■ TEO-5での音作り…その前にカーズの誕生
1977年辺りで台頭したパンクロックというムーブメントがありました。私は鍵盤屋なのでキーボードの入っていないセックス・ピストルズやクラッシュなど、ギターむき出しの音には全くなじめませんでした。
パンクブームはロンドンが発祥ですが、その流れはアメリカ、ニューヨークに渡り、様々なフィルターを通過して、新しいカテゴリーが生まれます。
それはニュー・ウェイヴとカテゴライズされました。
トーキング・ヘッズやXTC、ブロンディといったバンドがニュー・ウェイブに括られます。
そんなニュー・ウェイブの流れの中で、パンク・ロックにメロディアスな要素を加え、機械的なリズムを取り入れて、より洗練されたサウンドを生み出したバンドが登場します。
そのバンドこそが、カーズです。カーズはアナログ・シンセサイザーを大胆にフィーチャーしたサウンドで人気を集めました。
彼らの音楽性は、パンクとは一線を画し、より知的で洗練された方向に振れたものでした。5枚目のアルバム『ハートビート・シティ』は全米アルバムチャートで3位を記録するヒットとなります。
MTVがブレイクした1984年には、シングルカットされた「ユー・マイト・シンク」のプロモーション・ビデオが、第1回MTVアワードを受賞。チープな質感とユーモアにあふれた、洒落た映像作品として高く評価されました。
カーズは、ニューヨークのアートシーンで中心的な存在だったアンディ・ウォーホールとも交流がありました。アルバム『ハートビート・シティ』に収録された楽曲「ハロー・アゲイン」では、なんとその巨匠ウォーホール本人と、プロモーション・ビデオで共演を果たしています。
また、アルバムジャケットに見られるセンスあふれるアートワークからも、彼らの持つ知的で洗練された感性がうかがえます。他のバンドとは一線を画す、ハイレベルな表現力を持っていたことは間違いありません。
■ カーズが使ったニューウェイブなシンセサウンド「ハードシンク」
今回のリポートでは、アンディ・ウォーホールが出演したプロモーション・ビデオ「ハロー・アゲイン」で使われている、シンセサイザー音のスタンダードとも言える“ハードシンク”という音に注目します。
ハードシンクとは、2つのオシレーターを強制的に同期させることで、強制的に音色変化する波形を作り出す機能のことです。
このオシレーター・シンクを使うと、それまで独立して発音していた2つのVCO(ボルテージ・コントロール・オシレーター)は、マスター側のVCOの音程にスレーブ側が強制的に従うようになります。その結果、複雑な波形が生成されるのです。これが、いわゆるハードシンクです。
言葉で表すなら、「ギョーギョー」「グューグュー」といった濁って歪んだ“汚い音”です。2つの異なる波形を強制的に1つにまとめることで、あの強烈なハードシンク・サウンドが誕生します。
この音は、シンセサイザー「プロフェット5」の専売特許的な音であり、多くの人が知ることになります。カーズのキーボーディスト、グレッグ・ホークスもプロフィット5の使い手であり、このハードシンク・サウンドがお気に入りでした。
「ハロー・アゲイン」のほかにも、「レッツ・ゴー」や「ジャスト・ホワット・アイ・ニーデッド」などでもハードシンク・サウンドは効果的に使われています。とくに「ハロー・アゲイン」では、楽曲のテーマともいえるリフをハードシンク・サウンドでキメていて、その使い方は見事の一言です。
ハードシンク・サウンドはかなりアクの強い音なので、あまり多用し過ぎるとToo Much感が強くなってしまうので、使い手のセンスが問われるところです。
私がこれまで見たライブでも、プロフィット5を使うミュージシャンはソロの時には必ずといっていいほど、ハードシンク・サウンドを使っていました。たとえば土岐英史さんのバンド「チキンシャック」では、キーボーディストの続木徹さんが、ローズピアノの上に置かれたプロフィット5で、ピッチベンドを効かせながら強烈なハードシンク・サウンドでソロをとっていたのが強く印象に残っています。
■ TEO-5でハードシンク・サウンドを作る

フィルターミキサーのOSC2、オシレーター2ボタンを押して有効にする

SYNC(シンク)ボタンを押してSYNCを有効にする

OSC1、オシレーターのFreq(周波数)、フリケンシーをⅭ+2に設定
これによってピッチモジュレーション(周波数変調)の幅が拡大し、よりハードシンクの効果が強調されます。

キーボードのオクターブを0から-1にセット
これによりOSC2、オシレーター2がOSC1、オシレーター1よりも1オクターブ下がり、更なるハードシンク効果の準備が整います。

エンベロープセクションでENV1をAuxに、ENV2をFilter+Ampに設定
これによりENV1、エンベロープジェネレーター1でOSC1、オシレーター1をピッチをモジュレーション(変調)するための補助的、エンベロープ機能として使用できることになります。

バリューノブでアマウント(変調量)を+100にし、Osc1Freqをディストネーションに指定
これによりENV1、エンベロープジェレーター1のADSR(アタック、ディケイ、サスティン、リリース)波形でOSC1のピッチをモジュレーション(変調)することができるようになります。更にアマウント値を変えることで音に変化をもたらします。

EVN1でハードシンクさせる波形を設定
EVN1のアタック9時方向、ディケイ1時方向、サスティン10時方向、リリース11時方向に設定。この設定はあくまで好みです。演奏者のハードシンクのイメージでの設定をして下さい。最後はENV2で音の立ちあがりと減衰を設定します。
このプロセスでハードシンク・サウンドを作ることができます。
以前はオーバーハイムのシンセサイザーにこのシンク機能が付いておらず、ハードシンク・サウンドはプロフィット5のウリになっていました。シーケンシャルのデイブ・スミス氏と、トム・オーバーハイム氏がコラボレーションすることで、このハードシンク・サウンドをオーバーハイム・シンセサイザーでも作れるようになりました。
歴史的シンセッサイザー、プロフィットを作り出したデイブ・スミスに敬意を表するばかりです。
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