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蠱惑の楽器たち 10.楽器の音色(倍音1)

2021-09-28

Theme:sound&person

■ 音色の重要性

音楽は音程も重要ですが、音色が心地よくなければ音楽として楽しめません。楽器としては音色に魅力がなければ誰も使ってくれません。音楽の中で音色が担っている役割は想像以上で、音色が音楽の全てを決定づけてしまうと言っても大げさではないと思います。一見つかみどころがない音色ですが、いくつかの方法で分解することで、その仕組みが見えてきます。

■ 楽器の音色は基音と倍音で構成されています

同じC4(261.6Hz)を鳴らしても、楽器ごとに音色が違い、何の楽器か判別できます。音色の差は、倍音の出方の違いによるところが大きいです。もし楽器に倍音が無かったら、どれもサイン波のような音になり、音色という概念すらなくなってしまいます。実際の楽器は基音より上の音も同時に出ていて、音色を作っているわけです。

下はピアノのC4(261.6Hz)の音で、高い周波数にも山があることが確認できます。この山のピークが倍音で、基音に対して整数倍に位置しています。高い倍音になるほどレベルが下がっていくところもポイントです。このようにきれいに自然倍音で構成されていれば音程を感じることができます。もし倍音が自然倍音から大きく外れると音程感を感じにくくなります。またピアノではC4よりも低い音も出ていますが、これはアタック時のノイズ成分や他の弦の共鳴音です。これらの音と一体となってピアノらしい音ということになります。

周波数スペクトルの横軸は対数となっていて鍵盤と対応しているのが分かると思います。対数と人間の感覚は近く、何かと便利なのです。図では分かりにくいですが、自然倍音と平均律はズレがあるため、ぴったりと鍵盤に合っているわけではありません。

次に高いC8(4186Hz)の例です。倍音は少な目で、オクターブ上の2倍音が少しあるぐらいです。下のグレーの部分はノイズと共鳴音です。出しているC8の音よりも他の低い成分の方が大きいことが分かると思います。

逆に低いC2(65Hz)は倍音が豊富です。一般的に低音域ほど倍音が多くなる傾向にあります。ピアノの場合、低い音になると2倍音のレベルが基音を上回ってしまいます。

さらに低いC1(32.7Hz)はどうでしょうか。基音のレベルは著しく低く、2倍音以上から、ちゃんと鳴っているという印象です。ただ音は重低音という感じになります。音を聴いて低く感じるのは、基音成分よりも倍音構成がオクターブ下になる影響の方が大きいのかもしれません。この周波数スペクトルを見るとピアノの低域はかなり無理していることが分かるでしょう。

以下は、基音をC3として、その32倍音までを表にしてみました。平均律との差もセント単位で表記しておきます。

倍音 音程 音名 平均律との差(セント)
基音 ユニゾン C3 ±0
第2倍音 1オクターヴ C4 ±0
第3倍音 1オクターヴと完全5度 G4 +1.955
第4倍音 2オクターヴ C5 ±0
第5倍音 2オクターヴと長3度 E5 -13.686
第6倍音 2オクターヴと完全5度 G5 +1.955
第7倍音 2オクターヴと短7度 B♭5 -31.174
第8倍音 3オクターヴ C6 ±0
第9倍音 3オクターヴと長2度 D6 +3.910
第10倍音 3オクターヴと長3度 E6 -13.686
第11倍音 3オクターヴと増4度 F♯6 -48.682
第12倍音 3オクターヴと完全5度 G6 +1.955
第13倍音 3オクターヴと長6度 G#6 +40.528
第14倍音 3オクターヴと短7度 B♭6 -31.174
第15倍音 3オクターヴと長7度 B6 -11.731
第16倍音 4オクターヴ C7 ±0
第17倍音 4オクターヴと半音 C#7 +4.955
第18倍音 4オクターヴと1音 D7 +3.91
第19倍音 4オクターヴと短3度 Eb7 -2.487
第20倍音 4オクターヴと長3度 E7 -13.686
第21倍音 4オクターヴと長3度+1/4音 F7 -28.909
第22倍音 4オクターヴと長4度 F#7 -48.389
第23倍音 4オクターヴと増4度 F#7 +28.274
第24倍音 4オクターヴと完全5度 G7 +1.955
第25倍音 4オクターヴと増5度 G#7 -27.372
第26倍音 4オクターヴと長6度 G#7 +40.267
第27倍音 4オクターヴと長6度+1/4音 A7 +5.865
第28倍音 4オクターヴと短7度 A#7 -31.174
第29倍音 4オクターヴと短7度+1/4音 A#7 +29.345
第30倍音 4オクターヴと長7度 B7 -11.731
第31倍音 4オクターヴと長7度+1/4音 B7 +44.817
第32倍音 5オクターヴ C8 ±0

上記を、弦の長さに例えて対数ピアノ鍵盤上に並べてみると以下のようになります。

基音が一番長い弦で、2倍音は1/2の長さという具合です。自然倍音は、きれいに整数分の一になっているわけです。2のべき乗(2、4、8、16、32・・・)はオクターブの関係です。倍音の出現する順番と、その音程には、音律やハーモニーなど音楽の基礎となる構造が隠れています。次回は倍音成分がもたらす音色について解説したいと思います。


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achapi

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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