【オーストラリア製へのこだわり】
90年代に入りアジアへ生産を委託する会社が後をたたない中、Freedman氏は、あくまでオーストラリア生産という手法を貫いてきました。また、Freedman氏は多くの会計士から、「中国で商品を作れば豊富で安価な労働力もあり、コストも安くできる。」とアドバイスされていました。実際、現在も中国のメーカーとはとても良い関係にあります。「しかし僕は、彼ら(中国の人々)はきっと、将来的に自分たちで会社を作って独立したくなるのでは、と思えてならなかった」と、Electronics News誌に語りました。
そして16年前、Freedman氏は、会社の繁栄の為には製造機器に投資しなければならないと考え、少しずつ規模を拡張しながら、最終的には既存の敷地内でほとんどの生産ができるまでになったのです。Freedman氏によれば、安価な製品でも、高級品でも、マイクの基本的構成は変わらないとのことです。
「ここで電子機器を作ることに、何ら問題は感じていません。僕たちはイギリスからも、ドイツ、フランス、中国からも、他国が購入するのと同じ価格でパーツを購入している。」そして「むしろ、オーストラリアで会社を築くことにおける大きなチャレンジは、能率の良いシステムを浸透させること、人材を育成すること、ブランド名を世に知らしめることにある」と彼は言っています。
「オーストラリアの会社は、ブランドを築くことと流通経路を構築することを模索し始めるべきだ。我々の成功の秘訣は、その流通経路(パイプライン)を得たことにある。」
「もし僕たちが新しいマイクを作る事になれば、ただちに世界中の3000もの販売店に送ることができる。もちろん難しい事だけれど、そうすることで、新しい商品は生み出せる。そして初めの出荷でまず1万個は売る自信がある」
しかしそんな彼らも、ブランドと流通経路を確立させるだけでなく、会社としての体制が実際に機能してくるまでには10年以上の時間がかかりました。
「機械の使い方を学び、働き手を得て、現在の高性能な機械を購入するまでには15年かかり、やっと今の状況がある。」
「多くの人から人件費について聞かれるが、僕にとってはどうでもいいこと。僕には労働力に関係なく稼働するこのマシンがある」とFreedman氏は語り続けます。
しかし、マシンだけではない。優秀な人材の育成、人とマシンが一緒にあって、初めて良いマイクが生まれる。
「そこがオーストラリア製造の秘密なんだ。高精度なマシンと、優秀な人材が不可欠。」
「人々の中には、お金を投資するだけで生産はうまくいくと考えている人がいる。それは違う。人が育ち、本当に理解するようになるまでには、かなりの年月を要する。ここにいる人々のほとんどが、10年は働いている人ばかりだよ。」
18ヶ月前、生産能力をアップさせる必要性に気付き、今までのSMTラインにYamahaの新しいシステムを導入しました。今までのマシンに比べ10倍速くなり、生産効率が飛躍的に向上したのです。施設内の部屋の端から端まで続くこの高性能なSMTラインには、何百というパネルを乗せられる為、実際に人の手は必要としません。基板上にシルクスクリーンを貼るような作業さえも可能なのです。また、Yamahaのマシンには、温度調整、湿度調整といった品質を確保する機能も備わっています。
「たった1人のエンジニアにより、必要数のボードをいくらでも生産することができるという訳だ」
「今は1シフト制だが、3シフト制となっても問題なく稼働できる。生産量は関係ない、どんな膨大な数量でもこなせる」
Freedman曰く、"オートメーション化"により、あらゆるケースにおいて中国の製造業界を凌駕することが出来るとのことです。
「それ以外の大手企業においても、例えばApple製品を中国で作っているFoxconn。彼らでさえ僕たちのようにスムーズにはいかないよ。僕たちの何倍も人が動いてやっていると思うよ」、ともFreedman氏は語りました。自社で製造をまかなう力を持つことによって、パーツにかかる費用のコスト制限を回避する事ができるからです。例えば、RODEでは、自分たちで真空管マイクに使うトランスも製造しているのです。
「良いオーディオトランスの秘密は、そのラミネート加工にあって、非常に値段が高いんだ。」
「その中でも古いトランスの測定周波数レスポンスは5Hz~200KHzと、とにかく素晴らしい」、とFreedman氏は説明しています。しかし、このようなトランスは、限られたメーカーによって、限られた数しか作られていません。その上、1つあたり約400ドルもするのです。コストに気を使うマイク製造メーカーにとっては、明らかに維持できない条件だったのです。
「欲しいものがあれば、自分たちで作らなければだめだ。だから僕たちはまず、最高のクオリティーのスイス製オートワインダーを購入。続いてラミネートの材料を入手(僕たちが求める特徴を持ったラミネートのみを選別)、そして真空含浸装置と、優れた性能のトランスを作るのに必要な材料は、"すべて"自分たちで調達するようにした」。Freedman氏は、完成したトランスを手に、そう語ったのです。トランスの原材料費は、―締めて15ドル。商品そのものを買えば400ドルなのです。
Precision and speed (精度とスピード)
オートメーション化と高度な生産技術により、RODE社の工場で製造されるマイクの品質は常に安定しています。一定の湿度に保たれ、トラブルの起こりにくい環境において、全てのパーツが生産されているだけでなく、マイクのマスターパネルに関しては、特別に設けられた部屋で厳しい診断チェックが行なわれているためです。。また、真空管マイクにおいても、テスト用に設けた専用の棚上で、24時間の浸漬試験が行われています。
マイクの型作りに関しても、実はこの"オートメーション化"がキーポイントとなります。大型の自動生産ラインにより、大量生産を実現しました。
「僕たちは真鍮の長いバーをラインに並べるだけ。後は何もせず帰宅し、次の日出社すれば自動で完成している。年中無休でマシンがパーツをどんどん生産してくれる」
「人々は口々に"人件費は?"と聞く。このマシンの設置とプログラミングに60万ドル払った。人件費を気にすることはない。今、現在も、そしてこれからもね。」とFreedman氏は語ります。
例えるなら、RODEの生産施設はまるでWilly Wonkaのチョコレート工場です。ドイツ製の化学的機械加工装置、放電加工装置、精密研削等の機器により、半日でアルミニウムのブロックからシャーシーを作ることができるのです。そして製造の精度をより確実なものにするため、測定専用の部屋を設けています。その部屋では表面の平坦さを10nmまで測定でき、レーザーのインターフェロメーターを用いて、可動部も正確に測定することができます。こうして"自分たちの敷地内"で作業を行える環境が次々に整えられていく過程を、Freedman氏は楽しんでいるようです。というのも、RODEのような会社にとって、中国へのアウトソーシングにかかるコストとは、それにかかる"時間"を意味しているからです。"時間"とは結局のところ"お金"です。
「もし僕が今、中国へオーダーを入れたら、その部品の入手までに30日、生産に30日、そして出荷までに30日かかるだろう。自分たちの工場ならば、部品は次の週までには調達できる。生産、出荷もすぐにできる。」
「それにはどんな価値があるかって?それは市場に対する"スピード"なんだ。僕たちの仕事はとにかく早い。3~4ヶ月前から計画を立てて作業を行うなんてありえない。世界は常に変化し続けている。失敗するときもあるし、商品が届いてから間違いに気付く場合もある。ただ、そこにスピードを持たせなければならない。」とFreedman氏は述べています。
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