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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その262 ~残暑に聴いて効く!ラテンジャズミュージックPart2~

2025-09-29

Theme:sound&person, Music in general

リラクシンとエネルギッシュの同居。ホットなラテンジャズ!

前回 に続き、ラテンジャズ特集Part2です。
ラテンジャズはアフロキューバン・ミュージックともよばれます。その大元はキューバ音楽であり、そこにブラジルやアフリカ音楽のリズムが混じり合い、ハードバップ系のジャズが彩りを添えています。とくにニューヨークのビバップやハードバップといったジャズとの融合が大きな意味を持っています。

チャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィスといったジャズの巨匠たちが築いた洗練されたジャズに、キューバやブラジルなどの音楽が出会うことで、これまでにないラテンジャズというカテゴリーが生まれました。

ビバップやハードバップジャズは、コード進行からアドリブを展開する際のスケール(音階)が限定されていました。この制約は、音楽の可能性を限定的にした一方で、より洗練させたという功罪両面があるといわれています。コードやハーモニーに対して選択する音を模索することで、音楽が洗練されたことは間違いありません。極端にいえば、それがなければ「ジャズとはいえない」とさえいえるでしょう。その背景にあったのが、黒人音楽家たちのインテリジェンスでした。そこへキューバなどの音楽が融合することで、独特の新しいジャズが誕生しました。歴史的にも大きなエポックであったと私は考えています。

その特徴はリズムにあります。サルサなどにも用いられる「クラーベ」というリズムが、ラテンジャズには欠かせません。それを後押しするのが、コンガやボンゴ、ティンバレスといった打楽器です。そこにジャズの複雑なテンションコードや、その上で繰り広げられる即興ソロが加わることで、ラテンジャズという音楽が出来上がります。その雰囲気はダンサブルで、限りなくエネルギッシュ。情熱的で心弾む音楽です。お祭りのように陽気な側面が大きく、大勢で盛り上がるにはもってこいのジャンルといえます。

一方、メロディラインにはブラジル由来の「サウダージ」という、ある種の郷愁が加わり、私たち日本人にも親しみやすい音楽になっています。

■ 推薦アルバム:デジー・ガレスビー / チャーリー・パーカー 『Town Hall, New York City, June 22, 1945』(1945年)

アフロキューバンジャズの標榜者、ディジー・ガレスピーの名盤。ガレスピーの名曲であり、アフロキューバンジャズのスタンダードでもある『チュニジアの夜』がクレジットされている。この演奏にはアフロキューバンの萌芽こそあるものの、まだそのカテゴリーが確立するには至っていない。このライブアルバムを聴くと、ガレスピーが当時いかに乗りに乗っていたかが手に取るように分かる。彼のアフリカの血がそこに息づいていたのかもしれない。

メンバーはデジー・ガレスビー(tp)、チャーリー・パーカー(as)、アル・ヘイグ(pf)カーリー・ラッセル(b)、マックス・ローチ(dr)など。

アルトサックス奏者、チャーリー・パーカーの流麗なアドリブは見事であり、とにかく豪華なメンバーが揃っている。そして、ガレスピーの音が若い。強力なアドリブに加え、ドラマーのマックス・ローチとのコールアンドレスポンスなど、ジャズファンにとっては聴き応え満載のアルバムだ。ピアニスト、アル・ヘイグのバップメソッドに則った軽快なアドリブソロもまた特筆に値する。

推薦曲:「チュニジアの夜」 デジー・ガレスビー

ディジー・ガレスピーの代表曲であり、永遠のジャズスタンダード・ナンバー。
クラーベ的なリズムと4ビートが楽曲中で交互に入れ替わるリズム演出になっている。異国情緒あふれる独創的なテーマと、サビにおける決めフレーズが印象的である。

特に、ディジーが作り出したBメロの美しいメロディラインはコード進行と見事に調和し、聴く者にある種のサウダージ感を呼び起こさせる。また、アドリブソロの冒頭ではバックの音は無くなり、ソロを取るミュージシャンはブレイク状態で演奏する。こうした手法も当時は斬新だったのであろう。このブレイク部分が、アドリブパートをより一層鮮やかなものにしている。

多くのジャズミュージシャンがカバーしていることからも、この曲が持つ求心力の高さがうかがえる。オープニングやアンコールなど、ライブのクライマックスで好んで取り上げられることも多い。

このアルバムにおける「チュニジアの夜」は、オリジナルとは若干異なる。ピアニストのアル・ヘイグがソロの終盤にAメロのフェイクフレーズを入れ、それを受けたホーン隊が冒頭イントロのフェイクリフを挿入、直後にブレイクを挟んでアドリブに入るという粋な演出が施されている。この遊び心には、思わずニヤリとさせられる。

■ 推薦アルバム:ルー・ドナルドソン 『グレイヴィー・トレイン』(1961年)

ルー・ドナルドソンは米国生まれのジャズ・サックス奏者であり、アート・ブレイキーのバンドなどで活躍した。アメリカのジャズ界における最高栄誉「NEAジャズ・マスター」も受賞している。

本作は、全編を通してある種のリラックス感をまとったトラックが多い。メンバーはルー・ドナルドソン(as)、ハーマン・フォスター(p)、ベン・タッカー(b)、デイブ・ベイリー(ds)、そしてアレック・ドーシー(conga)。このアルバムを特徴づけるリラックス感や浮遊感は、パーカッショニスト、アレック・ドーシーが刻むコンガのグルーヴにほかならない。ドーシーが本作にもたらした功績は、ラテンジャズというカテゴリーに熱さやグルーヴだけでなく、「リラックス」という新たな要素を加えた点にあるだろう。

推薦曲:「South of the border」 ルー・ドナルドソン

ラテンジャズは「グルーヴと熱さ」である、といった認識に一石を投じた楽曲だ。単に熱くグルーヴが渦巻くだけの南国音楽ではなく、そこには湿度の低い涼やかな風を感じさせるメロディが存在する。このリラックスしたメロディラインこそが、この楽曲の生命線である。ハーマン・フォスター(p)による軽やかなバッキングにパーカッションが加わることで、この楽曲ならではの、ラテンジャズの得も言えぬ旨味が滲み出てくる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、アル・ヘイグ、ルー・ドナルドソン、ハーマン・フォスター、アレック・ドーシーなど
  • アルバム:『Town Hall, New York City, June 22, 1945』『グレイヴィー・トレイン』
  • 推薦曲:「チュニジアの夜」「South of the border」

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shinsekenban

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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