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蠱惑の楽器たち 119.倍音 メジャーコードとマイナーコード

2025-08-15

Theme:sound&person, Music in general

メジャーコードは明るく、マイナーコードは悲しい響き?

一般的にメジャーコードは明るい響きとされ、マイナーコードは悲しい響きとされています。 確かに楽曲では、そのように扱われることが多いと思いますが、必ずしもそう聞こえるとは限りません。 では、なぜ、そのように聞こえるのか、そもそも感情的な響きなのか疑問に思っている人もいると思います。 ここでは倍音から、その答えを求めてみようと思います。

メジャーコード

まずメジャーコードの要はルートに対して長3度の音です。 3和音の場合、5度の音も加わりますが、5度はルートの補強的な意味合いが強いため、無くてもメジャーの雰囲気は十分伝わってきます。 ここではルートと長3度の響きを考えます。 長3度は、一般的には明るいカラーを決定づける音とされています。 音律によりますが、純正律の場合、長3度は、ルートの倍音にぴったりと重なってしまいます。 3倍音の位置で鳴らしたときは33%分の倍音の振幅が変わるだけです。 これで、明るい響きとなったと結論付けるのはどうかと思います。 言い方を変えれば、単音を補強した、極めてストレートな音と言えそうです。 個人的な意見としては、メジャーコードは単音の延長線上にある素直なコードと思っています。

次のサンプルは、C5、E5、G5と鳴らし、Cメジャーコードを構成します。 そして最後にベースのC3を鳴らしています。 この和音を構成する倍音は、C3のベースの倍音に重なっていることが分かる例です。

マイナーコード1

マイナーコードはルートに対して短3度が要となります。 ルートの倍音で短3度が出現するのは19倍音で、平均律でもズレは気になりません。 ただし、倍音が2桁で、基音との関係は薄れます。 とりあえず同じように実験してみます。
C6、Eb6、G6と鳴らし、Cmコードを構成します。 その後ベースC2を鳴らしています。理論的にはCmコードのままです。 ベースC2の倍音内にすべての倍音が納まっていて安定しています。 ただし和音がベースから離れ過ぎている問題があります。 またベースが鳴ったとたんに構成倍音が単音と変わらなくなり、悲しいコードと言い切るのは微妙な気がします。 やはり19倍音という距離が大きな問題のようです。ベースから離れるほど、その音の自由度は増すと言えます。

マイナーコード2

次に別の解釈を試みてみます。 メジャースケールの中で、低次倍音かつ短3度の関係を探してみます。 まず思い浮かぶのが、5倍音の長3度と、3倍音の5度のインターバルは、短3度の関係となり使えそうです。 サンプルはE5とG5を使いました。 ここに本来の基音C3を入れたとたんにメジャーコードになって安定しますが、 ルート音を省略すると、マイナーコードが成立し、不安定な響きとなります。 つまりベースが重要で、ベースが不在になることで、和音の性質が変わるということです。 悲しいコードというよりは、安定するために必要な音が足りない状態のコードです。

サンプルはE5、G5、B5を使ってマイナーコードを作っています。 C2をベースとすると、すべての和音はC2の倍音の中に入り、マイナー感は消え、CM7コードとなります。 最後にベースをC2からE3へ変えてEmコードにしていますが、やや不安定な響きとなり、それはスペクトラムアナライザからも伺えます。 これがマイナーコードの正体と言えそうです。

結論:メジャーコードは原色で単音の延長線上の音

結論としては、ストレートなメジャーコードと、その仲間のコードは、単音の延長線上にあり、単音を補完した和音にすぎません。 これを明るい響きとすることが多いですが、個人的には曇りや濁りがないストレートで力強い響きという印象です。 色に例えると他の色が混じっていない原色という感じでしょうか。 以下のサンプルはメジャーコードをコードではなく単音として扱ってみました。 基音のノコギリ波の倍音にすべての和音は含まれているため、単音扱いしてもよいという解釈です。

結論:マイナーコードは混色で濁った不安定な和音のひとつ

マイナーコードは、メジャーコードの根音省略という位置づけです。 ベースを変更することでメジャーコードにすることができます。 そうやって不安定さを回避できることから、不安定さは弱めのコードと言えます。 サンプルは濁ったマイナーコードを弾いて、ベースを安定する音に移動するということを、同じ調で3パターン弾いています。 ノコギリ波なので、明確な濁りと解決が感じられると思います。 以上が倍音から見たマイナーコードの明らかなことです。 では、悲しい響きかどうかということですが、個人的には、使い方次第だと思ってます。 ただ、そういう演出に使いやすい響きであることは歴史的にも裏付けされています。 これも色に例えると分かりやすいと思います。 メジャーコード以外は混色された色で、使い方次第でいくらでも変貌する可能性があるということです。

以上が、倍音からみた和音考察の一部となります。 不安定さは混色のようなもので、原色からどれだけ離れているかで不安定さを示せると思います。 上記のような考え方を、アレンジに応用することは有意義だと思います。 特にベースの在処が重要で、コードそのものを変化させる力を持っていて、全体の印象を大きく変えてしまいます。 実際の楽曲は、全体の調性の中で、安定と不安定を行き来させ、成立させています。 また和音構成だけでなく、音色にも直結しているため、倍音が豊かなサウンド、そうでないサウンド、もしくはサスティーンがあまりないサウンド、ノイズが多いサウンドなど、演奏される楽器によっても大きく左右されます。 楽器の音色とアレンジは密接な関係があるということが伝わると嬉しいです。


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achapi

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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