日本の至宝ギタリストが残した名ライブの数々
今回の永久保存盤ライブのパート3は、渡辺香津美さん(以下敬称略)のライブ盤の紹介です。渡辺香津美のライブアルバムといえば、1979年にリリースされた超名盤『KYLYN LIVE』を避けて通ることはできません。このライブアルバムも鍵盤狂漂流記で紹介したことがあるので、今回は少しだけ触れることにします。
今回紹介するライブアルバムは、この『KYLYN LIVE』とは兄弟のような関係にあるアルバムです。
1970年代の終盤は、坂本龍一と渡辺香津美が六本木のピットイン(山下達郎の『イッツ・ア・ポッピン・タイム』がライブレコーディングされたライブハウス)で、新たな音楽を模索していた時期です。そこに集まったメンバーは、矢野顕子、高橋幸宏、村上ポンタ秀一、本多俊之、向井滋春、小原礼といった、後に日本のミュージックシーンをしょって立つことになるミュージシャン達でした。セッションに参加したメンバーは、新たな音楽への希求に溢れていました。
そしてその熱が、素晴らしいアルバムを誕生させたのです。
■ 推薦アルバム:渡辺香津美『KYLYN LIVE』(1979年)

『イッツ・ア・ポッピン・タイム』がレコーディングされた1年後、また同じライブハウスから誕生した名盤。
このアルバムの前にスタジオ録音盤があり、KYLYNが残したアルバムは2枚のみ。ファーストアルバムからの楽曲や新曲のほか、マイルス・デイヴィスの『マイルストーン』、矢野顕子の『在広東少年』、ジノ・ヴァネリの楽曲なども取り上げ、バラエティ豊かな内容となっている。
このアルバムの素晴らしいところは、まだ20代だった優れたミュージシャン達の、新たな音楽を生み出そうとする想いの強さが一つのベクトルの束となり、我々に向かってくるところだ。 楽曲『インナー・ウインド』では、坂本龍一のアープ・オデッセイによるシンセサイザーソロ(VCFモジュレーションを強めに設定したハードシンク的な音色)や、それを受けての小原礼のベースソロなど、聴き所満載のライブとなっている。 ミュージシャン達の熱量が余すことなくパッケージされた、日本フュージョン史に残る名盤だ。
■ 推薦アルバム:本多俊之 BW4 meets 渡辺香津美『Best Answer Live at Shinjuku PIT INN』(2017年)

今回の主役はこちら、『KYLYN LIVE』とは兄弟関係にあるともいえる、このライブ盤『Best Answer Live at Shinjuku PIT INN』。
六本木のピットインではなく、新宿のピットインでライブレコーディングされた名盤。2017年8月9日から12日に新宿のライブハウス、ピットインで行われた、本多俊之の還暦を祝うライブセッションがレコーディングされた。呼ばれたのは当代きってのギタリスト、渡辺香津美(g)。本多俊之とのセッションとあれば、あのKYLYN BANDを想起しない音楽ファンはいないだろう。否が応でも「あの音」への期待は高まる。 そして、その期待が裏切られることはなかった。
KYLYN BANDとの共通メンバーは本多俊之と渡辺香津美。それに加えて、野力奏一のキーボード、奥平真吾のドラム、川村竜のベースといった、これまた強力な布陣だ。悪いわけがない。どっしりと重心の低い川村竜のベース、切れのよいシンバル・ワークで軽やかにスイングする天才ドラマーといわれた奥平真吾。この2人が描き出すリズムは、KYLYNとはまた違った趣を持つ。そこに野力のキーボードが加わればもう完璧だ。 主役である本多俊之のサックスと渡辺香津美のギターという、二人の異次元の音が融合する。
推薦曲:「ユニコーン」
渡辺香津美(g)が、ベーシストのジャコ・パストリアスが加入したウェザー・リポートをイメージして制作したオリジナル楽曲。ユニコーンとは、空を飛び回る馬の姿をした伝説の生き物、一角獣のことだ。 浮遊感漂うムードの中、ハイハットがリズムを刻み始め、曲がスタートする。このユニゾンからテーマに移行する展開が見事だ。ギターとベースのユニゾンで作り出すグルーヴは渡辺香津美の独壇場であり、滑らかでスムーズ、しかもキャッチーという唯一無二の楽曲が展開される。キーボーディストの野力奏一はシンセサイザーも巧みなプレイヤーだが、このセッションではエレクトリックピアノ系の音色に主軸を置いたプレイに徹し、バンドのグルーヴ感を醸成している。この楽曲は、渡辺香津美が「TOCHIKA 2010」として30年ぶりのリユニオンを果たし、それが某国営放送で番組化された際にも演奏されていた。
マーカス・ミラー(b)、ウォーレン・バーンハート(p)、オマー・ハキム(ds)、マイク・マイニエリ(vib)といった面々との演奏を聴き比べるのも一興だろう。
推薦曲:「ブラックストーン」
渡辺香津美のアルバム『ロンサム・キャット』や『KYLYN LIVE』にも収録された、お馴染みの楽曲。
この楽曲での聴き所は、渡辺香津美と本多俊之によるスピード感あふれるアドリブの応酬だ。二人の対話が延々と繰り広げられる。渡辺香津美の変幻自在のフレーズに本多俊之がソプラノサックスで絡む様(さま)は、KYLYN BANDの幻影を見るかのようだ。
ラストの奥平真吾による、エルヴィン・ジョーンズを彷彿とさせるドラム・ソロは圧巻。(テーマの途中で本多俊之に「ホヘッ」というミストーンが出るのはご愛嬌(^^♪
推薦曲:「キャプテン・セニョール・マウス」
ご存知、チック・コリア(p)の楽曲のカバー。チック・コリアとゲイリー・バートン(vib)のデュオ・アルバム『クリスタル・サイレンス』の冒頭を飾った名曲として知られる。特に1979年のチューリッヒでのライブ盤における演奏の美しさは特筆に値する。スタジオ盤にさらに磨きをかけた二人のインプロヴィゼーションは、数あるデュオ・アルバムの中でもトップクラスに位置づけられるだろう。
ピットインでのライブは、そんな名曲をどう料理するのかが問われるところだ。 結果として、そんな懸念は杞憂に終わる。本多のサックスと渡辺のギターの存在感が際立ち、それを支えるメンバー達、というバンドの構図が見えてくる。楽曲途中で聴ける野力奏一のエレピソロも、堅実かつクールで、とてもジャジーだ。 難しいキメ(決めフレーズ)も多い中、一糸乱れぬアンサンブルで演奏しきってしまうこのユニットの技術力の高さには、舌を巻くしかない。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:渡辺香津美、本多俊之、野力奏一、奥平真吾、川村竜など
- アルバム:『KYLYN LIVE』『Best Answer Live at Shinjuku PIT INN』
- 推薦曲:「ユニコーン」「ブラックウォーター」「キャプテン・セニョール・マウス」
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