として知られている尺八。
私自身、尺八を吹き始めた頃は、「尺八は昔から日本にある楽器」というくらいの認識でした。尺八という名前や竹でできた独特の姿から、ずっと日本で生まれた楽器だと思っていたのです。ところが、あらためて歴史を調べてみると、尺八には、私が思っていた以上に長く、そして意外な歴史がありました。
尺八の歴史をたどっていくと、奈良時代に伝わった古代尺八は、そのまま現在まで受け継がれたわけではなく、一度歴史の表舞台から姿を消していたことが分かります。その後、時代を経て現在の尺八につながる形へと発展し、江戸時代には虚無僧や普化宗との深い関わりを持つようになります。つまり尺八は、「昔からずっと同じ形で続いてきた楽器」というわけではありません。時代の変化の中で形を変えながら、現在の尺八へとつながってきた楽器なのです。今回は、そんな尺八の歴史を、時代ごとにできるだけわかりやすくご紹介します。

■ 尺八の歴史 年表
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 7~8世紀 | 中国・唐で尺八の祖先となる縦笛が演奏される |
| 710~794年 | 奈良時代、遣唐使によって日本へ伝来 |
| 756年頃 | 正倉院に古代尺八が納められる |
| 794~1185年 | 平安時代、雅楽から姿を消す |
| 16~17世紀 | 現在の尺八の原型が広まる |
| 江戸時代 | 虚無僧・普化宗の法器として発展 |
| 明治以降 | 一般の楽器として広く演奏される |
1. 尺八のルーツは中国にあった
現在では日本の伝統楽器として知られている尺八ですが、そのルーツは中国・唐の時代(7~8世紀頃)にあると考えられています。東京国立博物館(文化遺産オンライン)や国立劇場の資料によると、当時の中国では縦笛が広く演奏され、日本には奈良時代(710~794年)に遣唐使などを通じて伝わりました。
当時の日本は中国から政治制度や仏教、建築、書など多くの文化を取り入れていた時代です。音楽も例外ではなく、尺八もその一つでした。つまり、現在では和楽器として親しまれている尺八も、もともとは海を渡ってきた楽器だったのです。
「尺八」という名前は、標準的な長さである一尺八寸(約54.5cm)に由来します。私が普段よく使用しているのも、標準的な一尺八寸管です。ただ、尺八には一尺六寸管や二尺管などさまざまな長さがあり、長さによって音域も変わります。尺八を始めたばかりの頃は、「一尺八寸ではないのに、これも尺八と呼ぶの?」と少し不思議に思ったものです。

2. 奈良時代、雅楽の楽器として伝来
遣唐使は630年から894年まで約260年間にわたり中国・唐へ派遣されました。その役割は外交だけではなく、最新の文化や技術を日本へ持ち帰ることでもありました。尺八もその中の一つで、笙、篳篥、龍笛などとともに雅楽で演奏される楽器として用いられていたとされています。当時の宮廷では海外から伝わった音楽は最先端の文化であり、尺八も貴族たちの前で演奏されていました。
現在の尺八は指孔が5つですが、この頃の尺八は6つの指孔を持つ「古代尺八」です。見た目も吹口も現在とは異なり、演奏方法も違っていたと考えられています。

3. 正倉院に残る約1300年前の尺八
宮内庁が管理する正倉院には、奈良時代の古代尺八が現在も8本保存されています。約1300年前の楽器が良好な状態で残されていることは世界的にも貴重です。
正倉院の尺八は竹だけではなく、玉や象牙などで美しく装飾されたものもあり、当時の工芸技術の高さもうかがえます。歴史の教科書で正倉院という名前を見たことがある方も多いと思いますが、その中に尺八が収められていることは意外と知られていません。
実際に資料を見ると、現在の尺八とはかなり印象が異なります。同じ名前でも、現代の尺八とは別の楽器として考えた方が分かりやすいかもしれません。
私も普段尺八を吹いていますが、最初に古代尺八の写真を見たときは、指孔が6つあることに「へぇ、今の尺八とは違うんだ」と興味をひかれました。現在一般的に使われている尺八は5孔なので、同じ「尺八」という名前でも、時代によって姿が大きく異なることが印象に残っています。

4. 平安時代になると姿を消す
奈良時代に雅楽で活躍した古代尺八ですが、平安時代(794~1185年)になると次第に使われなくなります。理由については諸説ありますが、雅楽の編成が整理される中で尺八は姿を消し、演奏は途絶えたと考えられています。
「奈良時代から現在まで同じ尺八が続いてきた」と思われがちですが、実際には一度歴史の表舞台から姿を消しているのです。ここが尺八の歴史の面白いところでもあります。
一度姿を消した尺八は、このあとどのようにして現在の尺八へとつながっていったのでしょうか。次回は、一節切の登場から、虚無僧・普化宗、そして江戸時代の尺八へと続く歴史をご紹介します。

最後に、こちらは私が実際に所有している尺八です。竹の色や節の形、根の部分など、同じ尺八でも一本一本表情が異なります。歴史を調べてみると、約1300年前の古代尺八から現在の尺八まで、その姿を変えながら受け継がれてきたことが分かります。普段何気なく手にしている尺八も、こうして歴史を知ったあとに見ると、少し違って見えてくるのではないでしょうか。
■ 参考にした主な資料
- 文化庁ホームページ
- 宮内庁「正倉院」ホームページ
- 文化遺産オンライン(文化庁)
- 東京国立博物館(文化遺産オンライン)
- 国立劇場(日本芸術文化振興会)
- 楽器の事典 尺八(東京音楽社)
- 尺八オデッセイ(河出書房新社)






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